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魔力


「私の記憶をこのタイミングで戻したのはその能力を貰うのと何か関係があるの?」


 なぜこのタイミングで記憶の封印を解いたのか尋ねる。


「そうよ」

「お前が持つことになる大量の魔力を体に収めることは一般の5歳児には難しい」

「私たちもごくわずかな魔力を体に収めるのにかなり苦労したわ」

「おそらくお前が授かることになる魔力量は俺たちとは比べ物にならない」


 ヒューマニアである私は魔力量チートが確定しているらしい。


「魔力を上手く体に収められなかったらどうなるの?」


 恐ろしい答えが返ってくることを予想しながらも尋ねる。

 母さんは口を閉じて父さんのほうを見る。

 母さんからの視線を受けた父さんがゆっくりとその口を開く。


「収まりきらない場合には入れ物である体が形を保てなくなってしまう」


 つまりは爆発するということだろうか。

 血の気が引いていくのを感じる。


「セイン、あなたなら大丈夫よ」

「そうならないためにお前の封印を解いた」


 折角もふもふ獣人ワールドに転生したのだ。

 私も今世を満喫したい。


「どうすれば良いのか教えて、父さん、母さん」


 父さんたちによると基本は神様の言うとおりにすれば大丈夫らしい。

 前世は無神論者であった私はとてもじゃないがそれだけの情報では安心できない。


「突然体にエネルギーが押し込まれるから、それを上手く体中に巡らせると良いわよ」

「血流に乗せて全身を循環させる感じ?」


 左心室から体循環に送り出し、体の隅々を通して右心房に戻すイメージで良いのか尋ねる。


「血流とはなんだ?」

「私も聞いたことがないわ」


 困惑する両親を前に私も困惑する。


 そういえば、うちにはあんなにたくさんの本があるのに医学書が一冊もなかった。


「この世界に医者っている?」


 根本的なところから質問をする。


「医者とはなにをするものだ?」

「病気や怪我の治療をする人のこと」

「体調が悪い時には薬草学者が作る薬を飲むが、怪我は自然と治るのを待つものだろう?」

「病気は罹ってしまったら神様に祈るしかないわ」


 なんと、この世界には医学もなければ医者という職業もないらしい。

 病気という概念はあるのに不思議だ。

 となれば冒険者をしながら私がお金を稼ぐために前世の獣医としての知識を生かすことができるのではないだろうか。



 ちなみに薬草学者である母さんたちが作っていた薬は前世でいうところの栄養剤的なものらしい。

 風邪を治すだとか咳を止めるだとかいう効果ではなく、疲れた時に飲むとちょっと元気になるそうだ。

 どうりで父さんも母さんも一種類しか薬を作っていなかったわけだ。

 薬のレシピは個人個人で異なるらしく、どの薬を飲むとより強い効果が出るのかは個体によるらしい。

 薬を作る時に魔力を混ぜている父さんと母さんの薬は巷で効果が強いと大人気なんだそうだ。


 魔力による体の爆発への恐怖は気がつけばどこかへ行ってしまっていた。

 なにはともあれ5歳を迎えなければ何も始まらない。

 前世30年で培ってきた漫画の知識を総動員すればなんとかなるのではないか、と思い始めた私であった。




 私が思い出せる前世の記憶は仕事のことがほとんどだ。


 そこそこ勉強ができた私は周りから医者になることを勧められていたが動物が好きだった私は医者ではなく獣医になることを選んだ。

 これが人生最大の間違いであったことに気づくのにそこまで時間はかからなかった。

 大学受験まで時を戻せるのであれば私は迷いなく医学部に行くことを希望する。


 家庭環境は良好ではあったが、不幸なことに両親は私が大学在学中に飛行機事故で亡くなってしまった。

 その際の賠償金や両親の保険、遺産があったおかげで問題なく大学を卒業できた。

 就職して獣医師として働き始めたは良いものの、6年間大学に通ったにも関わらずそれに見合わない給料と長時間労働に辟易としていた。

 仕事で可愛い動物たちと触れ合えることだけが仕事を続ける理由だった。


 30歳になるかならないかでそれ以降のことが思い出せないということは、その頃にこちらの世界に来たのだろう。



 それにしても獣人の世界とはなんと甘美な響きだろうか!


 相手がもふもふであることも素晴らしいがきちんと意思の疎通が可能なことも素晴らしい。

 ぜひとも猫の獣人にまたたびを与えて、その時の気持ちを伺いたいものだ。





「私、この世界にいる全種族ともふもふするために冒険者になりたい!」 


 今世の夢を初めて両親に打ち明けた瞬間であった。

 その時の私を見る両親の残念そうな顔を一生忘れることはないだろう。



なかなか5歳にならない主人公

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