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食の歴史が変わるかも?


「これはなんの匂いだ?」


 お昼ご飯が完成したことを両親に伝え、地下室から出てきてもらう。

 早速嗅ぎなれない匂いに父さんが反応してくれた。


「ふふふふ。これはペペっていう植物の実を使った()()()っていう、料理の味付けに使う物だよ」

「なんだか刺激的な匂いね」


 前回のメラの時も思ったが、母さんはかなり好奇心旺盛、父さんは若干保守的なようだ。


「肉の臭みを消してくれたり、後は適度な量であれば健康にも良いんだよ。一応、今日は初めてだから父さんたちの分はペペをかなり少なめにしてるけど、もし匂いがきついとかあればぺぺ無しのもすぐ準備できるから言ってね」


 そう言って父さんたちの分の薬草茶を差し出す。


「じゃあ、いただきます」


 ああ、なんて美味しいんだろう……。

 今までの素材を焼いただけ、水で煮ただけから胡椒を加えた途端に()が生まれる。


「……すごいわね」

「……ああ。これは食事の革命だ」


 どうやら両親も気に入ってくれたようでフリット肉を食べる手が止まらない。

 その様子を見ながら私はリゾットにも胡椒を少量加える。

 途端にパンチのある味になる。


 ……ああ、幸せ。


「ペペって言ってたわよね?」

「うん」 

「匂いがあまりにも強いから何かに使おうなんて考えたこともなかったわ……。お肉とこんなにも合うなんて……」

「前の世界で同じような植物があって、本当は乾燥させて使うんだけど、すぐにでも食べたかったから今日は生の実を使ってるの。明日からしばらくフリットのペペ焼きになるけど良い? 何日乾燥させれば一番美味しくなるか実験したいの」

「しばらくフリットが出てくるのは構わない。

 ……お前の食への拘りをずっと不思議に思っていたがこんな料理を食べてたなら納得だ」

「食事にこだわるのはヒューマニアの性だと思う」


 言っていて思わず苦笑いをしてしまう。


 本来食事は栄養が取れれば良いはずなのだ。

 それをより美味しく、と追及していったのは完全に人間の食に対する欲望だろう。


「二人とも、今日はペペ少な目にしてるけど、この後体調が崩れないか様子見てね。特に吐いちゃうとか下痢しちゃうとかあれば教えて」

「ええ。分かったわ」


 ある程度の量を準備していたフリットのペペ焼きは完食した。

 二人の体調に問題ないようであれば、明日から少しずつ使うペペの量を好みに合わせて各自調節してもらおう。



 結局フリットのペペ焼きは4日間続いた結果、3日間の天日干しが一番風味が良い、という結論に至った。

 その後私は再びペペを採りに行き、乾燥させたものを両親から貰った古い乳鉢と乳棒でパウダー状にして瓶に詰める作業を行った。



 その作業を続けている間にも私の見た目を補正するためのネックレスの試作品第二弾、第三弾が作られ、母さんたちは魔法陣を完成させた。

 やっぱり私自身は自分の見た目がどう変わっているのか見えない。

 母さんたちには町を歩くのに全く問題ない姿になっている、とだけ言われた。

 

 母さんから貰った瓶にぺぺの粉がいっぱいになる頃、私のネックレスが正式に完成した。


「さあ、セイン。使ってみて」


 青みを帯びた透明の魔石が光に当たってキラキラしていて綺麗。

 首にネックレスを掛けると少量ではあるが、自分でも感知できるくらいの量の魔力が魔石に吸い取られたのを感じた。

 これだけの魔力量を吸われる道具は私以外には使えないだろう。


「どう? 大丈夫そう?」

「ええ。ばっちりよ。これならグアルタの店に行っても問題ないわ」

「若干複雑な思いはあるがな……」


 悪戯っ子のような顔をしている母さんと複雑そうな表情を見せる父さん。

 異なる二人の表情に首を傾げながら、グアルタさんのお店に行っても大丈夫、と言う言葉にテンションが上がる。


「グアルタさん、次いつ来れるかな?」

「前回こっちに来たのが2週間前だからねぇ。普段であればもう2週間くらいは来ないけど」

「魔石採るためにしばらくお店閉めててもらってたからしばらくは来れないかな?」

「いや、連絡すればすぐにでも来ると思う」


 連絡して直ぐにでも町に行きたい欲望とグアルタさんの迷惑になるのは嫌だなという思いが交錯する。


「母さんと父さんにもリゾットと煮メラ、粉末ぺぺの作り方教えたいから数日はグアルタさんからアクションがあるまで待とう」


 私がいない間も両親には是非美味しい物を食べてもらいたい。

 


 作り方としてはどれも難しいものではなかったので、二人に作り方を教えるのに一日、二人に作ってもらうのに一日、の合計二日で終わってしまった。

 この間グアルタさんからの連絡はなかったので、父さんに魔道具を使って連絡を取ってもらった。


「2日後に来るそうだ。ソフィア、グアルタの店で薬の在庫が切れそうらしい。次来た時に納品もお願いしたいそうだ」

「いつもより在庫が切れるの随分早いわね。しばらく店を閉めていた反動かしら?」

「かもしれん。俺たちもセインのネックレスにかかりっきりだったから急いで薬を作ろう」


 グアルタさんがくるまでは薬を作り続ける、と言い残して二人はまた地下へと消えていった。



 

 二日後の朝。

 結局本当に二人はご飯の時以外はずっと地下に籠ったまま2日間を過ごしていた。


「急がせて悪かったな」

「構わない。もともと俺たちの頼みごとが発端だからな」

「今日からはしばらく休むから心配しないで」


 グアルタさんと両親の間でのやり取りが終わると、二人は私に注意事項を伝えていく。


「家の外では絶対にネックレスを外さないこと。実際に変化してるわけじゃなくて、幻として毛が生えてるように見せてるだけだからなるべく他人には触られないように気をつけて」

「何かあったらすぐにグアルタに言うんだぞ。お前は決して体が強いわけではないから慣れない仕事で体調を崩すかもしれん」

「はーい」


 二人からのありがたいお言葉を頂き、首にネックレスをかけてもらう。

 やっぱり私には周りからどんな風に見えているのかは分からない。

 

「おお!」


 グアルタさんがすごく反応した。


「どう? ちゃんとみんなと同じように見えてる?」

「自分じゃ分かんねーのか?」

「うん、そうなの。私から見るといつも通りの自分にしか見えないんだ」

「小せぇクマデートに見えてるぞ」


 え?

 クマデート?

 サルージアじゃなくて?


 少し驚いて思わず両親を見上げる。

 その視線を受けた母さんは悪戯の成功を喜ぶような顔をした。


「ふふ。グアルタの店でお世話になるならクマデートの方が良いかなって思ったのよ」

「俺はサルージアで良いんじゃないかって言ったんだがな」


 なるほど、あの時の二人の表情はそういうことだったのか。


「いってらっしゃい」

「がんばるんだぞ」


 グアルタさんは二人が納品した薬を持って先に玄関を出ていった。

 ゆっくり歩きながら私が両親に挨拶を済ませるのを待ってくれているらしい。


「ありがとう」


 私は二人に抱き着き、改めて二人に感謝の念を伝える。

 二人のおかげで不自由なく町へと行くことができる。



「行ってきます‼」



 喜びがあふれ出ているであろう笑顔で二人に出発の挨拶をする。

 そして先に出ていったグアルタさんを追いかけた。






 まあ、毎日家には帰ってくる予定なんだけどね。

皆さまいつもお付き合いいただきありがとうございます。

これにて第一章は完結です。

次回からはグアルタと町での生活がメインの第二章に突入でございます。

引き続き応援よろしくお願いいたします。



面白かった、と思っていただけたら評価やブックマーク、いいねをいただけると大変励みになります。

お時間があればよろしくお願いします。

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