ペペの実
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今後も主人公の応援お願いいたします。
「次は俺と一緒にセインも町に行くから準備しとけよ」
次の日に朝ごはんを一緒に食べた後、グアルタさんはそう言い残して自分のお店があるナペルの町に帰って行った。
そして我が家は、と言うと、絶賛私がお願いした魔法陣の性能チェックに明け暮れている。
「セイン、まずはこれから試してみて」
グアルタさんが町へ帰った翌日、小さいサイズの魔石を使用したネックレスを渡された。
私がお願いしていた道具の試作品ができたのだ。
渡されたネックレスを首にかけると、かけた瞬間わずかに魔力の揺れを感じた。
だが、それ以外に大きな変化はないように思う。
鏡がないので自分がどうなっているのか見ることができない。
「どう?」
「……失敗ね」
「ああ」
なんだか両親がすごい顔をしているのだが、一体どんな風に見えているのだろうか?
外すよう言われたネックレスを母さんの手に返す。
そして、次はこれ、と渡された物をつける。
これを繰り返すこと4回。
「この魔法陣が良さそうね」
「ああ。これに少し修正を加えよう」
そう言い残して二人はまた地下へと消えていった。
このネックレス作りをお願いしてからというもの、父さんも母さんもめっきり地上で見かけなくなってしまった。
楽しそうで何よりである。
そんな二人のために今日も私は森へ採集に向かう。
マシュムがあれば出汁がとれるから、それを使って何か作ろう。
あとは教授を使ってスパイスとして使えそうな植物がないか調べよう。
本日のタスクとしてこの二つを掲げ、魔力を使わずに森の中を歩いていく。
魔力を使うと筋力と体力が残念ながら鍛えられないようであることにこの数日で気付いたのだ。
魔力は便利だが万能ではない。
こういう異世界転生ものなら普通、魔法は万能であるはずなのにやはり現実ではそう上手く行かないみたいだ。
教授を片手に次々と森の中の植物の写真撮影を行っていく。
今のところ使えそうな植物はない。
途中で見つけたマシュムを採りながら進んでいく。
そして森の中を流れる川を目にした時、私は気づいてしまった。
川をずっと辿って行けば海に出るのではないか?
海水を使えば塩を採れるのではないか?
そして海の海産物を食べることができるのではないか??
冒険者として遠くに行くことができるようなったらまずは川を辿って行こう。
海が私を待っている。
新たな目標ができた私は今の人生になってからやりたいことが次から次へと出てくる。
それらをできるようになるのが楽しみで仕方ないのだ。
そんな人生を歩めていることに肉体年齢5歳ながら嬉しく思う。
昨日の夜に考えていたことに関してはあまり悲観的に考える必要はないだろうという結論に至った私は未来に向かって生きていくと決めたのだ。
そもそもヒューマニアという種族の存在はほとんど知られていない。
冒険者になる私に危険があるとすれば町や村にいる神殿関係者だろう。
なので神殿にさえ接触しないように気を遣っていればなんとかなるだろうと私は判断を下した。
いろいろなことを考えながら歩いていると教授の画面に私が求めていた文字が現れた。
―――ペペ―――
果実に強い芳香と辛みがある植物。
その文字が現れた木に近づき、私は実がないか探す。
前の世界のものとはわずかに異なるようだが、実があった。
粒の一つ一つが私の知っている物よりも大きい。
実の生り方も記憶ではもっと縦長なイメージだったのだが、ペペは実はまるでぶどうのように逆三角錐の形を作っている。
色は緑色のものしか見つからない。
匂いは、確かに教授が言うようにスパイシーな匂いがしている。
ほぼ間違いない。
これはきっと、“胡椒”だ‼
実を一房だけ採集して、大事に手に抱えて家へと向かう。
家にまだフリッタの肉残ってたかな?
残ってなかったら、荷物を一旦家に置いて、狩りに行こう。
今日のメニューは肉の胡椒焼きです。
誰が何と言おうと決定です。
急ぎ足で家へ戻った私はキッチンを確認し、フリッタ肉がほとんど残っていないのを見ると狩りに出かけた。
フリッタを4匹ゲットした私は胡椒を発見したあの高揚感から少し落ち着いた。
そしてあることに気づいてしまった。
……胡椒の実、乾燥させないとじゃん……
そのことを思い出した私は狩ったフリッタを手に帰りながら泣いた。
血抜きと皮剥ぎを終えたフリッタは備蓄用と今から使うように分けた。
胡椒の実、じゃなくてペペの実はすでに天日干しを始めているところだ。
どれくらい乾燥させれば良いのか分からないので実験と称して今日から毎日フリッタの胡椒焼きを作ることに決めた。
私はお店でしか食べたことがなかったが、確か生胡椒っていうのがあった気がする。
まるまる胡椒の実を料理に乗せていたような記憶だが、私はペペの実をみじん切りにさせてもらおう。
如何せん実の大きさが前の世界の胡椒と比べると大きいのだ。
さすがにこれを丸ごとドーンと肉の上に乗せるのは憚られる。
みじん切りにしたペペの実をフリッタ肉に揉みこむ。
下準備を済ませたフリッタ肉を外にあるBBQコンロみたいな調理器具を使って焼いていく。
スパイスの香りが鼻を擽る。
思わず口の中で唾液が過剰分泌される。
父さんたちの分はペペの実をかなり少なめにしている。
一応教授で確認した限り、父さんたちが食べても成分的には問題なさそうではあったのだが、念には念をだ。
胡椒は本来動物が食べるのはNG。
胡椒の中のピぺリンという成分は血管拡張を間接的に引き起こすことで血流を良くしたり、アドレナリン分泌により基礎代謝を促進したりと良い効果が多いのが、これらの効果も過剰になれば毒だ。
また、胃腸に負担をかけるとも言われているので、慣れない人が食べると消化器症状が出る可能性も大いにある。
肉だけではあれなのでキッチンでポプとスープのリゾット風も一緒に作って今日のお昼ご飯完成だ。
つまみ食いをした私はあまりの美味しさに気絶しそうになった。
ペペの実はやっぱり胡椒の味だったのだ。
乾燥させた胡椒とはまた違った美味しさなので、生は生であり、という結論に至った。
保存のことを考えるとやはり乾燥の工程は必要なのだが。
さあ、両親を呼んで本日も試食会の開始である。
海に行きたい主人公。
川魚は好きじゃないので川魚に興味はなし。
目指すは大海原‼