5歳の誕生日直前
2022/06/22
話数が増えている割に話が進んでいないことを反省し、短い話を合体させる作業を行っています。
大幅な修正申し訳ありません。
もうすぐ私の5歳の誕生日。
グアルタおじさんもお祝いに来てくれるって前回来た時に言っていたので楽しみだ。
母さんと一緒に洗濯物を外に干し終えると、
「セイン、後で一緒に境界線まで行こう」
テーブルで三人分の薬草茶を入れていた父さんから声を掛けられる。
「ほんと!?」
今まで頑なに私を遠ざけていた境界線にやっと近づけるんだ!
喜びにアワオドリをしたくなる。
「ん? アワオドリってなんだっけ? 父さん、母さん知ってる?」
「知らないなぁ」
「どこか遠いところの踊りかしら?本で読んだんじゃないの?」
最近、父さんと母さんも知らない単語がふと頭に思い浮かぶことが多いのだ。
そういう時に父さんたちに単語の意味を尋ねると二人そろって少し困ったような顔をしている。
私自身どこでこのような単語を知ったのかはわからないが、大方家の中にある本のどこかに書いてあったのだろうと思う。
我が家には多種多様な本が集まっている。
父さんたちが仕事で使う薬草の本はもちろん、遠い民族の伝統の話だったり、昔にあったとされる神様たちの話だったり。
最近の私のお気に入りは様々な種族の特徴をまとめている図鑑だ。
父さんたち以外の人と触れ合うことがない私はこの図鑑を通して世界の広さを学んでいる。
いつか世界を旅する冒険者になるのが私の将来の夢だ。
その図鑑によると父さんと母さんと私はサルージアと呼ばれる種族らしい。
体力と筋力は他の種族に劣っているが知力を多く持ち、勉強好きな個体が多いのが特徴。
他の種族ではあまり見られない、魔力持ちが現れる確率が高いのもこの種族の特徴だ。
赤ちゃんの頃は体に毛が生えていないせいで寒さに弱く、この頃のサルージアは最も脆弱な種族と紹介されている。
なるほど父さんたちが私の体が弱いとずっと言い続けるわけだ、とこの図鑑を読んで納得した。
陸上生活を送るために毛皮は必須だ。
しかし私は5歳になろうとしているのにいまだ頭と目の上にしか毛が生えていない。
他はつるつるなのだ。
父さんたちはいずれ全身にも生える、と言っているが本当に生えるのか疑問に思っている。
薬草茶を飲み終わった私は両親と手を繋ぎながら境界線へと向かう。
途中で休憩をしたり野生の魔獣を観察したりしながらのんびりと歩みを進めていく。
およそ1節歩いただろうか。
「ここが境界線だ」
父さんの声に足元に向けていた視線を前へと向ける。
そこにあったのはてんてんと置かれた私の膝丈くらいの石とその間を繋ぐ縄だった。
「触ってもいい?」
父さんと母さんが頷いたのを確認して境界線へと駆け寄る。
そっと境界線を形成している岩に触れるとかすかに暖かい。
縄にも触れてみるが、こちらは別に暖かくなかった。
境界線の外側に視線を向ける。
森が続いているはずなのになんだか視界がボヤっとしている。
「なんで境界線の向こうはぼやぼやしてるの?」
疑問に思ったことをそのまま両親に尋ねる。
「この境界線は私たちが作った魔法陣の一種なの」
母さんが静かに話し始めた。
母さんたちは昔王様がいる王宮ってところで働いていたらしい。
筋力、体力が他の種族と比べてかなり劣るサルージアとしては異例のことだったそうだ。
しかし、勉強好きなサルージアの中でも飛びぬけて勉強が好きだった父さんと母さんはあまり使える人のいない魔力を使えるようになった功績で王宮の技術部へと配属になった。
技術部は今はもう作ることのできない魔道具の修理をしたり研究をする部署で、研究者としては最高の職業だった。
そこで母さんたちは魔道具や魔法陣の研究をしていた。
魔道具はわずかな魔力でも作動させることが可能だが、父さんたちが編み出した魔法陣は一定量以上の魔力が扱えないと作動しない。
魔法陣を作り、作動させることができるのが他の種族から見下されることの多いサルージアであるという事実は上層部にとっては恥だったのだろう、と父さんは母さんの話に付け足した。
王宮内で嫌がらせを受けることに疲れた父さんたちは自分たちを探そうとする人たちには父さんたちが一切認識できなくなる魔法陣を組んでその中で静かにスローライフを送り始めたらしい。
魔法陣の中から見えるボヤっとした景色は認識阻害がかかっているためだと説明された。
「そんな私たちのところへある日あなたがやってきたの」
母さんが私の手を引っ張ってどこかへと向かっていく。
「この場所に5年前、光の柱とともにあなたが現れたわ」
そう言いながら母さんは平べったい大きな岩の前で止まった。
黒々と光るその岩は表面がつるりとしていて机のように上側が平らになっていた。
「セイン、あなたはサルージアではないの」
母さんと父さんが膝をついてそれぞれが私の手を片方ずつ握る。
「神から送られたお前は伝説で語られているヒューマニアだと思う」
父さんからの視線が熱い。
母さんはなぜか痛ましい表情だ。
「今からお前の記憶の封印を解く」
そう言った父さんは不思議な言葉を発しながら私の額に光る石を当てた。
何か暖かいものが流れ込んできたな、と思った瞬間すさまじい量の情報が脳内へ流れてきた。
大量の情報をどうにか処理しながら私が思ったことはひとつだった。
(リアル猿のわく・・せ・・・・)
そして私は意識を失った。
早く話を進めたい・・・。