フェントの魔石
2日に1回の更新予定です。
その後恙なく2週間が過ぎた頃、予定通りグアルタさんが戻ってきた。
「グアルタさん、お帰り!」
「お帰りはおかしいけどな。俺の家じゃねーし」
笑いながら玄関から入ってくるグアルタさんに飛びつく。
グアルタさんの顔まりのもふもふを堪能しながらリビングまで連れて行ってもらう。
「フェント強かった? どんな魔獣なの?」
図鑑で見る限りでは狐のような見た目の魔獣で、攻撃力はそこまで強くはないのだが、幻を見せる特殊能力を持つために倒すのが中々に難しいらしいと書いてあった。
その情報が合っているのかグアルタさんに尋ねる。
「強いかっていうとそんなことはねーな。非力だし。だけどすばしっこいわ、幻見せられるわで、本体を見つけるのがすげー大変だった。まぁ、見つけちまえば倒すのは余裕だったけどな」
得意げに話してくれるグアルタさんが可愛い。
「すごいね! さすがグアルタさん!」
「グアルタ、ありがとう。大変だったか?」
地下室から上がってきた父さんと母さんもリビングに集合してきた。
「たいしたことねーよ。俺の実力は知ってるだろ?」
「それでも危険なことをお願いしたから。本当にありがとう、グアルタ。後でちゃんと必要経費と買取価格、計算してね」
「あぁ。そこは遠慮なくお願いするよ」
グアルタさんが取ってきた魔石をリビングに並べ、皆で確認する。
「これが魔石……」
初めて見る魔石に目が奪われる。
半透明のきらきらした石だ。
小さいものほど濁りが強く、大きくなるほど透明感が増しているように見える。
大きいと言っても直径10cm程だけど。
5cmくらいの小さいのと比べると十分大きい。
指先でちょんっと触れてみると石の中に魔力が込められているのが感じられる。
10個以上ある魔石の中で1個、どうにも惹きつけられる物があった。
大きさは小さいものと大きいものの中間くらい。
けれど透明度が圧倒的に高い。
わずかに青みを帯びてはいるが限りなく透明だ。
「……完成品はこの魔石を使って欲しいな」
「すげーな。魔石を見ただけで分かるのか」
「やっぱり特別な魔石なの? なんだかすごく惹きつけられるの」
「狩った地域のボスだったやつの魔石だ。フェントの上位種であるグレートフェントだったから手古摺ったがなんとか綺麗な状態で魔石を取り出せた」
「そういえば魔石ってどうやって回収するの? フリッタの魔石なんて見たことないし」
尋ねるとグアルタさんによる魔獣講義が始まった。
「魔石ってのはそもそも何かしら特殊能力を持ってる魔獣にしかねーんだよ。特殊能力の源だと思われてんだ。だから特殊能力を持ってない、普段お前が狩ってるフリッタに魔石はない。魔石がある場所は魔獣によって違うが、多くは頭か胸のところにあるから魔石を確保したい時にはその部分を傷つけないように気をつける必要がある。そんで狩った後に素早く体の中に残った魔石を探し出す。これに時間がかかると残った体の肉と魔石が溶け合ってドロドロになんだよ」
「ドロドロ……」
「あぁ。ドロドロだ。手遅れになると残ってた肉は腐るし魔石は完全になくなっちまうし最悪だ」
魔石からははっきりと魔力が感じられる。
しかし、一般には魔力を持つ人がそもそも多くないことから、これに気づく人も少ないのだと思われる。
私も実際に魔石を見るまでは獣人の魔力を溜めておくための入れ物という認識だった。
魔石持ちの魔獣が使っている特殊能力とはヒューマニアが使う魔法と等しいのではないだろうか?
魔石が頭か胸にあると言うのは脳か心臓にあるから?
どちらも生命が生きていくために優先されるべき臓器だ。
そこに魔力の核があることになんの違和感もない。
そして魔獣が死んだ後、ドロドロになってしまうのは体の中にとどめておけなくなった魔力が影響しているのだろう。
父さんたちが以前言っていたように体内の魔力を抑えきれなかった場合、体が爆発するのではなく、ドロドロに溶ける、がもしかしたら正解なのかもしれない。
しかし、もしも魔石が魔力を核であると仮定するならば魔力を持つ獣人にも魔石があるのではないだろうか?
そして、私にも。
魔力が多いヒューマニアがもしも魔石を持っていたら一体どんな大きさなのだろうか……。
もしも魔獣が使っている特殊能力が魔法である可能性を見出した人がいたとして、ヒューマニアに特大の魔石があるかもしれないと考えた人がいたら、
「セイン、どうした黙り込んで」
気づくとグアルタさんが視界いっぱいに映った。
心配そうな顔で俯いていた私の顔を覗き込んでいる。
「ううん、ちょっと考え事してて……」
「顔色が悪いぞ。今日はもう寝ろ」
「……うん。父さんたちは?」
リビングには私とグアルタさんしかいない。
いつの間に父さんたちは撤収していたのだろうか。
「魔石の話をし始めた時には実験を始めるって地下に戻って行ってたぞ」
両親がリビングを出ていったことに気づかなった自分に呆れる。
「グアルタさん、今回はどれくらいいられるの?」
「あー。だいぶ店空けてるからな。明日には戻るつもりだ」
「そうなんだ。帰る前に私が起きてこなかったら絶対に起こしてね」
「ああ。分かったからもう寝ろ」
「うん。お休みなさい」
「お休み。また明日な」
心配そうなグアルタさんに頬を撫でられながら就寝の挨拶を済ませる。
グアルタさんに見送られてリビングを出る。
自室へ向かう間も、ベッドに横たわった後も、さっきのことを考える。
なるほど、父さんたちが私の心配をするわけである。
ヒューマニアの存在は広くは知られていない。
確実に知ってるのは父さんたちが見た文献を見たことのある人物。
そしてもしかすると神殿関係の偉い人と王族。
徹底的に私がヒューマニアであることは秘匿しよう。
そう強く決めてその日私は眠りについた。
ヒューマニアであることを知られるのは危険。
はっきりとそのリスクを認識した主人公。
でも冒険には出るよ!
いつも読んでいただきありがとうございます!