グアルタの試練、結果
ポプのリゾット風は思いのほか好評だった。
食の楽しみを分かち合うことができて幸いである。
今後も精進しようと決意する。
「それで、セインは冒険者としてやっていけそうだったのか?」
「……まだ完全に大丈夫とは言い切れないが……」
何故か認めたくなさそうなグアルタさん。
鼻のところにすこし皺を寄せながら父さんに報告する。
私のことを心配してのことだとは分かっているので文句は言わない。
「まだ魔力の調節が上手くいかないこともあるから訓練が必要なのは私も分かってるよ」
「……そうだな」
今日あった出来事を父さんたちに聞いてもらう。
今まででは考えられないくらいのスピードで走れること、ずっと走っても疲れないこと、そして大きくジャンプしすぎてしまったこと。
昨日から今日にかけてはまさにファンタジーの世界で私もすごく楽しかったのだ。
アラサー+5歳だが、完全に童心に戻っていた。
「そうだ、母さんたちに相談したいことがあるんだけど」
「なあに?」
この世界ではレアな私の体毛の件についてだ。
魔力でコントロールできればベストであったが残念ながら上手くいかなかったことを説明する。
「それで思ったんだけど、ローブみたいな物に魔法陣を描いてもらって、私がサルージアに見えるようにしてもらうことってできないかな?」
「お前、そんなことに魔法陣を使おうなんて贅沢すぎるぞ」
グアルタさんから待ったがかかるが、協力してくれる母さんたちの合意さえあれば良いので華麗にスルーさせていただく。
「魔法陣を組み込むのには大きな魔石が必要になるから布よりもネックレスの方が上手くいくかもしれないわね」
「魔石はどうする? 今手元には良いのがなかったよな?」
「そうね、幻想を見せるっていう意味でフェントの魔石が良いと思うんだけどどうかしら?」
「確かに。できればA級の物が良いが試しに作ってみるならとりあえず低級の魔石でも良いだろう」
……何やら魔法陣談議が両親の間で盛り上がっている。
二人はあまり私のいるところではこういった話はしないので、研究者らしい二人の姿をまともに見るのは初めてだ。
「私あの二人がこんなに魔法陣のことで話し合ってるの初めて見た」
「ああなったらしばらく時間かかるから俺らは外に出てるか。特訓してやるよ」
「ほんと⁉」
話し合いをしている二人を見ているとグアルタさんから思いもよらないお言葉をいただいた。
勢いよくグアルタさんを振り返り、今の言葉に嘘がないか確認する。
これは冒険者になるのを認めてくれたのかな?
「魔力で色々出来るとは言え、今のままだとすぐやられちまうからな。まずは護身術として体術の訓練をするぞ」
「押忍‼」
「なんだそりゃ」
笑いながら言うグアルタさん。
ここは必殺、
「神様に教えてもらった挨拶!」
である。
「セイン、グアルタ‼ 戻ってらっしゃい!」
その後夕方までグアルタさんと一緒に家からそう離れていない森の中で訓練を続けていると母さんの声が遠くから聞こえた。
「ありがとう、グアルタさん。すっごく勉強になった」
「そりゃよかった。筋も良いし、俺も教えてて楽しかった」
「ほんと? 冒険者できそう?」
「それはまだまだだ」
笑ってそんな掛け合いをしながら家へと帰る。
家に着くと私は昼と同様汗を拭くのと着替えをしに自室へ一旦下がる。
支度を終えてリビングへ行くとご飯の準備がされており、私以外は席に着いて食べ始めていた。
今日の晩御飯はバーベキュースタイルのようだ。
野菜と肉を焼いて食べる。
シンプル・イズ・ベスト。
新鮮な野菜はそれだけでも美味しいけどやっぱり調味料が欲しい‼
「セイン、試してみないと分からないけど、さっきの魔法陣、もしかたら上手くできるかもしれないわ」
「え、もう?」
「ふふ、新しい魔法陣の開発なんて久しぶりだったからついはりきっちゃったわ」
そう言ってくれた母さんの顔は本当に楽しそうに輝いている。
「それでどうしても欲しいのがフェントの魔石なんだけど、町にありそうかしら?」
「あー、どうだろうな。フェントは少なくともC級の魔獣だからナペルじゃ出回ってないんじゃないか?」
「となるとギルドに依頼を出すか……。お願いしても良いか?」
ナペルは私たちの家から一番近い町でグアルタさんが住んでいる所である。
私はまだ行ったことがないが、冒険者として活躍するためにはギルドへの登録が必要になるのでいずれ行くことになる。
魔石は強い魔獣を倒した時に得られるものでその特徴は魔力を溜め込むことができること。
魔力の溜まっている魔石はそれだけではただの石だが、魔法陣を組み合わせることで様々な機能が得られるようになる。
広く普及している物には、我が家で使っている、入れたものを温める鍋やフライパン、永遠に水が出る水差しなどだ。
すごく便利な道具ではあるが買うとなると高価であること、魔石に溜め込んだ魔力がなくなると使えなってしまうが難点である。
実はここで活躍するのが魔力を持つ人たちなのだ。
空になった魔石に魔力を込める「魔挿師」という職業がこの世界にはある。
実際はきちんとした職業というよりかは副業としてやっている人が多いらしいが。
話は逸れたが、とにかくフェントと言う強い魔物の魔石が必要らしい。
それを確保するためにギルドに依頼を出して冒険者に魔石を取ってきてもらおうという相談をしているのだ。
まさか思い付きでお願いしたものがこんな面倒な案件になるとは……。
「いや、俺が狩ってくる」
「え、グアルタさんもう冒険者辞めたんでしょ? 私が欲しいもののために申し訳ないよ」
「一応冒険者としての籍は残してあるし、フェントなら昔狩ってた魔獣だから問題ない。フェントが良く出る場所も知ってるから俺が行ってきた方が早く済むんだよ。失敗することも想定して種類や量もある程度欲しいだろ?」
両親に確認を取るグアルタさん。
グアルタさんに合わせて私も両親の方を向く。
……?
何故か両親が昼に見せてた苦笑いをまたしている。
私、また何かやらかしました?
両親の苦笑いpart2。
冒険者として優秀だったグアルタ。
フェントは幻想を見せる魔獣。
狩るのにコツがいるので一番弱いフェントでも中級のC級扱い。
主人公でも狩れるフリッタなんかはランク外です。
次回2日後の更新予定です。