グアルタからの試練
朝食を終えた後、グアルタさんと一緒に森に来た。
朝食の席で話していた、私が冒険者としてやっていけるかを確認するためのテストをしてもらうのだ。
この世界で一般的な5歳児がどれくらいの能力を持っているのか分からないのは痛いが、まぁなんとかなるだろう。
「まずは走るか」
「どれくらい?」
「1節いけるか?」
「大丈夫だと思う」
節はこの世界の時間の単位で、前の世界でいうと1節2時間くらいだろうか。
一日午前5節、午後5節の全部で10節。
1節走り続けるとなるとハーフマラソンくらいかな?
「一人で走ってくれば良いの?」
森の中はそこまで危険な生き物もいないので5歳児の私が一人で入っても問題はない。
たぶん迷子になって帰れなくなったら母さんが見つけてくれるだろうし。
「いや、俺もついて行こう」
「え、足怪我してるんじゃなかったの?」
「何年前の話してんだ。もうとっくに治ってる」
冒険者引退を余儀なくされるほどの怪我だって聞いたから、きっと後遺症もあるだろうと思っていたのだが、そんなことはないらしい。
私はストレッチなどの準備運動を終わらせるとグアルタさんと一緒に森へと駆けていった。
「すげぇな」
グアルタさんと一緒に森の中をトレッキングしていると感心したように言われる。
今は半節ほど走ったところだ。
全力ではないとは言え、身体強化を行っている私と一緒に走って息一つ乱れていないグアルタさんの方がよっぽどすごいと思う。
「グアルタさんもすごいね、冒険者引退したのだいぶ前なんでしょ?」
「俺は神様から体力と筋力を普通以上に貰ってるからな。その分知力が全然なくて苦労したが」
「クマデートの中でも特別力持ちってこと?」
「そうだな。俺らの種族は筋力バカが多いんだが、俺はその中でも特に力が強くて、能力を貰った直後は色んな物を壊してた。物を壊しまくるから職にも就けずに冒険者やってたってわけだ」
「今は大丈夫だよね? グアルタさんに抱っこされて痛かったことなんてなかったよ」
「冒険者やってる間に加減を覚えんたんだ。クマデート相手なら喧嘩しても怪我で済むが、他の種族相手だとそうもいかないことがあるからな」
そうこうしているうちに1節が経過したようだ。
川の側で立ち止まったグアルタさんは着ていた上半身の服を脱ぎ、盛大に顔を洗い始めた。
盛大すぎて上半身までびちょびちょである。
……犬の水浴びみたいだ。
そしてそのまま川の水を飲むと、私にもそうするように勧めたが、私は遠慮する。
残念ながら私の体は繊細なのだ。
生水なんて飲んだら絶対下痢する。
「体力は問題ないな。次は木に生ってるリットを自分で取ってこれるか?」
「うん、大丈夫。それが次の試験ってこと?」
「ああ。ついでに昼飯の確保だな」
「はーい」
川の近くに自生しているリットの木を見つけると実が生っていることを確認して、下半身の筋肉を魔力で強化した。
そして、ジャンプ。
「うわ‼ 跳びすぎた‼」
魔力の量が多かったようで、予想よりもだいぶ高く跳んでしまった。
希望はリットが生ってる高さくらいだったのだが、完全に木を超える高さにいる。
10メートルくらいだろうか。
完全に跳びすぎだ。
とりあえず一度地面に戻ってから再度チャレンジしよう。
一旦リットのことは諦めて、浮遊感を楽しむ。
自分が住んでいる森を高いところから見渡すのは当然初めてだ。
境界線の区切りがはっきりと分かる。
自宅を中心に綺麗な円を描いてそこから先の視界がぼやけている。
不思議な光景だ。
景色を楽しんでいると最高到達点に達したのだろう。
体の上昇が止まったかと思うと重力に従って下降を始めた。
この高さから落ちるとまあまあな衝撃なのでは?
着地に向けて体全体に魔力を巡らせ、衝撃に備える。
下に意識を向けていると、グアルタさんが心配そうに見上げているのが見える。
「グアルタさん、危ないからどいて‼」
私の予測落下地点に立っているグアルタさんに向かって叫ぶ。
なのに、グアルタさんはその場から離れることなく腕を広げている。
え、受け止めるつもり?
いくら私が5歳児で体重が軽いとはいえ10メートルの高さから落ちたら衝撃がとんでもないよ?
まじで普通にどいて欲しいんだけど⁉
「ちゃんと着地できるからお願い‼どいてー‼」
叫びながら地面に落ちていった私は結局グアルタさんの胸にダイブを決めることになった。
衝撃と共に落下が止まった。
いや、普通に痛かった。
たぶん自分で着地した方がダメージは少なかったと思う。
グアルタさんも最大限衝撃往なしてくれたのだとは思うけど。
「グアルタさん、大丈夫⁉」
「俺は問題ない。それよりお前は大丈夫なのか?」
「ちょっと体は痛いけど、魔力で保護したから怪我はしてないよ」
「……そうか、魔力で保護すれば衝撃なんかも耐えられるのか」
どうやらグアルタさんも私があまりに高く跳んでしまったことに焦っていたらしい。
「うん。けど抱き留めてくれてありがとう」
地面に座り込んだグアルタさんにそのまま抱き着きお礼を言う。
せっかくグアルタさんの胸の中にダイブしたのでそのまま熊獣人のもふもふを堪能させてもらうことにしよう。
水で冷えた熊毛がひんやりしていて気持ちいい。
そして触れていると分かるグアルタさんの胸筋、腹筋が素晴らしすぎてここから離れられる気がしない。
さっき洋服を脱いでいたグアルタさんグッジョブ。
犬みたいだなんて思ってごめんね。
グアルタさん何ポジになるのかこうご期待。
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