始まりの話
2022/06/22
冒頭部分修正しました。
ふ、と意識が浮上する。
自分が何をしていたのか覚えていない。
普通に職場から出て、今日の症例について勉強しようと思いながら帰宅途中のコンビニで晩御飯を買ったことまでは覚えている。
けど、その後家にたどり着いた記憶がない……。
いつの間に意識を失っていたんだろう?
救急車とか呼ばれちゃったかな?
などと考えているとすぐ近くで何か音がしていることに気づいた。
そしてそちらに意識を向けた私は思わず固まった。
今私の目の前で会話らしきコミュニケーションをとっているのは猿ではないのだろうか……?
なにやら理解できない言語を使っているけれど、人間のように洋服を着て私のほうをちらちら見ながら明らかに鳴き声とは違う複雑な音が目の前の猿らしき生命体2匹? 2人? から発せられている。
これは獣人ってやつだろうか……?
彼らの様子を伺いながら、私は思うように動かない手足や周囲を見まわしたいのにうまく動かない首を不思議に思いつつ、必死に遠ざかろうとする意識をつなぎとめる。
猿獣人たちは議論に決着がついたようで、2人で私のほうに近づいてきた。
そのうちの1人が光る石のようなものを私に向けてくる。
意味が分からない。
何故か夢でないことだけは私の中ではっきりしているけど、本当に意味不明だ。
不思議と恐怖はない。
家族もいない独り身だったし、両親も事故ですでに他界していたし、仕事が忙しすぎてペットを飼う余裕もなかったし。
ここがどこであろうと前の世界に心残りはそこまでない。
職場の人たちには迷惑かけただろうなぁ。
申し訳ない。
やはり理解できない不思議な音を猿獣人が口から発するのを聞きながら私は自分の意識が何かの力で強制的に沈んでいくのを感じた。
沈みゆく意識の中で私は願った。
人間が奴隷っていう設定だった猿の惑〇じゃありませんように……。
「セイン!!いい加減にしなさい!!」
脳内に響く母さんの声に頭がキーンとする。
また母さんに見つかってしまった。
私の名前はセイン。
私の体が弱いからと、父さんと母さんと三人で緑豊かな森を持つ山の中で生活している。
父さんと母さん以外に話す相手はたまーに父さんたちが作った薬をまとめて買いに来る商人のグアルタおじさんくらいだ。
そんな生活をしていると他の人と会いたくなるのも仕方ないことだと思う。
そんな私は母さんたちが仕事の薬づくりのために地下室にこもっている隙に、ここから先は勝手に出てはだめだと決められている境界線をひっそり跨ごうと森の中を進んでいたのだ。
けれどもなぜかいつも境界線までたどり着く前に母さんに見つかってしまう。
「セイン、帰るぞ」
そして迎えに来た父さんに抱っこされて家へと帰る。
私はもうすぐ5歳。
父さんと母さんは私の体が弱くて心配だからと家の周りから出さないようにしているけれど森の中を歩く元気もあるし、グアルタおじさんから4歳の誕生日にもらった弓矢で小さな魔獣のフリッタを狩ることもできる。
たまに風邪をひいて寝込むこともあるけど、父さんたちが心配するほど体が弱いわけではないと思う。
父さんたちはいずれちゃんと説明するといつも言っているがいつになるのやら。
そんなことを思いながら、抱っこしてくれた父さんの肩に顔をこすりつける。
今日も父さんの肩の毛は少し硬くてじょりじょりしている。
頑張って書いていきたいと思います。
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