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最悪なあの日と

 赤ちゃんを抱き上げてトントンを繰り返す私の頭には、仕事を休職するきっかけになったあの日のことを思い出していた。


 近藤さんの考えを知ってしまったあと、権限を使って移動させることもできたが、耐え続けていた。ロールプレイ面談では失敗をくり返し「でも、教えてくれない先輩が…」と繰り返し言い、メモは取らず、面談の電話相談窓口のミスも増えるばかりで、私の尻拭いというサービス残業は増えていった。

 タイピングスキルは、問題くなり事務仕事は取り繕うのは上手いのと、部長に取り入るのは器用だった。『耐えればいい、仕事は好きだから』と、割り切ったその結果、やめる原因になった重大な事件が起きた。


 ーーーーーバァン!!!


 その日一番の大きな音を立ててドアが開いた。


「誰ですか…! 誰ですか!私がここで相談した事を上司にばらした人!!そのせいで私、辞めろって、よわいって、だれ、ですか!!なんの、なんの!嫌がらせなんですか!!!」


 泣きながら彼女はやってきた。私達メンタルヘルス課は、相談者の秘密を守る。守秘義務を厳守し、書類も捺印を押して契約交わす。あまりにも酷い場合には、許可を得て、第三者に話すことを徹底していた。

 ただ今回は、私が担当していたが、話すことになっていない。漏れるはずがないのだ。パワハラか怪しい仕打ちを受けている様子だったが、確証を取っているところだった。彼女を宥めて別室に連れて行くと泣きわめく彼女を小さな声で「うわ、こわ…」と、近藤さんが呟いた。睨みつける時間すら勿体なかった。


 落ち着いた彼女を宥めた後、その上司に改めて確認を取らざるおえず、確認を取った。こんなメンタルヘルス課に来るやつはいらないと言う暴言と共に情報提供者を教えてもらった。


尾崎(おざき)部長、近藤さんをメンタルヘルス課から外してください」

「どうしたの突然、事務仕事できてるって君褒めてて…」

「先輩まさか…」


 悟りのいい最初、新人教育係をしていた高谷(たかや)くんは、近藤さんを睨んだ。


「情報漏洩がなされました。事務作業中に今までの相談記録を見たんだと思いますが、むこうの上司の漏洩確認が取れました。看過できません」

「近藤くん。本当かい?」


 全員が彼女はを見ると、肩をビクッとさせながら言う。


「そう、ですけど…だって、上司の方と仲良くて、勘違いだろうと思ったから、つい、」

「情報漏洩で、せっかく話にされた来てくれた子を守る、相手の言う事を信じるということを一つも考えられない行動ね。ここでは処罰対象の行動よ」

「で、でも!!!教えてもらってなかったし、言っちゃいけないとか、わからなかったし…!教えてくれなかった先輩も悪いと思います…!」

「近藤お前…!」


 高谷くんが、尾崎部長を背にして近藤さんに、向って1歩踏み出そうとした


「高谷くん、まぁまぁ…。先方の子には申し訳ない事をした。私からも謝りにいくのと人事異動も、早急に手配しよう。近藤くんの部署移動は一度のミスだし目を瞑る、とは言えないミスだな…」


 頭を抱えてしまった尾崎部長にきれいな笑顔で私は言う。そうか、私も悪いんだもんな


「解りました。教えなかった私が悪いですね。」

「え」


 えっ、といったのは誰だったか。ハモったように何人かの声がした。


「大丈夫です。責任を取って私が辞めます。仕事、辞めます」

「ちょ、ちょっとまってくださいよ! やめるなんて、そんなだって、バラシたくらいで、」


 近藤さんの慌てたような声に被せて

「でもでも、だってで、お前が責任を取らないからだろ!」


 あまり怒鳴らない高谷くんが怒鳴った。ビクつく彼女を慰める人は誰もいない。


 そう、この責任を誰かが取らなくてはいけないのだ、処分として。

 泣いていた彼女は言っていた『仕事は好きなんです、人が、辛いだけなんです』と。

 私もそうだ。仕事は好きだ。でも、もう人に耐えられない。


「良いですね、尾崎部長。私、仕事辞めます」

「野崎さん待ってください!考え直してください、近藤が責任を取るべきです!」

「ちょっとまって野崎くん、一回、一回話し合おう…お願い。」


 高谷くんが私の顔を覗き込むように泣きそうな顔で言う一方で、尾崎部長が胃を触りながら私に懇願した。

 結果、近藤さんの今回の失態は、ひとまず責任を私が取るのではなく近藤さんの減俸と厳重注意、場合によっては自己都合退職になるから、辞めないでほしいと言われた。

 そんなこと人事をしてたのでわかってはいるが、もう、疲弊してたまらなかった。

 産業医と話す機会もらい、3ヶ月の休職(引退を決意しているが)となったのだ。


 ーーーなった矢先に、この出来事だ。

 最悪という奴らは続くらしい。


 警察に届けるという選択肢がある。

 肩に項垂れてスピスピ眠るこの子供を、警察に届ける理性もある。

 だが、私は確かに言った「いいですよ」と。了承した。手紙には迎えにいきますと書いてある。なら、持て余した3ヶ月を責任持ってもいいのかもしれない


「責任…とるかぁ…」


 あの日と同じく、責任を負う事にした。


 あの日の帰り道より軽い気持ちで、重たいボストンバッグをベビーカーに乗せて赤ちゃんを抱いたまま帰路についた。



責任って難しい。やりきりたい気持ちと身体はついてこないことがある。 みなさんもご自愛ください

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