第一話 呼んだ?
隠れ家風の個室レストラン。
木目の壁に囲まれた落ち着いた空間に、チームの5人が集まっていた。
新人の歓迎会が始まってしばらく、料理と会話がひと段落したころ。
マネージャーが笑いながらグラスを置く。
「緊張、少しはほぐれてきたかな?」
「はい……皆さん話しやすくて、楽しいです」
「慣れると居心地のいいチームですよ。ちょっとクセは強めですけどね」
「誰のこと言ってんすか? 顔見ながら言うのやめてもらっていいっすか」
「ふふ、でもほんと。職種も年齢もバラバラなのに、うまくまとまってますよね」
「そういえば……こうして全員そろって飲むの、いつぶりでしたっけ?」
「年明けの送別会ぶりかな?」
「……あのとき、けっこう盛り上がりましたよね」
「ああ、あれね……」
「せっかくだし、またやってみません?」
「やってみるって、何をですか?」
「ふふ。じゃあ、わたしからいこうかしら。これは聞いた話なんだけど」
グラスの氷が、ひとつだけ音を立てて揺れた。
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わたし、昔ちょっと、悪い子たちとつるんでた時期があってね。
その頃の仲間のひとりが話してたんだけど、夜の学校に忍び込んだらしいの。
何人かでグラウンドにいたら、裏門のほうから「カツ、カツ」ってヒールの音が聞こえた。
最初は「先生か?」って隠れたけど」隠れたけど、姿は見えなかった。
ひとりがふざけて「先生〜、見回りですか〜?」って叫んだ瞬間、音が止まった。
次の瞬間、窓ガラスがガンッと叩かれた。
暗い窓に、白い手が一瞬だけ映ったんだって。
翌日、そのメンバーのひとりが事故で亡くなった。
単独事故。けど、現場にはもうひと組、誰の足跡かわからないものが残ってた。
ひとりで乗ってたのに、後ろにも足跡があった。
誰も言わなかったけど、みんな思ってたらしい。
あの時、呼んじゃったんだって。
だからわたし、今でも後ろから足音がしても、振り返らないの。
誰が来るかなんて、わかったもんじゃないからね。
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「……それ、マジのやつじゃないっすか……!」
「呼んだら“迎えが来る”系って、じわじわ来るよね……」
「ふふ、わたし、今でも夜道で足音聞こえるとき、絶対立ち止まらないのよ」
「いや……こわ。こっちが怖がってんのに、あんたの声が一番落ち着いてんの、逆に怖いから……!」
テーブルの上に流れる沈黙に、誰もが一瞬、背中を気にする。
「……さて、次は誰かしら?」