第四話 返却未定
「ねぇ、そろそろ私にも語らせてよ~」
「珍しいね、静かに聞いてたのに」
「いや、マジであんたらの話、夜に引きずるのよ。だからこっちも吐き出さないと」
「それで自分も話すんだ……」
「うん。これは聞いた話なんだけどさ」
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駅のロッカーってあるじゃん。
あれでね、“絶対に空いてるロッカー”がある駅があるんだって。
不便な場所とかじゃなくて、けっこう混む駅。
でも一番端のロッカーだけ、いつも空いてるの。
ラッキーだと思って何回か使った人がいたらしいんだけど、ある日その人、ロッカーに荷物を預けてから変な感覚があったらしいの。
荷物はそのまま。でも、自分の中が軽くなった感じ。
空っぽというか、何かが抜けたみたいな。
で、翌朝。
財布を開けたら、中に見覚えのない白い紙が一枚、挟まってた。
そこにはこう書かれてた。
「借用証」
「対象:○○(自分の名前)」
「内容:非公開」
「返却予定:未定」
「※処理済」
手書きじゃなくて、きれいなフォント。
どこかの正式な書類みたいなレイアウトだったらしい。
もちろん、誰にも何も貸した覚えはない。
でも、その日からたまに、“自分が自分じゃない”って瞬間が増えたんだって。
気づいたら立ち止まってたり、話してる途中で意識がぼやけたりするらしい。
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「……ちょっと待って、それって何かを貸したってこと?」
「本人もわかんないって。“意識はあるけど、何かが足りない気がする”って」
「やだやだやだ……!」
「今も普通に働いてるけど、“たまに誰が喋ってるかわかんなくなる”って言ってた」
「それ絶対、返ってきてないやつじゃん」
「うん。私はあれ以来、ロッカー使ってない」
「……どこの駅?」
「それは、言わない」