第二話 手のひら
「じゃあ……私が話す」
「おっ、来た来た」
「なんか、語りたそうな顔してたもんね~」
「……黙ってただけ」
「で、どんな話?」
「これは聞いた話なんだけど……」
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ある女の子が、母親と二人暮らしをしてた。
ある晩、夜中にふと目が覚めたら、隣の部屋の壁を「コン コン コン」って叩く音がしたらしい。
最初は水の音かと思ったけど、リズムが妙に人っぽくて。
翌朝、母親に「夜、起きてた?」って聞いたけど、「ぐっすり寝てたよ」って言われた。
で、数日後。
今度は、壁じゃなくて床。
「コン コン コン」って、廊下の奥から聞こえてきた。
それが、だんだん近づいてきたと思ったら、最後は彼女の部屋のドアの前で止まった。
怖くて布団に潜って震えてたら、気配はそのまま消えていったらしい。
朝になって、ドアの下のあたりを見たら、汚れてたんだって。
人の手のひらみたいな、こすった跡。
普通の大人の手より、少しだけ大きかったって。
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「……それで?」
「それで終わり」
「……終わってないよね?」
「怖っ……! それ、今も続いてるってこと?」
「ううん。その家、家族ごと引っ越したらしいから。もうそこにはいないよ」
「いやいや、“らしい”って……本人に聞いたの?」
「うん。つい最近、駅でばったり会って、ちょっとだけ話した」
「……なにそれ」
「“最近また、音がするんだよね”って。そう言って、笑ってた」
「……」
「……次、誰?」