第五話 若気の至り
「その大学って、どこだったか聞いた?」
「いいえ。関東の大学ってことしか……」
「そっか。じゃあ、違うかもな……」
「マネージャー?」
「……大学の恩師から聞いた話なんだけどね」
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昔、恩師が学生だった頃、九州にある大学の民族学ゼミに所属していたらしいんだ。
実地調査で知った部族に、昔から伝わるまじないを“試してみよう”という話になったんだって。
本来は信仰のある人がやるべきものなんだけど、当時は若かったし、半分は肝試しみたいな感覚だったらしい。
まじないの方法は、木箱の中に“自分の体の一部”を入れて封じるというもの。
髪の毛とか、爪とかね。身代わり箱って呼ばれていた。
一人ひと箱が基本だったらしいんだけど、
「まとめたほうが効きそう」っていうノリで、その場にいた数人分を一つの箱に入れたんだって。
それからしばらくして、研究室に置いてあった箱の中から、夜になると「コン……コン……」って音が聞こえるようになった。
最初は木が軋んでるだけだと思ったけど、ある日、その音が“箱の中から鳴っている”としか思えなかったって言うんだ。
しかも、聞いた人によって音の数が違った。
三回聞こえたって人もいれば、五回、七回っていう人もいて。
共通してたのは、箱を見てるときじゃなくて、目を離したときにだけ音がするってこと。
結局、怖くなって、その中のひとりが親戚のお寺に箱を持っていって処分してもらったそうなんだけど……
恩師は、
「箱の中に誰が何を入れていたのか、誰もちゃんと確認してなかったんだよね」
って、少し笑いながら言ってた。
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「……ちゃんと処分されてたんでしょうか」
「モノによっては、神社や寺でも扱えないことがあるって聞きますよ」
「何が入ってたか分からないなら、なおさら怖いですね……」
テーブルの上の皿はすっかり空になっていて、個室の外ではスタッフが静かに片づけを始めていた。
「……ふぅ。なんか、久々に話しすぎた気がしますね」
「でも、こういうのも、たまにはいいですね」
「うん。ちょっと怖かったけど……また、こうして集まりたいです」
「あの……今日は、すごく楽しかったです。これからも、引き続きよろしくお願いします!」
「おう、よろしくな!」