第四話 内側のモノ
「……結局、どこの研修施設なのか教えてくれないんですね」
「あ……すみません、職員の方に、あまり広めないでほしいって言われてて……。時々、その部屋のことを聞いてくる人がいるらしくて……」
「……まあいいです。次は、私が話をしましょう」
「……これは聞いた話なんだけど」
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ある大学の研究室で、旧校舎の整理をしていた学生がいたそうです。
古い書棚の奥から、南京錠のついた木箱を見つけたらしくて。
鍵がなかったので、そのまま開けずに研究室へ持ち帰り、棚の上に置いたそうです。
翌朝、研究室のドアが施錠されていて、誰も開けた覚えがなかった。
鍵は保管庫にあるはずだったのに、その日に限って見当たらなかったそうです。
結局、管理人が鍵を壊して中に入ったら、昨日まで棚の上に置いていたはずの木箱が、部屋の中央に移動していた。
誰も出入りしていないはずなのに、明らかに場所が変わっていた。
中身を確認しようと、学生のひとりが木箱に手をかけた瞬間、たまたま居合わせた民俗学の教授が「ああ、それは……やめておきなさい」とだけ言ったそうです。
それ以上の説明はなく、大学の判断で封印され、倉庫に移されたとのことです。
その後も研究室では、夜になると施錠されたドアの内側から、「コン、コン」とノック音が聞こえることが続いたとか。
ある日、たまたま管理人が様子を見に来て、ドアの外から「どうかされましたか」と声をかけたそうですが、返事はなかったそうです。
今もその研究室では、夜間はドアを閉鎖管理対象として扱い、外側から封印シールを貼って誰も出入りしないようにしているそうです。
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「……箱、開けなかったのは正解ですね」
「ふふ、開けたらどうなったんでしょうね」
「でも、閉めても開けても出てくるってことじゃ……?」
「箱の中身が、今は研究室にいるってことですよね……」