487~オラフ王国物語・66「僕についてくるかい?」
「トロムソのガラス職人といえばイワン殿を置いて他にはいない。そのイワンかい?」
「よくご存じで」
「それならばトロムソの兵は皆知っている。カール王の時代、、、といってもそんなに前ではないが、城の2階。礼拝堂のステンドグラスをはめこんだのもイワン殿だ。王に見込まれた職人だ」
「そ、イブレート様に頼まれてトロムソの教会にも」
「魔女狩りの溜池」
「そうさ、あそこの壁にステンドグラスを張ったのもイワン殿。それは見事なものさ」
「で、イワン殿は今何を?」
「それは僕も知らない」
「おい!ぬしら!!いつまでコソコソと話をしておる!!」
「早く開けろと言っておるではないか!!」
ラウルとレスコーが、まだかまだかと、2階の窓から首を長く出していた。
「ですから、どうするのか!?と聞いているではないか!」
「なにをぅ~!!」
「いずれにせよだ。地位を明け渡すと言えばそこから出してやる。いやだと言えばここにいる兵を乗り込ませてお縄にする。どうだい?みんな?」
「ヘルゲの時も我々兵は奴隷のような扱い」
「こいつらになってからは更に酷い惨劇だ」
「食糧の手配もままならず、一向に解決はしない」
「ますます酷くなっている」
「しかしお前のようなエスキモーのガキに下るのも、俺たちは納得しない」
「色々と知っておるようだが、それだけではな」
「だったらあの2人も気づいていないことをお前たちに教えよう」
「なにか?」
「ああ、あの部屋からラウルとレスコーを出さねばならない」
「閉じ込めたままにするんじゃないのかい?」
「あの部屋は宝の山だ」
「え?あの部屋には何もなかったぞ。ベッドと騎士の防具だけ」
「お前らが一生飲み食い三昧しても、まだ手に余るほどの宝だ」
「どこに?」
「金銀宝石などよりもっと価値のあるもの」
「そんなもの聞いたことはない」
「金銀は外面の宝。見栄えの宝。しかしな、あの部屋に眠っているものは生きとし生けるものの宝」
「ん?」
「調理兵なら嗅いだことがあるであろう?」
「ん?ああ、あの獣を燻したような鼻をつく匂いかい?」
「え?あんな臭い臭いが宝?」
「そ。伝説の一角の白馬。ユニコーンの角の妙薬だ」
「ほ、ほ、本当か!!皇族、貴族が隠れ隠れ隠密に取引きをしていたという金の成る角」
「その匂いを知っているのはこのヨーロッパの皇族と上流貴族、それを捕獲する我々エスキモーのみ。侯爵男爵辺りでもどうかなというところさ。イブレート様は僕たちエスキモーを大事にしてくれた。なのでその御恩にね」
「イブレート様は知っていたと?」
「ああ、知っていたどころではない。それを基に他国と貿易をしていた。このマウリッツをエスキモーの住居としてくれた御恩返しに、僕たちはたわわにこの地に持ち込んだ」
「なるほど」
「ただ、あの部屋に保管してあるとは僕も知らなんだ。あの部屋の壁、あの引き出し全部が宝の粉だとは」
「お、お~」
「どうだい?僕についてくるかい?」
「あ、ああもちろんだとも」
「つまり、あそこはバルウ。僕の兄貴の部屋だったってことさ」




