483~オラフ王国物語・62「いやで~す!!」
王の部屋。
オラフ王。アデリーヌ・ヘルゲ。その子ヤン。
ハッセにヴィーゴ。ラウルとレスコー。
子を入れての7人。
しばらくは呆然と身構えたが、そのうちヤンが泣き出した。
「おい、黙らせろ」
『レスコー殿、子は泣くものでございます。我慢くださいまし』
「フン!しかしお前らはなぜ慌てないのだ? もしかするとどこかに抜け穴でもあるんじゃないのか?」
「どこに穴なんかあるんだい?!ハハッ!」
ハッセはレスコーのその言葉に高笑いをした。
「このままでは飢えて死を待つばかり」
「薪すら工面してくれねば、凍えてしまう」
『なにか調理兵の手違いではございませんか? ズボンの裾が引っ掛かっただけとか?』
「は?それはない。夕飯には早すぎる。それにアデリーヌ殿の部屋の前にまだ昼飯が置いてあった」
「夕飯を置いたとしてもアデリーヌ殿の部屋の前にでございましょ?」
「つまり、この部屋とわかっていて鍵をおろしたのでありますよ」
「いざとなりゃあ、この窓から飛び降りればいい」
ハッセが右の頬を上げてニヤリと笑った。
「飛び降りる?その方がよっぽどだ!死が早まるだけ! 貴様なにを考えておるのだ!
どっちにしたって死が近づくっ!」
「やってみなけりゃわからないよ」
「なにい?」
「いい?ここから飛び移ってぇ、、」
「どこに?」
「そこの窓からナナカマドの木にピョンと飛び移って、後はスルスルと幹を降りていけばいいのさ」
「この女、、いやアデリーヌ殿や赤子もか?抱っこをして飛び移れるとでも思っているのか?」
「、、、お前らまったくダメだね。なぜ皆んなが皆んなこの窓から飛び降りなければいけないのさ? 1人降りれば外鍵だろ? 回り込んで外から開ければいいだけの話じゃないか」
「あ、まあな。そっかそっか」
「で、その1人ってのがお前?」
「ここはやはり言いだしっぺのお前。ハッセしかおらぬなっ」
「聞くまでもなく満場一致だ」
「なあ、お前ら頭の中大丈夫かい?」
「なにがだ?」
「わかるだろ? 俺たちが慌てふためかない理由が?」
「わからん」
「窓が開くんだろ?見た通り」
「開く」
「ナナカマドに飛び移るってのは冗談だよ。どう見ても無理に決まっているだろ?」
「じゃ、どうするんだ? 振り出しではないか」
「まだわからないのかい?」
「あ、ああ」
「庭を通る兵隊に声を掛ければいいだけの話じゃないか。『お~い鍵を開けてくれ~』って」
「あ、、、そうか」
「なるほど」
「だったらハッセ。そこを退け」
「お前の言うことでは、兵隊共は動かぬ」
「明るいうちでないとな、姿が見えんようになる」
「さぁ、どけ!そこをどけ!ハッセ!」
ラウルとレスコーは窓際のベッドの上にいたハッセに肘鉄をくらわせた。
ラウルとレスコー。
しばらく芝土の庭を見下ろしていた時のことであった。
1人の兵隊がゴミ出しか、ナナカマドの下を通りかかった。
「お、来た!」
「お~い!!そこの兵隊!ラウルだぁ~!」
「ほい、レスコーだぁ! ここの、この王の部屋の外鍵を開けてくれ~!!」
「聞こえるかぁ~!開けてくれ~!」
ナナカマドの幹の影から何事かと顔を出し、左手を眉に乗せ見上げた兵。
大きく口を開いた。
「いやで~す!!」




