462~オラフ王国物語・41「しみッ垂れた顔」
「お~い!朝飯だ!女ッ!ここに置いて置くぞッ! オラフの分もある! お前が届けぃ!」
ヘルゲ家となり、城に住むことになったアデリーヌ。
その部屋の前。
1階から駆け上がって来た調理兵が叫んだ。
『あんた。その物の言い方はなんだい?私はいいとしても、オラフ様はこの城の主。王であらせられるのだろう? して、なぜお前が届けぬのだ?』
「王と言っても名ばかり。口もきけぬ。しかもあの部屋は喉に鱗が突き刺さるように臭い」
『今まではどうしていたのだ?』
「ああ、ハッセというヘナチョコエスキモーが面倒をみていたからな。これからはお前だ。ここに置く。奴の部屋に持って行ってくれ」
『これが朝飯かい?なんだいこの濁ったスープに、根っこの煮物みたいな物は?』
「なんでも良い!今は調理長もおらんのだ! ほれ、お前の分と2皿置いてゆく」
『2皿?子もおるのだが、、、赤子が』
「ラウル殿がな。赤子はお前の乳でも吸わせておけと言っておった」
『ヘルゲ家を存続させたいのか、滅ぼしたいのかわかりませんね』
「つべこべ言うな!この城はな、今食糧が底をついているのだ!これだけでも有難いと思え! 俺たちの食べている物もこれと変わりはしないのだッ!』
『魔女小屋にいた時の方がマシでしたわね』
「当たり前だ。ヘルゲはお前らには良い物を与えていた。自分の欲を吐き出す道具を、、、夜の営みのためにだ。料理上手なヨーセス殿もいたからな」
『なんとも、、、イブレート様の時代とは大違い。あなたたちに変わってからはずっとこんな調子で?』
「俺たちは助けてやったのさ」
『誰を?』
「誰をというか、、、マウリッツの町を」
『意味がわかりませんわね』
「あのなッ。ここを襲ったのは海賊じゃないぞ」
『そうなのですか? ヘルゲ5世殿からはそう聞いておりますが』
「違う違う」
調理兵は右手を横に振った。
『海賊ではないとなると、、、他に誰が?』
「お前に言っても知らんだろ? ラーシュという男だ。1人ではないぞ。そいつが率いていたラーシュ村の者達だ」
『え?あのぅ、ちょっとよろしいでしょうか?』
アデリーヌ・ヘルゲは、赤子を深く抱き直した。
『そのぅ、、、ラーシュというのは?』
「だからお前に説明してもわからんと言っておるだろ?」
『ラーシュ。公爵ラーシュでは?』
「おや?知っているのかい? そうだッ、あのベルゲンで名を馳せたラーシュ公爵殿だ。ま、今は平民。殿などと呼ばなくても良いのだ。ラーシュでよい。ふむふむ」
『今は平民? 生きておられるのですか?』
「は?生きていようが死んでいようが、お前には関係ないことであろう? 奴はこの城でイブレートを襲った。しかしバレていた計画はここで、タリエ侯爵様の軍勢に取り囲まれた。すなわちそれが俺たちということさ」
『で、ラーシュ殿は?』
「スゴスゴと帰って行ったさ」
『どこに?』
「元の住処さ。トロムソの西の浜。俗にはラーシュ村と呼ばれているらしいのさ」
『そ、そ、そうですか』
「なんだその、しみったれた顔は? そんなことより、オラフに餌を、、、あ、いや朝飯をやってくれよ。ほら、ここに置いたぞッ」




