1466〜毎日満腹
「なんだ?数日の間に太ったんじゃないか?首の下が膨らんでおるぞよ」
「おや珍しいヘルゲ殿。わざわざこの丘を?」
「何せ暇なのでな。ちょっかいでもと思ってな」
「ああ、そういうことですか」
「しかしこの丘の登り降り。なんぞ痩せぬ?」
「はい、はい。毎日毎日ドロテア様と満腹でありましてね」
「満腹?」
「ヘルゲ殿はまたお痩せになりましたか?ここ3日ほどで」
「わしのことは良い。なんぞ満腹とは?」
「いえね。この城造りのために下の民家から気の利いた板や柱を探しておりますでしょ」
「なんじゃ?お前ら木を食べているのかい?」
「ご冗談を。そのような物を召し上がるもんですか」
「他にどう満腹になるというのだ?」
「下の村中の民家を家探ししておるのですよ。そうです、この城作りの為にです。さればこの島の者は漁を生業。その数軒には立派な魚網がございましてね。我々が使っていた物より輪を掛けて頑丈。私は釣りはしたことがございませんがね、網となっちゃあ職でありましてですね。毎朝毎夕、大漁大漁。とてもドロテア女王様と私とでは食いきれません」
「はあ?なぜわしにくれぬ?」
「あなた様は城の者ではございませんでしょ?お断りになられた。ですから私1人でトンカチトンカチやっているのでありましょう?いくら余分に獲れたって知らぬ存ぜぬお方には、お譲りできませんて」
「食い切れぬ分はどうしておるのだ?」
「はい、その半分はまたね機会にと海に帰しております。で、残りの半分は干物にと干してございます。いわゆる備蓄の食糧」
「どこに?」
「それをお聞きになられますか?」
「隠しておるのか?」
「隠してちゃ干物にならない」
「ではどこぞ?」
「隠しながらも日が当たる場所」
「じゃ、隠してんじゃないか」
「はい、ドロテア女王様がヘルゲ殿に見つからぬようにと。卑しいあの男が必ず盗みに来ると。あ、説明致しますと、卑しいというのはヘルゲ男爵殿のことであります」
「なんだ?必ずとは」
「お怒りになられないでくださいましよ。そうおっしゃられたのはドロテア女王様なのでありますから」
「あの女ぁ〜」
「ま、つまりそれでドロテア女王様も私も太られた」
「は?太られたぁ?」
「あ、勘違いしないでくださいましよ。今やドロテア様と私が城勤め。ヘルゲ殿は一庶民。1人の釣り師でございますゆえ」
「なんだとぉ?!」
「どうです?手伝いますか?この仕事。やり出せば大変面白くございますよ。どうやら私、漁師や管理人よりこの仕事が向いているようでありましてね」
漁師にそう言われたヘルゲは城という監獄。
グルリ1周。
「はてさて、どうやら面白そうであるな」
「それはもうっ。寝る間を惜しんでやっております」
「そうかい、、、」
「あ、部外者には関係の無いお話でございましたね」
「ま、、、そうだな、、、」