疾風剣と模擬戦
俺はグレッグにレベルについて聞いてみた。
「グレッグ……さんのレベルはいくつですか?」
「さん、はいらねえよ。まあお前くらいの歳の子供にパパなんて呼ばれても困るがな。お父さん、くらいならいいぜ」
にやりと笑うグレッグ。
どうやら本気で俺を養子に迎えたつもりらしい。
ありがたいやら恥ずかしいやら。
さすがにお父さんとは呼べないな。恥ずかしすぎる。
「で、なんだ。レベル? なんのだ?」
「グレッグの」
「俺か。冒険者ランクはAだが……」
微妙にちぐはぐな答えが返ってきた。
冒険者ランクAか。
まだ冒険者ギルドに行ったことはないが、これは結構凄そうな気がする。
俺はすでに剣士のスキルをひとつ習得している。
「そういえば疾風剣って分かります?」
「おお! 疾風剣! ファリス流の剣技だな」
「ファリス流?」
グレッグはイスの背もたれにぐいっと体重を預けて両手を首の後ろで組んだ。
「速度に優れた剣の流派だな。その昔、偉大な剣聖ファリスが編み出して世界に広めたんだ。他にも有名どころだとウルバン流とか霊剣流とかがあるな。サーティ、使えるのか?」
「一応」
「ほう」
グレッグの眉がピクリと動く。
何やら怖い顔で俺を見ている。
うーん、まずいことでも言ったか?
スキル欄にあったから取ってみただけなんだけどな。
ちなみに【疾風剣】、棒切れを振っただけでも斬撃が飛ぶ。射程は短いが一応遠距離攻撃だ。
実に使いやすいスキルで、巨大ウサギを狩るのに重宝している。
「ちょっと来い」
席を立ってついてくるよう促すグレッグ。
家の外に出たグレッグは庭木の枝を折って表面の皮を剣で削った。
そうして形を整えた木の棒を俺に投げてよこす。
「一回、手合わせしてみようや」
「ええっ!?」
グレッグはどうやらやる気らしい。
うーん、剣術なんてまったく知らないんだけどな。
なんとなく片手で正眼に構えてみる。
グレッグも同じような細い木の棒を構えていた。
これなら戦っても怪我はしないだろう。
お互い木の棒を持っての一対一の勝負。
「準備はいいか?」
「はい」
言った瞬間。
グレッグが消えた。
ドッ!
胸の辺りに衝撃。ダメージエフェクトは出ない。
しかし気が付けば視界いっぱいに広がる青い空。
倒されていた。
一瞬で。
何が起きたのかまったく分からなかった。
速すぎる。
今のが人間の動き?
俺もレベルを上げればこの領域に到達できるのか。
現実世界では信じられないような動きでも、この世界では可能なのだ。
「すまん。てっきり俺は基礎くらいできてるとばっかり……怪我はないか?」
「大丈夫です」
バツが悪そうな顔で俺を引っ張り起こすグレッグ。
「本当に使えるのか? 疾風剣」
「ええ。ほら」
バシュッ!
俺が棒を振ると、斬撃が飛んで庭木を揺らした。木の幹にみみず腫れのような痕が走る。
「本当だ……。サーティ、お前、誰かに師事していたこととかあんのか?」
「いえ、我流……ですね」
「マジか……」
グレッグはぽかんと口を開けてしばらく木の幹についた【疾風剣】の痕を見ていた。
それから口元に手を当ててなにやら考え込んでいる。
「うーむ。誰に教わったわけでもなく疾風剣を……。こりゃダークフォレストウルフを撃退したのもうなずけるな」
「そんなに凄いんですか?」
凄いというならグレッグの速さのほうが凄かったように思うが。
攻撃がまったく見えなかったのだから。
目にも止まらぬ速さとはああいうことを言うのだろう。
「ああ。凄いなんてもんじゃねえ。お前は天才だ。疾風剣はファリス流の基本的な技だが、並の剣士なら道場に通って習得に1年はかかる。それを独学で、しかも体の動きはまるっきり素人ときてる。こんなの初めてだ」
動きは素人。やっぱりそうだよな。
いやスキルポイントを割り振るだけで取れたんだけど。
道場に通って1年もかけて覚えるような技だったのか、これ。
「グレッグの使った技はなんだったんですか?」
「ん? ああ、なんにも使ってねえ」
そんな馬鹿な。
そっちのほうが驚きだった。
単純な身体能力差で圧倒されたらしい。
しかしなんだろう、俺は悔しさより感動のほうを強く感じていた。
俺もあんな風に強くなりたい。
レベル上げ、がんばろう。
俺は小さく拳を握りしめ、その日もウサギ狩りに精を出すのだった。
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