グレッグ一家のご招待
ゲーム内で眠り、普通に朝を迎えることができた。
眠気もちゃんと取れていた。
スッキリとした気分で俺はミラの用意した朝食を食べ、その味覚のリアルさにまた驚くことになった。
パンの食感、塗ったバターの風味。スープに入っている小さな豆まで本物と寸分違わない食感と味を楽しむことができたからだ。
食事を楽しめるゲームがあるとは。
もちろん腹も膨れる。
食後には満腹の、たしかな満足感があった。
村にグレッグが戻ってきた。
彼のことはすでにミラから聞いていた。正式な名前はグレッグ・フォルガン。三十歳くらいの金髪の男性。筋肉質で精悍な顔の男で、美男子ではなく野性味があるタイプだ。
グレッグのとなりには女の子の手を引く女性の姿があった。
こちらははっきりと美女だと言える。
名前はキアラ・フォルガン。グレッグと同じ金髪。いや、グレッグより若干色が薄いか。胸が大きく優しそうな顔立ちだ。年齢は分からないが二十歳くらいだろうか。
そして彼女に手を引かれている女の子。名前はシーラ・フォルガン。
両親と同じ金髪で毛先が少しちぢれている。赤いリボンが可愛らしい。十歳には達してないと思う。
母親譲りの可愛らしさで、将来は恐ろしいくらいの美人になるだろうと確信が持てる顔立ちだ。
病気だと聞いていたが回復したらしい。
町の医者に回復魔術で治してもらったとグレッグは語った。
村にも回復魔術を使える人間はいるが、せいぜいが怪我を直す程度で、病気を治せるほどの魔術は使えないという話だった。
最初はにこやかに笑っていた二人だったが、ジャン死亡の報を聞くと表情が沈んだ。
「なんで……俺がいない時にっ!」
ドンッ!
テーブルを叩くグレッグ。
そしてミラは昨日のことを詳しく語った。
話を聞いたグレッグは初めて俺に気付いたようにこっちを向いた。
「そうか、君が……」
「ええ、彼が私の命の恩人です」
「ありがとう、ミラを助けてくれて。本当に、心から……感謝するっ!」
目に涙を浮かべたグレッグに両手で肩を掴まれる。
痛くはないが、かなり力が入っているのは分かる。
「君、家はどこだい?」
もちろんあるわけない。
俺は首を振った。
グレッグは一度キアラのほうを振り向き、二人は何か納得したようにうなずき合う。
「そうか、じゃあサーティ。君は今日からうちの家族だ」
「えっ」
家族。そういう展開になるのか。
俺としては冒険者になって冒険、みたいな流れを期待していたのだが。
しかしレベル2の俺はダークフォレストウルフのようなヤバい魔物に出会えば、一発で食い殺されるだけの存在だ。
今は彼らの好意に甘えて、しばらくこの村を拠点にレベル上げをするのがいいのかもしれない。
冒険者になるのはある程度レベルを上げて強くなってからのほうがいいだろう。
「分かりました。お言葉に甘えます」
「ははは。もう家族なんだ。そんなにかしこまらなくていい」
「よろしくね、サーティ」
キアラも笑顔で手を伸ばしてきた。
俺はその手を取って握手を交わす。
正直俺は現実世界では女と付き合ったことが無い。その手の柔らかさに少なからず心臓の鼓動が早くなってしまう。
なにしろキアラは美人だ。
金髪巨乳美女の、現実としか思えない手の感触。
人妻だと分かっていてもゲームならと、ついよこしまな考えが湧いてくるほどだ。
と、そこで小さな目が俺を見つめていることに気付いた。
「…………」
シーラだ。
キアラの足元に隠れるようにして、俺を見ている。
警戒と興味が半々になったような、純粋でまっすぐな視線だ。
まあこのくらいの年齢の女の子なら、突然新しい家族だとか言われても納得できるわけないよなぁ。
大丈夫だ安心しろ。俺は本当の家族ってわけじゃない。お前の両親の愛を横取りなんてしない。
そもそも俺のゲームアバターはなぜか14、5歳程度のこんな姿だが、本当は成人している。
だからお兄ちゃん面するつもりもないし、レベルが上がり次第穏便に話し合って出て行くつもりだ。
「シーラ、サーティお兄ちゃんに挨拶しなさい」
「…………」
シーラはさっとキアラの後ろに隠れてしまった。
「こらっ」
「いや仕方ないですよ。それに急にお兄ちゃんだなんて言われても俺のほうが恥ずかしいです」
「そうか? まあその辺は慣れかもしれないな。気を悪くしないでやってくれ」
「ええ」
むしろこのゲームでは命の恩人だからっていきなり身寄りのない子供を引き取って家族に迎えるのが普通なのか?
いや、この夫婦がめちゃくちゃお人好しなのかもしれないが。
とにかく彼らはいい人たちだ。
ならゲームと言えどもそんな人たちを裏切るわけにはいかない。
この日から俺は彼らの世話になることになった。
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