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告白前夜、初めての泊り

「お、こっちは『給魔の護符』だ。これはいいぞ。MPが回復できる。形状は前のやつとは違うな。こっちは属性付与。攻撃時に敵を凍結させられる」


 42階層。

 魔法品ザックザクなものだから、つい効果確認が盛り上がってしまう。


「マスター、そろそろ時間のほうが」


 サラが手にしているのは時計だ。

 月と太陽が描かれた円盤が、穴の開いた丸いケースの中を動く仕組みになっている。


 ちなみにこの時計はサラの持参の魔法品だ。

 買おうとすれば家が数軒立つレベルの貴重品らしい。ただの時計なのにたいした高級品だ。


「もうそんな時間か。参ったな。一番の敵はモンスターより魔法品が美味すぎることだったとは」


「引き返さないとダメかしらね?」


 エリナは少し残念そうだ。俺だって同じだ。

 サラは時計をしまって冷静に言った。


「今日中に戻るなら、そうしたほうがいいかと」


 万全を期すならば帰るべきだが……。


「そういえばさ、ダンジョンって敵の湧かない部屋、結構あるよな」


「ええ。倒した後のボス部屋とか。罠部屋とかですね」


「なら泊りを経験しておくか」


「えっ!? 本当っ!?」


 エリナは笑顔で声を上げた。凄くうれしそうだ。


「なんだ、うれしそうだな?」


「だってだって! 物語でよく読んだもの。冒険者は仲間とキャンプしてこそ、でしょう」


 初めての泊りと聞いてテンションが上がっているらしい。


「私も反対はしません。マスターの腕輪があれば、夜間の危険も少ないでしょう。もちろん私も見張りに立ちますが」


 護神兵ちゃんはたしかに野営の見張りとしてピッタリだ。

 エリナは実家暮らしを卒業して今は門限はない。つまり、そのことについても問題はないということだ。


 食料なら俺のアイテム欄にいくらでもある。その点も大丈夫だ。


「よし、決まりだ。良さそうな無人部屋は逐一、チェックしておこう。時間になったらそこで休憩だ」


 そして俺たちはダンジョンの攻略を続けた。

 49階層。


「ボス階層前か。ちょうどいいな」


 夜になった。

 俺たちは目星をつけていた空き部屋でキャンプをすることにした。

 そして、テントを張ったはいいものの……。


「テント1つに3人だと……狭いな」


「私は見張りとして立ちますので問題はありませんが」


「うーん、俺が見張りに立ったほうがいいんじゃないか?」


 エリナと二人きりで寝ることになってしまうのだが。


「マスターはパーティーの要ですからね。しっかりお休みになって、体調を万全に整えてください。私は慣れていますので大丈夫ですよ」


 サラは笑うと結構やさしそうな顔をする。


「分かった。なら睡眠は交代で取ろう。それでいいか?」


「分かりました」


 俺は一度テントに入り、再び顔だけを出して言った。


「いいか、モンスターとかトラップとか、とにかく少しでも異常があれば躊躇なく起こせ。マスターとしての命令だ」


「了解しました」


 マスターとしての命令、なんて言葉は滅多に使わない。本当なら使いたくはない。

 サラは自分を下僕だなどと言って使用人のように振る舞ってはいるが、Aランク冒険者で、しかもエリナの師匠だ。


 だが今はそんな恥ずかしいセリフでも使って念を押す必要がある。

 そうでないとサラは無理をしてしまうような気がするのだ。

 俺はエリナが大事だが、サラだって絶対に守らなければいけない対象だ。


 テントの中は、狭い。

 どういう風に寝ようとしたって、手の届く範囲にエリナがいる。


 それどころか、手を伸ばすことすらできない。

 ちょっと腕の位置を変えようとでもしたら、それだけでエリナの体に触れることになってしまうのだ。


「なんだか……緊張、するわね」


「そうだな」


 寝よう寝ようと思っても、目が冴えてしまう。

 本当に近い。

 お互いの息遣いさえ聞こえる。


 10分? 20分?

 しばらく眠れずに固まっていた時だ。


「ねえ、サーティ」


 どうやらエリナも眠れないらしい。


「なんだ?」


「私ね、今、とっても幸せ」


「そか」


「昔の私が今の私を見たらきっと、自分だとは思わないと思う。それくらい幸せなの。それはね……それは全部、サーティのおかげ」


「あのさ」


 せっかく浸ってるところ申し訳ないのだが。


「なあに?」


「外、サラがいるからな?」


「あっ!」


 驚いた顔になって、手で口元を覆うエリナ。

 そしてその手を降ろすとき、俺の手と当たってしまう。


「ああっ!」


 また声を上げるエリナ。

 だ、大丈夫かな。サラのやつに勘違いされなければいいが。


「もう、寝よう?」


「そ、そうね」


 並んで寝ていると、となりのエリナの体温まで感じられる。

 それくらいに、近い。


「おやすみ」


「おやすみなさい、サーティ」


 眠気が訪れるまで、しばらくの時間がかかった。

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