エリナと同宿
俺とエリナとサラは、大通りに面した立派な宿の前に来ていた。
「ここがサーティの住んでる宿なの? いいところね」
まあ、豪華で目立っていたから適当に入った宿だしね。
ややぼったくり気味の、旅人ホイホイの店だ。
「マスター、この宿は主に外からの旅行者――比較的無知で裕福な方々を対象とした割高な店かと思われますが」
店の前で言ってあげないでくれるかな?
「お金が足りているからいいんだ。そういうことは思ってもあまり口に出さないように」
「ハッ、申し訳ありません」
きれいで広くて飯も出る。いいじゃないか。
「ここっていくらなの?」
「1日1万マニーだ。エリナは高いと思うか?」
「安いわね」
ずっと実家暮らしのエリナに宿の値段は分からない。
「ほらな」
「……」
サラは納得のいかない顔だった。
晴れて冒険者生活を続ける許可が出たエリナ。
さっそくダンジョンか、と思ったら俺の宿が見たいと言い出した。
なので連れてきたというわけだ。
現実世界の俺には、女の子を家に呼ぶなどというイベントは起こらなかっただけに、少し心が弾んでしまう。
「これはこれはサーティ様、お帰りなさいませ」
中に入ると宿の主人であるおばさんが笑顔で挨拶してきた。
一週間分を先払いしている俺は、下にも置かない扱いをされている。
エリナたちのことも詮索されない。
階段を上り二階へ。
そして俺の部屋。
「ここが……サーティの部屋……ごくり」
「ほう、きれいですね。男の子の部屋なのに」
サラも目を丸くしていた。
まあまだ宿泊してそれほど経っているわけでもないし。
「……」
じっと枕を見つめるエリナ。
「枕がどうかしたか?」
「な、なんでもないわ。気にしないで」
慌てるエリナをよそにつかつかとベッドまで歩き、毛布のにおいをかぐサラ。
「何してんの、お前?」
変態かな?
「どうやら清掃が行き届いているようですね。さきほど割高と言ったのは訂正させていただきます。ここはよい宿です。ご覧ください、枕カバーも取り替えてあって清潔です」
言いながら枕をエリナに渡す。
エリナは枕に顔を押し付けていた。
たっぷりと。
しかし俺の視線に気付くと、パッと顔を離して言った。
「そ、そうみたいね」
頬を赤らめながら枕をサラへと返すエリナ。
サラは枕をベッドに戻し、部屋を眺めている。
「まだ何かあるのか?」
「広い部屋です。ベッドも大きい。これなら大丈夫そうでしょう」
「何がだ?」
「私もこの部屋を使わせていただきます」
「は? ダメに決まっているだろう」
何を言ってるんだこのおっぱい剣士は。
エリナの師匠だからって、いつまでも俺が甘い顔をしていると思ったら大間違いだ。
胸がでかくて美人が相手だからといって、キアラの時のようにいつもデレデレするわけじゃない。
エリナを意識し出してからの俺は聖人になったのだ。
「ですが私はあくまでマスターの下僕。できればマスターのおそばで寝泊まりするのが望ましいのです」
「エリナを守るようエドワードから言われていたはずだが?」
「私はマスターの下僕」
「ダメだ。お前の部屋は別に用意する」
「承知いたしました」
バッと体を折って頭を下げるサラ。
なんかしてやられた感があるな。
「サーティ、私もここに泊まるわ」
「え、この部屋に?」
「ち、ちがっ。もちろん、この宿によ。私だってできる事なら……ううん、なんでもないわ」
「分かった。いいと思う。ダンジョンに通うなら城からよりこの宿のほうが何倍も近いしな」
エドワードにとっては寝耳に水の一言だろうが、大丈夫。今ここにやつはいない。
「やった!」
ぴょんと飛び跳ねて喜ぶエリナ。
実家通いではなく宿暮らしのほうが冒険者感があってうれしいのだろう。
俺といっしょにいられるから、だと俺もうれしいが。
「じゃあ下で宿屋のおばさんに話してくる」
「いえ、マスター。料金については私が」
「このくらいなんでもないさ。それに俺をマスターと呼ぶなら、マスターらしいことをさせろ。いいな?」
「分かりました」
この日からエリナとサラが俺と同じ宿に泊まることになった。
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