エリナへの想い
「私は冒険者業界に詳しいんだ。偽造された冒険者カードなど目を瞑っていても分かる。さあ、出したまえ」
俺はさっき受け取ったばかりの新しい冒険者カードを渡す。
「…………ほ、本物だ」
内股気味になってガクガクと震えるエドワード。顔には汗がびっしり浮かんでいる。
「エリナが冒険者を続けること、許可してくれますね?」
「お父様、いつも言ってましたわ。『冒険者は己の言葉にウソを吐かない。私は領主だが心は冒険者なのだ』、と」
そんなことを言っていたのか。
冒険者には悪い人間も多いのだが、本ばかり読み漁って幻想に浸る冒険者マニアには分からないのかもしれない。
というか父親がそんなだから、エリナも冒険者になってしまったのではないだろうか。
しばらく情けない格好で動揺していたエドワードだったが、ようやく落ち着いて俺を見た。
「サーティ君」
「はい」
「ちょっとこっちへ。エリナ、そこにいなさい」
俺のそでを引いて部屋の端に連れて行くエドワード。
さっきエリナにされたのとまったく同じだ。
エリナにされるならともかく、こんなおっさんにされても……。
「サーティ君」
小声で耳打ちされる。
「なんですか?」
「君、うちのエリナのこと、どう思っているんだ?」
「どう、とは?」
「とぼけなくていい。好きなのか、そうでないのか、どっちなんだ?」
たぶん世の男が女の子の父親から聞かれて、一番面倒くさい質問なのではないだろうか。
まさか自分がこんなことを言われることになるとは、思ってもみなかった。
「……」
はぁー。やれやれ。
心のため息が表に出ないようにするだけで、一苦労だ。
「答えたまえ」
「俺がエリナをどう思っていたとしても、それをあなたに言うつもりはありません」
「なぁにぃー?」
エドワードはドスを効かせた絡み声。
「なぜならそれは俺とエリナの問題だからです。たとえあなたがエリナの父親でも、言うつもりはありません」
もし言うことがあるとすれば、彼女をもらい受ける時だ。
そのときになれば堂々と言ってやろう。
その前に告白が先だ。俺はエリナにまだ自分の気持ちすら伝えていないのだから。
エリナはたぶん俺のことが好きだ。
そのことには俺も気付いている。
そして俺もエリナのことが好きだ。
それは俺の本心だ。
そう、俺はエリナに惹かれている。
彼女の見せるちょっとした笑顔から、目が離せなくなっている。
知らず知らずのうちに、好きになっていたのだ。
「……」
今度はエドワードが黙る番だった。
「……分かった」
エドワードは重々しく言って、俺を解放した。
エドワードはそのあと、少し席を外すと言って出て行った。
部屋に残されたのは俺とエリナ。
あと部屋のドア付近で彫像のように控えるメイドだけ。
「サーティ、お父様から何を言われたの?」
「え? いや、何も……」
「ふうん……」
少しの間。
「サーティ、今日はありがとう」
「ん?」
「サーティがお父様に言ってくれたから私、冒険者を続けられるわ」
「どうだろう? あの人はまだはい、とは言ってないからな。安心するのは早いかもしれない」
「ううん。お父様は自分の言葉には責任を持つ人だもの」
「そっか」
たしかに見た目はチャラいし、領主の威厳ゼロだが、あまり悪い人という感じはしなかった。
ああそうだ、これは言っておかないとな。
「それにしても、さっきのエリナの語りは盛りすぎなんじゃないか?」
「え?」
「まさかエリナに吟遊詩人の才能があるとは思わなかったけど、話の中の俺は美化されすぎだと思う」
まあエリナもエドワードを乗せるためにだいぶ盛ったんだとは思う。
しかしギルドでの演説もある。他の場所で同じように俺のことを美化して語られたら、たまったものじゃない。
「ううん。全然よ。むしろ、本当のサーティに比べたら控え目すぎるくらい」
そんなわけはないと思うのだが。
「だってサーティは、私にとっての……」
そこでエリナは言葉を止める。
なんとなく俺も言うべきセリフが見当たらなくなる。
また少しの間、部屋に沈黙が流れた。
先に口を開いたのはエリナだった。
「ふふ、サーティの冒険者カードを見たときのお父様ったら。ふふふ……」
「はは」
エリナの親を笑うつもりはなかったが、あれは仕方ない。
「待たせたね!!」
バアン!
エドワードが戻ってきた。
一人の女性を連れて。
モデル並みの長身の巨乳美女だ。
ポニーテールの赤髪。
下着なのかと思うほどの薄着。下などホットパンツしか履いていない。
引き締まった体には無駄な肉が一切付いていない。胸以外は。
凛とした顔つきの、まさに女剣士。
「師匠!?」
エリナが声を上げた。
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