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VRMMOっぽい異世界でスキルを取りまくって女の子と一緒にアイテム集め―最強の冒険者生活を満喫する  作者: 鉄毛布


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エリナと冒険者マニアの父

 俺はアルシャン領主、ウェイクス卿の城へ招待された。

 エリナもいっしょだ。

 ウェイクス卿の使者が彼女の名前を出したからだ。


 つまり、どうやらエリナはもう実家に冒険者をしていたことがバレてしまった、ということらしい。

 馬車の中でエリナの過去を聞いた。

 父親から怒られて一度冒険者を辞めなければならなくなったことも聞いた。


 よほど冒険者に対し理解がない人物に違いない。

 俺を呼びつけたのはドラゴンのもたらす利益に目を付けたからか。

 それともエリナを叱りつけるためか。


 もしかしたら娘をたぶらかしたと勘違いされて、俺が領外追放なんてことになるのかも。

 そう思っていたのだが……。


「やあサーティ君。よく来てくれたね。さあ座ってくれ! 私はエドワード・フェイグランド・ウェイクス。この町の領主だ。と言っても緊張しないでくれ。今日はただ、君の話が聞きたくて呼んだんだよ」


 広くて豪華な城の客間。

 エリナの父エドワードは、少しチャラめの見た目の中年男性だった。

 言動も仕草も芝居がかっていて大げさだ。


「話、ですか」


「そうだ。だって気になるだろう? 冒険者ランク最速昇格記録を塗り替え、誰もやらないケイブスパイダー討伐をクリアし、ドラゴンの全身を持ち帰った英雄! しかもそれがまだほんの少年と来てる! 気にならないほうがおかしいじゃないか!」


「ケイブスパイダーの件についても知ってるんですか?」


 あの討伐クエストが苦行だというのは冒険者くらいしか知らないと思うが。


「はっはっはっは! 私は実は冒険譚が大好きでね。冒険に関する本をたくさん集めているし、有名な冒険者がいれば会って話を聞くんだ。だからその手のこともよく知っている」


 冒険者に理解がないどころか、逆じゃないか。


「でも有名な冒険者には偏屈者も多くてね。呼び出しに応じてくれなかったり、応じても話を聞かせてくれない者も多いんだよ。なあサーティ君。君は断ったりしないよね?」


 哀れっぽい顔で懇願するエドワード。

 領主の威厳、なし。


「お父様、あの、私のことは……」


 俺のとなりに座るエリナがおずおずと聞いた。


「不問にする」


 即答だった。


「え……」


 なんだ、いい父親じゃないか。

 エリナの顔に希望が差した。


「それではお父様。私、今後も冒険者として活動をしても」


「それとこれとは別だ」


 あ、やっぱりダメなんだ。

 エリナはあからさまに落ち込んで肩を落としてしまった。


「エリナが冒険者を続けることは許さない。しかしサーティ君の話には興味がある。だから彼に免じてお前に罰を与えることはやめよう。さ、ドラゴン退治の話を聞かせてくれ」


 一瞬厳しい顔を作ったかと思えば、少年のようなキラキラした顔で冒険の話をせがむ。

 このおっさんが変わり者だということは分かった。


「お父様、ちょっとお時間をください」


「んむ?」


 エリナは俺のそでをちょこんと引いて部屋の端に誘導した。

 耳元に口を寄せてくる。

 ひそひそと小声で話しだした。


「サーティ。私といっしょに、お父様を喜ばせてあげて」


「喜ばせる?」


「お父様は冒険者の話が大好きなの。マニアなのよ。だから今回のことで上手くお父様を乗せられれば、気分がよくなって私に冒険者を続けさせてくれるかもしれないわ」


 それならば俺にも異存はない。


「分かった。やってみよう」


「ずいぶんと仲がいいんだね?」


 エドワードが聞いてくる。

 娘との関係を疑われてしまっただろうか?


「やっぱり仲間としての絆ってやつかい? いいね、聞きたい。うちのおてんば娘が君といっしょにどんな冒険を繰り広げたのか、興味がある」


「もちろんですわ、お父様」


 ここがチャンスと見たのだろう、エリナは胸を張った。

 結論から言うと、俺の出番はほとんどなかった。


 エリナの語り口調は臨場感と脚色に満ちていて、吟遊詩人のように聴衆を引き込んだ。

 ギルバートの前でした演説とはまた違う、物語としての魅力を含ませたものだった。


「その時彼が渡してくれたのがこれです。彼は先祖代々伝わるこの護符を私に託し、私の命を救ったのです」


 テーブルの上に置いたのは、効果を発揮して模様の消えた『身代わりの護符』だ。


「お、おおお……なんと。聞いたことがある。冒険者の中には時折、信じられないような奇跡を発揮して危機を脱する者がいると。神の加護かそれとも偶然なのか。長らく謎とされてきた冒険者の奇跡の数々には、こういった魔法品が関わっている事例があったのかもしれないな」


 震える指でメダルを触るエドワード。

 先祖代々どころか露店でガラクタ扱いされていたのだが、黙っておこう。


 エリナの物語は終盤に入る。

 ナックルの裏切りと俺の大立ち回り。

 正直脚色されすぎていて、聞いているこっちは背中の辺りがむずかゆくなるような内容だった。


 エドワードは握った拳を震わせて話に聞き入っていた。

 そして話はラストへと進む。


「目を覚ましたドラゴンは己の慢心を悟った。目の前にいるのはただの少年ではない。自分を倒しうる、勇者なのだと。だが問題はない。自分は気絶していただけだ。あとは渾身の一撃を浴びせるだけ。それで目の前の勇者は地に伏すだろう。来るがいい、人間よ。この竜の王が牙と爪、そして灼熱の炎でお相手しよう。もう慢心はない。正真正銘、全身全霊をかけた、一騎打ちだ」


 ドラゴンの視点まで入っていた。

 実際ドラゴンがそんなことを考えていたかは別として、エドワードはごくりと生つばを飲んだ。


「部屋を染め上げるほどのブレスが彼を包み込んだ! 彼はどうなった!? 白煙の中から姿を現した勇者は一直線にドラゴンへと飛びかかる。直後、雷鳴が響き渡った。勝ったのは勇者だ! ドラゴンの上に立ち、その剣を高々と掲げた。さらば竜の王よ。お前のことは忘れない。俺の記憶の中に眠れ」


 エリナは抜いた剣を高く掲げ、そう話を締めくくった。

 エドワードが叫んだ。


「素晴らしぃぃぃぃぃぃい! サーティ君! 君は紛れもない英雄だ! 私は心から感動した!」


 ブンブンブンブン!


 俺の両手を掴んで振るエドワード。両の目から大量の涙を流していた。

 訂正したい点はいくらでもあったが、今はエドワードを乗せるのが目的だ。


 そしてそれは成功した。

 なら俺が言うのはこうだ。


「いえ、エリナの力なくしては為しえなかったことでしょう。物語の勇者のとなりには常に生死を分かち合う、仲間がいる。違いますか?」


「ふむ、たしかに……」


 真剣な顔でうなずくエドワード。

 やったか!?


「お父様……」


 エドワードはしっかりとエリナを見据えて言った。


「だがダメだ。言っただろう、それとこれとは別だ。お前は私の娘で、私は娘が危険な稼業を続けることを許さない」


「でもお父様! 私は冒険者を続けたいんです!」


 エリナが珍しく声を張り上げている。ギルドでもそこまで大きな声は出さなかったのに。


「ダメだダメだ。私はお前が心配なんだ」


「何が心配なんですか! 私だってもう立派な冒険者! 自分の命にくらい責任を持てます!」


「それで死んだら誰が悲しむと思っている? 私だ。お前が死んだら私は自分が許せない」


「お父様の分からず屋!」


「ああそうだとも」


 親子喧嘩だ……。

 しかし聞いた話だと前回はそれでエリナは家に閉じこもって泣いて過ごしていたらしいが。


 今の、一歩も引かずに言い合っている様子を見ると、とても想像がつかない。エリナも変わったということだろうか。


 正直親子喧嘩に口を出すとかしたくはないのだが。

 まあ俺だって冒険を楽しみたくてこの世界に来たからな。

 だからエリナの気持ちが分かる部分もある。


「エドワードさん」


 エドワードが俺を見る。


「エドワードさんの気持ちも分かります。親は子を愛し、心配するものですから。ですが、子はいつか巣立っていくものなのです。それを受け入れられないのは、親が子離れできていないだけです」


「なっ……」


 絶句するエドワード。


「俺が責任を持ちます。エリナは絶対に死なせない。だからいっしょに冒険をする許可をいただけませんか?」


「サーティ」


 エリナが目をキラキラさせて俺を見る。


「……」


 エドワードは目を閉じて何かを考えている様子。

 そして何かを思いついたように、その口元に笑みが浮かんだ。


「ダメだ。さっきの話はたしかに凄かったし、実力もあるんだろう。しかしだ! 君には圧倒的に足りないものがある! それは何か! そう、経験だ!」


 ぐっと握りこぶしを作ってポーズを決めるエドワード。

 ビシッと俺に指を突きつけて宣言した。


「10年だ。10年修行し、冒険者としての経験を積みたまえ。そうしたら私は許可を出そう。そのときまでエリナがどこの家にも嫁ぎに行っていなければ、の話だが」


 それから腕を組み、神妙な顔でこんな言葉を付け加えた。


「私は無理を言っているつもりはないぞ? たとえば、今ここにいる君がAランクだったのなら、私も経験どうこうなどと言うつもりはなかったのだからね」


 無茶な要求を突きつけ、その後に譲歩したようなポーズを取る。

 交渉の基本的テクニックだ。


 しかしその譲歩の内容は譲歩とはとても言えない。

 俺が冒険者登録をしたばかりで、ランクも低いというのは、わざわざ調べずとも簡単に分かる話だ。


 だが……。

 エリナはぽかんとした顔でエドワードを見る。

 俺も同じような気持ちだ。


「ん? どうした?」


 エドワードだけが気付いていない。

 自分が墓穴を掘ってしまったことに。


「えと……俺、Sランクです」


「はあああああああああああああああああ!?」


 エドワードの絶叫が響き渡った。

ここまで読んでいただいた皆様に、心よりの感謝を!

もしちょっとでも面白いなって思っていただけましたら

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作者のモチベに繋がります!めちゃくちゃうれしいです!

本当にありがとうございます!

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