4ランク飛び級!?Sランク冒険者昇格!
俺が連れて行かれたのは冒険者ギルド4階の一室だった。
2~3階までは食堂や多目的ホール。それに資材置き場。だいたいは冒険者のための施設が入っている。
しかし4階はギルド職員のためのスペースだ。
資料室やら金庫室があるとの話だが案内はしてくれなかった。
「座ってくれたまえ」
俺とエリナに、ソファーに座るよう促すギルバート。
その部屋は一言で言うなら、社長室。
部屋自体はそれほど広くはないが、高級そうな家具とかを見ても、いかにも偉い人のための部屋という感じだった。
社長……ではなくギルバートの机の両側には、二人ずつ、合計四人の人物が並んでいる。
彼らはみな年かさで貫録がある。かなり地位が高そうだ。
ギルバートの部下、というよりギルドの重役だろう。
「昨日は各方面から呼び出されて出ずっぱりだったからね。君に会えなくて申し訳なく思っている。本来なら真っ先に会うべきだったというのに」
「いえ……」
いきなり謝罪から始めるギルバート。
さっきも部下の職員を使いに寄越すわけでもなく、自ら俺に会いに来た。
それだけでもこの呼び出しが、お叱りや罰則の類のものではないことが分かる。
しかし、エリナの様子を見ると、どうもそうは思っていないようだ。
エリナはずっと、ギルバートと目を合わせられずに、震えている。
まあお偉いさんからの直接の連行、緊張しない方がおかしいか。
「エリナ、大丈夫だよ。別にこの人は俺らをどうこうするつもりじゃないらしい」
「ああ、エリナ嬢にはきっと別の懸念があるのだろう。私も御父上から話は聞いているからね」
びくっとエリナは体を跳ねさせた。
エリナ嬢?
ギルバートは笑った。意外と優しそうな笑顔だった。
「大丈夫。私は冒険者の味方だ。君が望まないのなら、御父上に報告したりはしないよ」
「ありがとうございます」
頭を下げるエリナ。
「はっはっは。こう言っちゃなんだが、冒険者ギルドは世界中に支部を持つ、ある意味ちょっとした国家だ。いくら領主と言えども、ちょっとやそっとでは手出しができないんだ」
領主?
「ギルバートさん」
「なんだね?」
「つまりエリナは、領主の娘、ということでいいんですか?」
ちらりとエリナへ視線を向けるギルバート。
「そうだ。エリナ・フェイグランド・ウェイクス。アルシャンの町を治めるウェイクス卿の第四子に当たる、ご息女だ」
エリナが領主の娘。
いいところのお嬢様なんだろうな、とは思っていたが。
「ごめんなさいサーティ。今まで黙っていて」
「いや、全然。エリナはエリナだよ」
エリナは胸に手を当てて、ほっと息を吐いていた。
たとえ領主の娘だろうがなんだろうが、特に何か変わるわけではない。
俺はエリナへの接し方を少しも変えるつもりはなかった。
「それでは、話を戻そうか」
「はい」
「サーティ君はこの町に来てまだ間もないという話だったね。冒険者登録をしてすぐに歴代最速昇格記録を塗り替えた。ファリス流の剣技だけでなく、強力な魔術をいくつも習得しているとか。素晴らしいことだ」
「いえ、そんなことは」
「うむ、謙虚な少年だ。実力ある若者ほど、自身の力を誇示したくなるものだが。特に冒険者という職業ではそれが顕著だ。君はその点でも稀有な才能を持っているようだね」
いや誇るも何もスキルポイントを割り振って取っただけだし、そんな自慢するようなものでもないってだけだ。
「それで、今日ここへサーティ君を呼んだのは他でもない」
ギルバートはそこでいったん言葉を止め、間を開けた。
「冒険者ギルド規定により、冒険者ランク特例措置を適用することを伝えるためだ」
「特例措置?」
「うむ。たった今協議の結論が出たところでね。サーティ・フォルガン君、君をSランク冒険者に認定する」
「え?」
ちょっと何を言っているのか分からない。
Sランク?
ええと俺の今のランクはDだから……C、B、A、でその上だ。
4ランク飛び級?
それはさすがにやりすぎだと思うのだが。
「あー、ちょっと待ってもらっていいですか?」
「ふむ?」
ギルバートは机の上にひじを立てて、手を組んでいる。
「聞いた話だと半年前にSランクパーティーがドラゴンを倒したことがあるとか。なのでドラゴンを倒したらSランクの実力がある、と思ってしまうのは仕方ないことかと思いますが」
そこはしっかりと言っておかなければならない。
「俺の場合ドラゴンは気絶してましたし、魔法品の効果もあります。たとえば、たった一人でもう一度ドラゴンと戦ったとして、倒せるとは限りませんよ?」
「サーティは凄いです!」
なぜか、エリナが声を上げた。
ソファーから立ち上がっていた。
「ファリス流だけでなくウルバン流の剣技も使って、魔術も、ドラゴンが棲み処にするほどの、大部屋全体に効果を及ぼす大魔術。いったいどれほどの魔術師がそんな魔術を使えるというのでしょう。私たちは裏切りに遭いました。Aランクの3人です。サーティは強力な魔法品を持つ彼らから私を守って戦い、見事勝利を収めました」
力強い語気で話すエリナ。
その語りの口調には、はっきりと熱がこもっていた。
「それだけではありません。撤退戦です。私とサーティ。Eランクの二人だけです。もっとも私は全身が痺れて動けず、ずっと彼に背負われていました。役立たずとなった私を背負いながら、彼は30階層帯の強敵たちと戦い続けたのです。10階層でボスとして君臨するような魔物が複数出る、あの30階層帯です」
ギルバートも重役たちも口を挟まない。
「彼は無限とも思える魔物の軍団を退け、地上へと帰りつきました。私というお荷物を背中に背負ったままで。いかな物語の英雄でも彼ほどの冒険者は存在しません!」
演説を終えたエリナ。
真剣そのものといった顔だ。
「話は分かった」
ギルバートが重々しく言った。
「だがエリナ嬢、君は少し勘違いをしているようだね」
エリナは冷や水を浴びせられたような顔になった。
ギルバートは可愛い孫を見るような、好々爺の表情になる。
まぶしそうに目を細めている。
「Sランクの昇格規定に強さは関係ないんだ」
「「えっ……」」
俺とエリナの声が重なった。
「Sランクの昇格規定、それは人類史に残る偉業を達成した者に限られる。救国の英雄や、前人未到の大発見を成し遂げた者だね。だからSランク冒険者の数は極端に少ないんだ。そしてサーティ君はその条件を満たしている。なにしろ人類史上初めて、エンシェントドラゴンの全身を地上に持ち帰った英雄なのだから」
そこで、重役の一人が口を開いた。
「しかし今までAランクに達していない者がSランクへの条件を満たすなどなかったことだ」
別の重役も言う。
「冒険者ランクを持たない英雄が条件を満たすことはあっても、冒険者でない者にまでランクを押し付けることはできませんしな」
「なので果たしてDランクに上がったばかりの冒険者をSランクに上げてしまっていいものかと、協議をしていたのですわ」
「だから特例措置、ということなのだよ」
ギルバートが立ち上がる。
「ギルバート・ドルファングの名の下に、サーティ・フォルガンをSランク冒険者とすることをここに宣言する」
なるほど。
きちんとした理由がある以上、謙遜しても相手に失礼になるか。
エリナの想いにも応えてやりたいしな。
Sランクの器が自分にあるかと言われればまだ実感はないが、まあ受けてもいいだろう。
背筋を伸ばし、はっきりと言った。
「サーティ・フォルガン。その決定をお受けいたします」
パチパチパチパチパチパチ。
俺が新しい冒険者カードを受け取ると、その場の全員が笑顔で拍手してくれた。
「冒険者ギルドの歴史の新たな1ページに祝福を」
「当館からSランク冒険者が出るとは、喜ばしいことだ」
「これからの君の活躍に期待する!」
「ふふ、私の若い頃を思い出しますわね。がんばりなさい」
その時だ。
「失礼します」
「入れ」
職員が一人入ってきた。
「ウェイクス卿からお迎えの馬車が。サーティ・フォルガン様を城に招待したいとのことでございます」
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