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祭りの日、エリナと串焼き肉

 翌日。

 アルシャンの町は祭りになった。


『有史以来初! ダンジョンからドラゴンの全身を持ち帰った英雄! サーティ・フォルガン提供、エンシェントドラゴンのステーキ。ご自由にお持ちください』


 などという横断幕がでかでかと掲げられ、その下ではドラゴンの肉を焼く大勢の職人。焼かれた肉は木皿に乗せられ、提供台に置かれる端から持っていかれている。


 いやドラゴンを持ち帰った英雄ってのはどうなんだ?

 いまいち格好のつかない呼ばれ方な気がする。もちろん格好をつけるつもりはないが。


 ああそうか。

 たしか半年前にも40階層を突破した人はいたって話だしな。

 倒すこと自体はそれほど珍しくないのだろう。


 ちなみにドラゴンは昨日から徹夜で解体され、今も大勢の職人が解体作業に当たっている。

 町の肉屋のほとんどが参加しているとか。


 仕事を休んでいいのか? とちょっと思ったりもしたが、たぶん見返りとしてその肉のいくらかを自分の店で売るためにいただいていくのだろう。


 肉屋がどれだけ持って行ってもこの大きさだ。到底なくなりはしない。

 腐ればただの生ゴミになるので、もちろんケチなことは言わない。


「邪魔だじじい! どけっ!」


「何を言っとるか! これがどれほど貴重な物か分からんのか! わしゃこのために定例学識者会議を欠席してきたんじゃぞ!」


 解体中の職人と言い争ってるのは学者だ。

 ドラゴンの内臓の構造について調べているとか。

 物凄く権威があるじいさんらしいけど、職員から聞いた名前は忘れてしまった。


 腕っぷしの強そうな職人に怒鳴られても一歩も引かない。

 弟子らしき学者たちを引き連れてドラゴンを調べてる。

 もちろん学者はギルドや領主の許可の下、調査を行っている。そんな学者先生を怒鳴れる職人のほうが怖いもの知らずなのだ。


 俺はエリナと二人でギルドの壁際に立っていた。


「こ、これがドラゴンのお肉、なのね……」


 ごくりとあごを引くエリナ。

 なんだろう、皿の上の串焼きを、まるで強敵を前にしたように見つめている。

 ステーキはさすがにどこかで座らないと食べにくい。しかし周囲の座れる場所はほとんど埋まってしまっていた。


 だから立って食べれられる串焼き肉。

 だけどエリナは手に皿を持ったまま食べようとしない。


「どうしたんだ?」


「えっと……」


 悩まし気な表情の上目遣いで、今度は俺を見てくる。

 そんな目で見つめないでほしい。可愛い。


「私、串焼きって食べたことがないわ」


「えっ!?」


 マジか。

 串焼き露店なら今日に限らず町には結構あるんだけど。


「どうやって食べればいいのかしら?」


「かぶりつけばいいんだよ」


「えっ!?」


 今度はエリナが目を見開いて驚いていた。


「分かったわ……」


 手に取った串焼きを恐る恐る口に運ぶエリナ。

 縦笛を吹くように垂直に食べようとしている。

 その手が止まる。


「今度はどうした?」


「この串、のどに刺さってしまわないかしら」


 思わずズッコケそうになる自分を気合で自制する。


「最初は縦でもいいけど、横にかぶりつくんだ。見てて」


 俺が手本に一本食べてやった。


「わぁ……」


 目を輝かせるエリナ。

 そんな、ドラゴンを倒した伝説の勇者を見るような目で見ないでくれ。可愛い。


「ん……おいしい!」


 エリナも一口食べて、笑顔を咲かせた。


「私、ドラゴンのお肉って初めて食べたわ。なんだか……物語の味って感じがするの」


 俺に肩をくっつけながら、しみじみと。


「だな。結構いけるな」


 エリナの言っている意味は分からないが、うまい。


「うん。お家で出されるお肉よりおいしいわ。でも不思議ね。ソースも何もかかっていないのに」


「うまい肉は塩だけでも結構いける。ああ、ほら、脂ついてるぞ」


 俺はエリナの口元を指で拭ってやる。


「ごめんなさい。上手に食べられなくて」


 しょんぼりされてしまう。

 ちょっと脂が口元に付いただけで、なぜ?


「いや初めてだって言ってただろ? そんなもんだ」


 言いながら、拭った指をぺろりと舐める。


「あっ!?」


 エリナが驚いて俺を見る。


「どうした?」


「今その……私の……」


 あっ、そうか。


 間接キス、とまではいかなくても、近いような行為か。


「……」


「……」


 何とも言えないこの空気。

 何人かが俺たちを眺めてニヤニヤ笑いを浮かべていた。

 ひやかしにきたら手刀の【疾風剣】をプレゼントしてやろう。


「あー君、ちょっといいかな」


 俺は手刀を構えて振り返り――。


 ……誰だ、このおっさん。

 物凄く偉そうなオーラを持つおっさんが立っていた。

 真っ白くてでかいヒゲをした、白髪のおっさん。たしかカイゼル髭という形のヒゲだ。


「私はギルバート・ドルファング。アルシャン冒険者ギルドの責任者だ。……君がサーティ・フォルガン君、でいいのかな?」


「そうですけど、何か?」


「少し、話がある。上まで来てくれ」

ここまで読んでいただいた皆様に、心よりの感謝を!

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本当にありがとうございます!

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