人類史上初の偉業
冒険者ギルド前の大通りに、巨大なドラゴンが、デン、と出現したのだ。
アルシャンの町はもう夕暮れ時だというにも関わらず、まるでハチの巣をつついたような大騒ぎになった。
「ぎゃああああああっ! なんじゃこりゃああああっ!」
「どこから現れた!? 襲撃か!? Sランク冒険者を呼んでこいいいいい!」
「終わりだ! もうダメだああああああっ!」
「いや待て! こいつ死んでるぞ! 誰がやったんだ!?」
いやさすがにドラゴンの死体はアイテム枠を使った。
まさか20スロットも埋まるとは思っていなかった。
気にしたこともなかったが、ひょっとしたらダークフォレストウルフの時も2、3スロットぐらいは使っていたのかもしれない。
ちなみにエリナは日が暮れる前に大慌てで帰っていった。門限があるとかなんとか。実家暮らしなのかな。
ドラゴンの前に立っているのはあの受付嬢。
受付嬢を囲むのは大勢の人だかり。
受付嬢はわたわたと何かを説明し、その指が俺を指す。
あ……。
受付嬢を囲んでいた連中が一斉に俺のほうを向いた。
「うおおおおおおおおお! お前がやったのか! マジかよ!!」
「なんだって!? こんな子供が! ウソだろ!?」
「いや待て知ってるぞ! 冒険者ランクの、歴代最速昇格記録を塗り替えた天才少年だ!!」
「あいつがそうなのか!! おおおお、たしかによく見れば高貴そうな顔をしている! きっと有名な剣豪か、伝説の魔術師の息子に違いない!」
いや、顔は平凡だよ。モテたことのない俺が一番よく知っている。
「ファリス流の剣技を使うって話だ! 剣聖の血を引く神童だ!!」
知らない設定が勝手に作られている……。
「ああ、俺も見たぜ。あの歳にしてすでに疾風剣を使っていた。とんでもない天才だ」
疾風剣は道場で修業すれば身につく技だろう。そんなに珍しいはずは……。
「あの子の収納魔術を見たか? 神話にすらないすげえ魔術だぞ!」
「なるほど! じゃあこのドラゴンもそうやって運んだのか!! とんでもねえな!」
騒いでいるのは男たちだけじゃない。
横を見れば女性たちの集団が熱い眼差しを向けてきていた。
「あの子、よく見たら可愛いわね」
「今のうちにツバ付けちゃおっかなー」
「あんたなんかじゃ絶対釣り合わないわ」
「今度勇気を出してお食事に誘ってみようかしら」
「はわぁぁぁぁ……ステキ……」
な、なんだこれ……。
まるで値踏みをするようなじっとりとした視線は、生まれてから初めて感じる類のものだった。
騒ぎの収拾のためか、ギルド職員たちも大勢出てきた。
彼らは慌ただしく仕事を始める。
ドラゴンの体を検分する職員。
人垣の整理に当たる職員。
俺のほうへ来る職員。
「サーティ・フォルガン様、ちょっとよろしいですか?」
「はい」
職員4人に囲まれてしまう。
圧迫面接の開始か?
「このドラゴンですが、価値のほうはご存じでしょうか?」
「いえ……」
「これはエンシェントドラゴン種で間違いないかと思われます。ダンジョン40階層での討伐ということでしたので、過去の記録と照合させていただきました」
「そうですか」
「過去にも瞳や爪、牙、ウロコなどを持ち帰った冒険者はいます。直近ですと半年前ですね。Sランク冒険者のパーティー『片翼の大鷲』です」
意外と最近だな。
ということはそれほど珍しいことでもないのでは?
みんな驚きすぎだ。
「その金額ですが、部位にもよりますが1か所で100~1000万マニーにはなります。しかし全身となると――」
そこで一呼吸溜める職員。
「小国の国家予算程度には達するかと」
「なっ――」
「現在エンシェントドラゴンの生存は地上では確認されておりません。ダンジョンにしかいない上に、全身を地上へ持ち出すのは事実上不可能です。つまり、この死体の価値は学術的な面も含めて大変に高い、というわけです。間違いなく、人類史上類を見ない偉業です」
話が大きすぎて理解が追い付かない。
「いかがなされますか?」
いや、どうすればいいんだよ!
国家予算レベルのドラゴンの処分の方法なんて、そんなもん知るわけないだろ。
「瞳、爪、牙、皮、骨等の希少部位につきましては当ギルドで引き取らせていただいて、後程マニーをお渡しするということでよろしいですか?」
「それでお願いします」
うなずくことしかできない。
「次は肉なのですが。これは持ち帰った前例がないのでギルドとしましても、どう処理していいのか皆目見当が付きません。文献では美味、とありますが。ひょっとしたら好事家の貴族等が欲しがるかもしれません。ですが生モノですので、放っておけば腐るだけです。冷凍させるにも、ギルド滞在中の冒険者総出で魔術を使っても難しいでしょう。人件費もバカになりません」
ああ、それなら。
テキトーに思い付きで言ってみる。
「みんなで食べるってのはどうですか?」
「えっ!?」
驚く職員。
「それでしたら。……でもいいんですか?」
「ええ。みんなでパーッと食べましょう」
「「「「「うおおおおおおおおおおおーーーーっ!!」」」」」
会話に聞き耳を立てていた周囲の冒険者たちが一斉に歓声を上げた。
ドラゴンの肉は町の人々に振る舞われることになり、この話は瞬く間にアルシャンの町中に知れ渡ることとなった。
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