表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/48

冒険者ギルドへの帰還

 ナックルたちの死体はアイテム化できなかった。

 俺は何も後ろめたいことはないので、こいつらの犯行を黙っているつもりはなかった。


 だから一応証拠として持って行こうと思ったのだが、人間の死体はアイテム化できないらしい。

 人間の死体から物を漁る趣味はなかったが、雷帝の剣と腕輪だけは持っていくことにした。

 元々腕輪はエリナにくれるとこいつも言ってたしな。ウソだったようだが。


 そしてエリナだ。

 おそらくライザに嗅がされたのは痺れ毒だ。

 囮として使うなら生きた人間が最適だろうから、致命的な毒ではないことはすぐに推測できた。


 うかつだったのはスキルポイントだ。

 万全を期して今日に臨むため、余さずポイントを使ってしまっていたのだ。


 ドラゴンを倒して2レベル上がっていた。雑魚敵の数百匹分の莫大な経験値だ。

 その2ポイントを使ってみたが、LV3の【回復】では解毒効果は付与されなかった。


 仕方ないのでエリナを背負うことを提案した。

 エリナは女の子だ。

 断られないか心配だった。


 しかも彼女はめちゃくちゃ可愛い。背負うなら、太ももを触らなければならない。そのことに気付いてしまって、それが態度に出てしまった。


 下心アリと思われれば警戒されて断られる。

 そう危惧してさらに動揺してしまった。


 が、どうやら心配は無用だったらしい。エリナは背負われることを了承してくれた。

 ほっと安心して彼女を背負ったものの、その体の柔らかさに、俺は心中穏やかではなかった。


 太ももを支える手のひらに、全神経を集中させてしまった。

 太ももの感触だけではない。

 背中に感じる柔らかさ。


 エリナの胸当てはドラゴンに吹っ飛ばされた際に破損して、スクラップになっていた。

 今は下に着ている服だけだ。

 つまり、感じるのだ。

 ふくらみを。


 それにこの鼻先をくすぐるエリナのにおい。

 不思議だ。

 女の子のにおいはなぜこんなに魅惑的なのだろうか。


 歩く度にエリナのサラサラ髪がふわりと揺れて、俺の頬をくすぐってくる。

 うなじにかかる、彼女の吐息。

 ずっとこうしていたいような気持ちよさ。


 そのとき俺は見た。

 36階層七つ目の部屋だ。


「ハイオークウォリアー、もう湧き出したか」


 手加減はしない。

 【炎槍】を詠唱。


 ドオッ! ゴバアッ!!


 着弾した【炎槍】はハイオークウォリアーを火だるまにする。

 しかし、起き上がってくる。

 火力が足りないらしい。


 こいつらは耐久力が高いのが厄介だ。

 【火球】。


 ゴオッ!


 倒した。

 次の部屋。

 また湧いていた。

 今度は4匹だ。


「サーティ……」


 エリナの声は震えていた。

 俺は意識して力強い声を出す。


「大丈夫」


 この調子ではMPが持たない。MP自然回復量が追い付かない。

 最適なスキルを選択しなければならない。


 バシャアアアアアアァァッ!!


 【氷結波】。

 十分に魔物を引きつけてから放って、一気に凍らせる。

 トドメは刺さずに階下へと急ぐ。


 帰り道のルートは迷わない。

 【追跡】を使えば、行きに付けた俺たちの足跡がはっきり浮かび上がるからだ。


 28階層。

 数が多い。

 デススパイダーが軽く10体はいる。

 【氷結波】。


 バシャアアアアァァァッ!


 凍らせる。


 24階層。

 【氷結波】。

 が、出ない。

 MPが尽きた。


「サーティ、魔物が……」


「大丈夫だ」


 考える。

 エリナを降ろして雷帝の剣を抜くか。

 しかしこの数だ。

 彼女を守りながら戦えるか?


 いや。

 思い出した。

 露天商から買った魔法品。

 その中に消耗時効果が付いていたものがあったはずだ。


 たしか身に付けて……あった。

 懐から取り出したのは『給魔の護符』。

 見た目は割りばしだ。

 使い方はたぶん。


 パキッ!


 歯を使って片手で折った。


 カアアァァッ!


 光があふれる。

 MPの回復を確認。

 【氷結波】!


 バシャアアアァァッ!


 魔物たちは氷の彫像となって沈黙した。


「今のは……?」


「こういう時のためにとっておいた魔法品だよ」


「すごいっ……!」


 エリナの声色にはっきりと感嘆の色が混じっていてくすぐったい。

 そして20階層。


「もしかしてと思ったが……湧いてるか。クリスタルスタチューだっけか?」


 全身透明な鉱物の魔物。

 ゴーレムって感じの見た目だ。

 大きさは当然のようにでかい。

 5メートルはある。


「あのボス、たしか魔術が効きにくいって……」


 言ってたな、そんなこと。


「少し、降ろすよ」


「うん」


 エリナを降ろして雷帝の剣を構える。

 クリスタルルタチューが俺たちに気付く。


「ギガガガガガガガガガガ」


 叫びながら向かってくる。

 その姿を真正面に捉えて――。

 【斬岩剣】。


 ピシャアアアァァァァァン!!


 落雷の轟音と共に真っ二つに割れるクリスタルスタチュー。

 割れ目からさらに細かいヒビが無数に走り、粉々に砕け散った。


「やったわ!」


 エリナは目を輝かせて拳を握っていた。

 ん?

 もう動けるのか?


「……」


「……」


 見つめ合う俺たち。


「えっと……お願い……」


 すっと手を降ろして動けないアピール。

 ここで事実を指摘したらきっと気まずくなる。

 あともう少しで帰れるのだ。


 空気が悪くなるようなことは言わない。

 空気が悪くなればパーティーとしての連携が乱れ、意思伝達に支障をきたす可能性がある。うん、そういうことだ。


 ……エリナの太ももをまた堪能したかったことは認める。

 俺たちは地上に戻ってきた。

 ギルドにたどり着くと同時に、エリナはすっと自分の足で立った。


「あ、毒、治ったんだ」


「うん。ありがとう。すごく、その……なんでもないわ」


 恥ずかしそうに言葉を詰まらせるエリナ。


 すごく……なんだろう?

 背中のエリナは痺れていたので何度もずり落ちそうになった。

 その度に俺は彼女の位置を直さなければいけなかった。


 戦闘中、片手で背負わなければいけないシーンも度々あった。

 つまり、太もも以外の場所に手がかかることが多かった。

 すごく、その……なんでもないです。


「そ、そっか。……じゃあ受付、行こうか」

「……そうね」


 俺はエリナの分と合わせてハイオークウォリアー2体の証明札を受付嬢に渡した。


「はわぁぁぁ。相変わらずお早いですね」


「早い?」


 見ればギルドの入り口の先はやや赤い。そろそろ夕方なのだ。

 早朝に出発して夕方までかかったんだけど。


「10階層の行列見ませんでしたか? 最前列の方は大抵徹夜ですよ」


 うーん、まあたしかに。それに比べればそうなんだけど……。


「おめでとうございます! これであなた方はDランク冒険者ですよ!」


 ぱああぁっと、花が咲くように笑うエリナ。


「やったな」


「うん!」


 彼女のそんな笑顔を見ると、俺までつられて笑顔になってしまう。

 それくらいのまぶしい笑顔だった。


「全部サーティのおかげね」


「いやいやいや」


 彼女のがんばりによるところも当然大きかった。


「ううん。だって私、あなたがいなければ生きてなかったわ」


「あー……それは」


「それだけじゃないわ。私、冒険者になって、心からよかったって思うもの。それも、全部サーティのおかげなの」


「そっか……」


 ここで一つ、なにか気の利いたセリフでも言えればいいんだが。

 思い浮かばないから、代わりに俺はエリナの頭にぽん、と手を置いた。

 エリナは気持ちよさそうに目を閉じる。


 とん。


 なぜか俺の胸に寄りかかってきた。

 どうしていいか分からないまま受け止めて、とりあえず頭をなでなでした。

 エリナはピッタリくっついたまま離れようとしない。


「コホン」


 受付嬢の咳払い。


「あっ」


 バッと体を離したエリナは火が出そうなほど赤面していた。


「えーとですね。もう済みましたか? こちらが更新した冒険者カードになります」


「はい……」


 カードを受け取った俺は受付嬢にナックルたちのことを話した。


「そうですか……。たまにいるんですよねー。そういった不埒な冒険者が。彼のことは他の町のギルドに伝えて照会しておきます。何か情報が出ているかもしれませんから」


「それともう一つ。ええと、これは昇格とは関係ないんですけど」


「ええ。なんでしょう」


「ドラゴンの死体って引き取ってもらえますか?」


 受付嬢は動きを止めて固まった。


「あの、聞いてます?」


「あ、ああ! ドラゴンですね! まさか討伐されたんですか? 今Sランク冒険者って滞在してましたっけ。あ、違う。この人Dランクだ! ウソ!? ああそうだ、Aランクの人といっしょだったんですよね。大丈夫です。分かってます。それなら可能性アリです。ええと、それで死体ですね。部位はどこですか? 爪ですか? ウロコですか?」


 表情をコロコロと変えながら早口言葉みたいにまくしたててくる。


「全身、なんですけど。これ、ダンジョン入り口で証明札と交換ってわけにはいきませんよね? 建物壊れると思いますし」


「ぜ、ぜぜぜぜぜ……全身んんんんーーーーーーっっ!!!!」


 ガターン。


 受付嬢がひっくり返った。

 俺とエリナは顔を見合わせた。

ここまで読んでいただいた皆様に、心よりの感謝を!

もしちょっとでも面白いなって思っていただけましたら

↓↓↓↓↓にある[☆☆☆☆☆]から評価、そしてブックマークをお願いします


作者のモチベに繋がります!めちゃくちゃうれしいです!

本当にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いいところで、話が切れたw 次はよ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ