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理不尽なゲームバランス

 村は閑散として静まり返っていたが、家々の窓からは明かりが漏れている。

 俺はそのうちの一軒の戸を叩いた。


 応対に出たのは小太りのおじさん。

 おじさんはたった一人で来た俺を不思議そうに見ていたが、邪険には扱わず快く質問に答えてくれた。


 村の名はエヌ。

 村人は100人ほどで、小さな畑と牧畜、それに森での狩猟採集で日々の糧を得ているらしい。


「それにしても運がよかったなボウズ。日が暮れたら外は危険だ」


「そんなに危険なんですか」


「ああ。日が暮れてから現れる魔物は強さが桁違いだ。お前なんか一飲みにされちまうだろうさ」


 人間を一飲みに出来るモンスター、いったいどんな姿をしているのだろうか?


魔物(モンスター)だ!」


 遠くで男の叫び声が聞こえた。

 俺と話しているおじさんの顔にも緊張が走る。


「見張りのジャンだ。まさか……なんてことだ」


「モンスターは出るって言ってたでしょう」


 言った本人が驚いてどうするんだ。


「魔物は大抵、村には入ってこない。結界も張ってある。魔物が村を襲うなんて数ヶ月に一度あるかどうかなんだ。結界を抜けてくるほどの魔物はグレッグが対応するんだが……くそっ! なんだってあいつがいない今日に限って!」


 結界。

 それらしいものは入り口には見当たらなかったが。


「グレッグというのは?」


「腕の立つ元冒険者だ。ジャンも腕には自信があるほうだ。だが実力と経験ではグレッグに及ばない。グレッグは冒険者を引退してこの村に帰ってきてからは、ずっとみんなを守ってくれているんだ。だが今やつは村を離れてる。病気になった娘を医者に見せるために町へ行ってるんだ」


「なるほど」


 冒険者という単語を聞いてテンションが上がる。

 やっぱりこのゲームにもあるんだな。


「ボウズ、ぼさっとしてないでさっさと中に入れ!」


 おじさんは物凄い形相で俺の腕を掴む。

 その瞬間、凄まじい絶叫が響き渡った。


「ぎゃあああああああああああああっ!!」


 見張りのジャンという男がやられたのだろう。

 俺は見た。

 村の入り口からこっちに向かって逃げる途中、逃げきれずに捕まって魔物に組み敷かれる男の姿を。


 魔物は狼の姿をしていた。

 しかしその体は狼というにはあまりにもデカい。

 大きさだけで言えば象に近かった。


「ダークフォレストウルフ……そんなバカな……」


 おじさんは顔面蒼白になってつぶやいた。

 その時、ジャンの近くの家のドアが開いた。

 中から一人の女性が飛び出してくる。

 女性は取り乱して泣き叫んでいるようだ。


「ジャンの妻だ……」


 ジャンの体を貪り食っていた巨大狼は、ピタリと食べるのをやめた。新たな乱入者に気付いたのだ。

 このままでは次の犠牲者はあの女性になるだろう。

 俺はおじさんの腕を振り払った。


「行きます」


「バカ! 行ってどうする! 食われるだけだ! やつは普通の魔物とは格が違うんだ!」


 分かってる。

 レベル2の自分が行ったところでどうにかなる相手じゃないのは見れば明らかだ。

 でも見過ごすことはできなかった。


 それほど、目の前の光景は真に迫っていた。

 ゲームというにはあまりにも凄惨な光景だった。


「いいかボウズ、ダークフォレストウルフは強力な魔物だが胃袋は小さい。人一人を食べれば満足して帰っていく。刺激せず家にこもっていれば危険はない。だから来るんだ! 早く!」


 俺に手を伸ばすおじさん。

 俺は無視して魔物のほうへ走り出した。

 立ち話の休憩で疲労状態は解消されているのか、走ることができた。

 背後でバタン! とドアの締まる音が聞こえた。


「グルルルル……」


 巨狼は低いうなり声を上げ、じりじりと慎重な足取りで女性との距離を詰める。

 女性は腰を抜かしてその場にへたり込んでいた。

 俺は手近な石を拾って投げた。


「グガッ!?」


 カツッ!


 巨狼はまるでそれが見えていたかのように軽やかなジャンプでかわし、投げた石は地面に当たって跳ねた。

 だが注意は引いたらしい。

 巨狼が俺を見る。


「グガアアアアッ!」


 石を投げられて頭に来たのか、巨狼はものすごい勢いで俺のほうへと走ってくる。


 ドンッ!


 遠くに見えていたその姿はあっという間に目の前に。

 気が付けば俺は狼の巨体に仰向けに組み伏せられていた。


「グルアアッ!」


 大きく開けられる狼の口。

 そして――。


 ブチュリ。


 嫌な音と共に視界がダメージエフェクトの赤に染まる。

 わずかな痛み

 たとえるなら手の甲をつねられた程度の痛みだ。


 巨狼が顔を上げた。その口にくわえられている物。

 ……あれは俺の腕だ。


 ちらり首を横に向ければ、食いちぎられて腕がなくなった左肩が見えた。

 もしこれが現実なら絶叫するか気絶するかの激甚な痛みに襲われるだろう。

 それがわずかな痛みで済むというのは、やはりゲーム的なリミッターがかけられているのだ。


 リアルすぎる光景。

 VRホラーで泣き叫ぶゲーム実況者の姿が思い浮かんだ。

 ゲームだと分かっていても気持ち悪かった。

 俺の腕をつるりと呑み込んだ狼は、再び大きく口を開け――。


 ブチュリ。


 またしてもダメージエフェクト。

 狼は俺の腹に食らいついていた。

 パックリと。


 完全に致命傷。

 あーあ、死んだなこりゃ。

 でもやはり痛みは小さい。

 ならせいぜい死ぬ前にダメージくらいは与えてやる。

 俺はナイフを握りしめた右手を全力で振った。


 ドスッ!


 ナイフが狼の目に突き刺さる。


「ガアアアアアアアアアアッ!!」


 狼の絶叫。

 顔を上げた狼が口にくわえているのは……俺の下半身だった。

 俺はその様子をどこか他人事のように見つめていた。


 このゲームのバランスはかなり悪いと言わざるを得ない。

 最序盤のイベントでこれだ。

 運営に文句を言ってやるべきだろうか。

 俺が復活(リスポーン)の直前に思ったのはそんなことだった。


ここまで読んでいただけた皆様に、心よりの感謝を!

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本当にありがとうございます!

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