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VRMMOっぽい異世界でスキルを取りまくって女の子と一緒にアイテム集め―最強の冒険者生活を満喫する  作者: 鉄毛布


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エリナの笑顔

「あいつだ」


 その魔物は頭が牛、体は人間、という姿で手には黒光りする大斧を持っていた。

 そのスケールが……でかい。

 斧はおそらく鉄製だろう。しかしその斧のサイズは人一人より大きい。当然そんな斧を振り回せる処刑者(エクスキューショナー)は人間の数倍はあろうかという威容。


 間違いなく格の違う魔物だ。

 しかもナックルが言うには耐久力が凄まじいらしい。

 どう攻略するのか。


「俺が雷帝の剣で斬鉄剣を放つ。ウルバン流の技だ。これでやつはほとんど戦う力を失ってひざを突くはずだ。雷帝の剣で痺れている間に、みんなでとどめを刺す。サーティ、もちろん君も攻撃魔術を使ってくれ。いいか?」


 俺がうなずきかけたその時。

 スッと前に出る者がいた。

 エリナだ。


 キィン――――ッッ。


 甲高い音。


「えっ」


 遠くで待ち構える処刑者の右腕が……落ちていた。

 手にした大斧ごと。


「ファリス流剣技、音速剣」


 【音速剣】。

 まだ俺のスキルリストに表示されていない技だ。

 【疾風剣】のような遠距離攻撃だが、射程がケタ違いだ。

 【疾風剣】ならせいぜい2、3メートル。


 それが、あの距離を無視して処刑者の腕を落としてしまうとは。

 このエリナという少女は……凄い。


 正直俺は少しナメていた。

 腕は立つが実戦経験に乏しく、前のめりに突撃してピンチになる。

 周りが見えないうぬぼれ屋だと。


 だが違う。

 彼女はちゃんと実力を伴っていた。


「ガアアアアアアアアアッ!!」


 腕を落とされたことで処刑者が怒り狂っていた。


「っ――行くぞ!」


 ナックルが走る。

 他の面々も後に続く。

 処刑者が、落ちた大斧を左手で拾った。


 まさか、あの巨大な斧を片手で振れるのか?

 処刑者が斧を振りかぶるのと、高く飛び上がったナックルが叫ぶのは同時だった。


「おおおおおおっ! 食らえっ! 斬鉄剣!」


 ピシャアアアアァァァァン!!


 耳をつんざく雷の轟音。

 処刑者は左肩から胸にかけて斬り裂かれ、同時に電撃に体を焼かれた。


 ズズン……。


 処刑者は倒れて動かなくなった。

 一撃では倒せないとのことだったが、エリナの【音速剣】でだいぶダメージを負っていたらしい。


「お嬢ちゃん、やるじゃなーい。なんで今まで使わなかったのよ?」


 ライザの言葉に、エリナは目を逸らした。

 ナックルはにらみつけるような目でエリナを見ている。

 そして言った。


「音速剣。ファリス流の、俺の斬鉄剣に相当する技だったか。二度は使えない……違うか?」


「……」


 エリナは目を逸らしたまま。


「どういうことなんですか?」


 俺が聞くとナックルはあっさり答えた。


「消費魔力が大きいんだ。その歳で使えるということには驚いたが、やはり連発はできないみたいだな」


 29階層でピンチを招いた負い目のせいか。

 名誉を挽回したくて自分の持てる最高の技を使って見せたかったのだろう。

 俺はナックルの言葉を思い出す。


 彼は処刑者を【斬鉄剣】プラスみんなの攻撃で倒すと言っていた。

 つまり【斬鉄剣】は一回で済ます予定だったということ。

 エリナが【音速剣】を使ってもその回数は変わらない。

 むしろ【音速剣】という奥の手をここで消費してしまった損失は大きいというわけか。


 華麗に【音速剣】を決めたエリナが、叱られた子供のようにみんなと目を合わせられないでいるのは、それが理由なのだ。

 自分のエゴで無駄な行動をしてしまったと、ちゃんと分かっているのだ。


「探索は順調だ。正直この短時間でここまで潜れたのはエリナとサーティの力が大きい。君たちはEランクというには規格外すぎる力を持っているようだ。これならば40階層も楽勝だろう」


 淡々と話すナックル。

 エリナはまだ目線を戻さない。

 ナックルはふっと小さく笑った。


「ここで一度休憩を取ろう。楽勝とは言ったが30階層より下はさらに危険は増す。サーティ君たちのお目当てのハイオークウォリアーも出現する。今のうちに気を落ち着けておけ。サーティ、荷物を」


「はい」


 俺はアイテム欄からバックパックを取り出す。

 ナックルはバックパックから干し肉を取り出して地面に腰を下ろして食べ始めた。

 ライザとゴーガンも勝手に取って適当に座り、モシャモシャやっている。


 エリナは少し離れた場所でこっちを見ていた。

 さすがに同じパーティーの仲間なのに、彼女が孤立するのはまずい。

 ナックルたちは何も思わないのだろうか?


 それとも、好都合だと思っているのか。


 なら俺が行くしかないか。

 意固地になってしまっているエリナを、少しでもなんとかしてやりたい。

 俺は干し肉を手にエリナに近づく。


「……なに?」


「食べておいたほうがいいよ。いざってとき、力が出せなくなるから」


 なんだか子供のような口調になる。彼女の緊張を解こうと思ったらそうなってしまった。

 エリナはどうしようか迷っている様子だった。

 が、同じEランクの俺相手にまで意地を張るのは馬鹿らしいと思ったのかもしれない。ふっと寂しそうに笑った。


「もらうわ」


 そして干し肉を少しかじって顔をしかめた。


「おいしくないわ」


「干し肉だからね」


「みんなよく食べられるわね」


「冒険者だからね」


「そう」


 短く言って、エリナは干し肉を再びかじる。


「立って食べるのは落ち着かないわ」


「みんな座ってるよ」


「でも……」


 地面に座り込むのは気が進まないらしい。

 どこのお姫様だ。


「どんな場所でも座れるのは冒険者の基本だよ」


 適当に言ってみただけだ。

 が、エリナはおとなしく座った。

 俺もとなりに腰を下ろす。


「あ……」


 エリナがぽつりと声をもらした。

 その視線の先。

 俺も気付いた。

 部屋の壁際。


 赤い、ぐちゃっとした何かがあった。

 そのぐちゃっとした中に、顔があった。

 あれは……人間の死体だ。


 血だまりの中に首が転がっていて、うつろな目をこちらに向けていた。


「20階層のボスを倒したパーティーの人、なのかしら」


「たぶん」


 見れば、バラバラになった死体が数人分散らばっていた。

 彼らは全滅したのだ。

 結構グロい光景だ。


 まさかこんなグロを見ながら物を食べることになろうとは思わなかった。

 もう食べる気が起きない。


「食べないと力が出なくなる、じゃなかったかしら?」


 エリナは少しからかうように笑っている。

 意外だ。

 結構肝が据わっている。


 と思ったが彼女も食べる手が止まっている。強がりだったらしい。

 俺は体をずらして死体とは逆を向いた。


「あまり見ていたい光景じゃないね」


 ズズ。


 衣擦れの音。

 エリナも同じように向きを変えたのだ。


「そうね」


 話題を変えることにした。


「さっきの技、すごかったね。音速剣だっけ?」

「そんなこと……ない」


 エリナは少しうつむいて、声を詰まらせる。


「私、独りよがりな事をしちゃった。音速剣、本当はもっと大事な場面に取っておかなきゃいけなかったって、そう思うの」


 やはり、分かっていたらしい。


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。君が音速剣を使わなかったら、処刑者に勝てなかったかもしれない」


「そんなことっ!」


「たしかにナックルは強い。もう40階層まで行ったことがあるって言ってた。でも毎回必ず勝てるとは限らないじゃないか」


 エリナはうつむいたまま黙ってしまう。

 うーん、もうちょっと何か言葉が必要か?


 ただ、くよくよせず元気を出して欲しいだけなんだけどな。

 ああ、そうだ。


「これ、あげるよ」


「なにかしら?」


 貨幣一枚分程度の、くすんだメダル。しかしそこに描かれているのは権力者の顔ではなく、天使の模様だ。


「お守りだって」


 エリナはメダルを手に取って、それからまじまじと見る。

 俺を見てにっこりと笑った。


「私、同じ歳くらいの子からプレゼントもらうのって、初めて。大事にするわね。ありがとう」


「よかった」


 どうやら喜んでくれたみたいだ。


「……えっと、サーティ君」


「ん?」


「君、何歳なの?」


「16歳」


 これはウソだ。

 俺の姿はおそらく14、5歳くらいの見た目だ。

 でも1歳くらいならサバを読んだっていいと思う。

 この世界で子供扱いされることは多かったが、さすがに同じ歳くらいの少女にまで子供扱いされたくない。


「えっ、じゃあほんとに私と同じ歳なの? そうなんだ……」


 なんだか少し楽しそうだ。

 ようやく気持ちがほぐれてきたらしい。


 仲間に負い目を感じたまま意固地になっていても、戦闘でプラスには働かない。

 話をしてよかったと思った。


「サーティ君の魔術も凄かったわ」


「君はつけなくていいよ」


「じゃあ私もエリナって呼んで」


「ああ、よろしく。エリナ」


「よろしくね、サーティ」


 なんだろうこのやりとり。

 現実世界ではずっと夢に見てきたものな気がする。

 笑顔がめちゃくちゃ可愛いんだよな、この子。


 アイドルレベルをゆうに超えてる。

 というか髪色もファンタジー感があっていいし、似合っている。

 俺は立ち上がった。


「みんなも食べ終わったみたいだね。じゃあそろそろ出発だ。さ、行こう? エリナ」


 エリナは少しぽーっとした顔で俺の手を見ていた。

 そして、手を取ってくれた。


「私が危なくなったとき、助けてくれて……その、ありがとう」


「仲間だから当たり前だよ」


「えっ」


「同じパーティーの仲間。そうだろ?」


「うん!」


 これまでで一番の笑顔を見せてくれた。

 よかった。

 これならもう大丈夫そうだ。


「よし、みんな準備はいいみたいだな。行くぞ」


 ナックルの言葉に全員がうなずいた。

ここまで読んでいただいた皆様に、心よりの感謝を!

もしちょっとでも面白いなって思っていただけましたら

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作者のモチベに繋がります!めちゃくちゃうれしいです!

本当にありがとうございます!

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