エリナのやらかし
20階層。
そこは10階層と同じような大部屋だった。
しかし……。
「無人……ですね」
「おそらく倒されたのだろう。次の湧き時間が分からないのは少し厄介だが、クリスタルスタチューなら帰りに出会っても問題はない」
「クリスタルスタチュー?」
「ここに湧くボスモンスターだ。体表が硬いクリスタルで出来ていて、魔法に高い耐性がある。通常攻撃も効きにくい。だが一度攻撃が通ればもろい相手だ。ウルバン流の技で弱点を突ける」
「なるほど」
「まあこの階層を素通りできるのは助かった。この調子で進んでいこう」
ナックルの言葉に全員がうなずいた。
20階層を超えると明らかにダンジョンの複雑さ、魔物の数が増えた。
部屋の広さも一定ではなく、廊下のような細い部屋やいくつにも枝分かれする部屋など多種多様。
地図がなければ探索は困難を極めるはずだ。
「私の後についてきて。この部屋には吊り天井の罠があるの。床のスイッチを踏んでしまうと天井が落ちてくる仕掛けね」
ライザはそう言って上を示した。
見た目では罠があるように見えないが、あの天井が落ちてくるのか。
かなりぞっとする。
罠部屋を抜けて少し広めの部屋に出る。
「スケルトンガード3体にデススパイダー多数。後方にアイスリザード2体」
ライザの報告。
ナックルが指示を飛ばした。
「アイスリザードのブレスに注意しろ! 冷気耐性が無ければ凍り付くぞ! エリナは端から攻めろ! 俺とゴーガンで前を押さえる!」
ナックルが使うのは両刃の中剣。柄の辺りに金色の翼の装飾がある。
「はあああああっ!」
エリナが飛び出していた。
まっすぐに。
指示を無視して中央突破を狙っているようだ。
「ちっ」
「……」
ナックルとゴーガンも慌てて突撃。
ピシャアアアアアァァァァン!!
突如轟音が響き渡った。
エリナがびくっと体をひきつらせて、音のほうを振り向く。
ナックルのほうだ。
「ナックルの雷帝の剣よ。斬撃に雷を纏わせることができる魔法品なの。びっくりしたかしら?」
ライザが俺にウインクしてくる。余裕があるな。
ずいぶんと凄い魔法品のようだ。
「こいつっ……硬い!!」
エリナの剣がスケルトンガードの盾に阻まれていた。
そこへキラースパイダーの吐いた糸が絡まる。
エリナは網に絡めとられた格好だ。
まずいな。
俺は【炎槍】を詠唱。
昨日取得しておいたスキルだ。
1秒、2秒。
詠唱完了。
【炎槍】がまっすぐに飛んでエリナに襲いかかろうとしていたデススパイダー4体をまとめて焼き払った。
「いいぞサーティ! エリナ! 引けっ!」
ナックルが叫ぶ前にすでにエリナは、クモの糸が全身に絡まった状態で後方に跳んでいた。
エリナの剣が盾に刺さっているスケルトンガードは、ゴーガンに戦槌で叩きつぶされた。
アイスリザードのブレスが襲いかかる。
ゴーガンは大盾を地面に立ててそれを防いだ。
ピシャアアアアァァァァン!!
再びの雷鳴。
アイスリザードはナックルに倒された。
「あ……あ……」
見ればエリナが地面にひざを突いていた。
ライザがナイフで絡みついた糸を切りながら声をかける。
「あらあら。今のは危なかったわねぇ。怖くなっちゃった? お嬢ちゃん」
「っ――――!!」
キッとライザをにらみつけるエリナ。
が、すぐに立ち上がって、スカートのホコリを優雅な手つきで払った。
それから魔物の盾に刺さったままの自分の剣を抜く。
「今のは少し……油断しただけ。問題はないわ」
「そっ」
くすくすと笑うライザ。
「ファリス流は速度に優れる分威力は低い。防御力の高い敵を相手にする時は気をつけろ」
「ちがっ――! 今のはっ……」
ナックルの講釈に反論しようとするエリナ。
が、それ以上は言わず、下を向いて言葉を飲み込んだようだ。
結局絞り出すように一言だけ。
「……次は、斬れるわ」
ナックルは、今度は俺を向いた。
「それにしてもサーティ君。君があんな高威力の魔術を使えるとはね」
「今まで隠していたみたいですみません」
「いや、戦力外だと決めつけていたのは俺だ。さっきは素晴らしいタイミングだった」
「ほんと、見直しちゃった♪ お姉さんもう我慢できないかもぉ」
腕を取ろうとしてくるライザを避ける。
ライザはバランスを崩して転びかけた。
「あらら……」
この状況で俺への賞賛はよくないな。こう露骨だとエリナはいい気はしないはずだ。
ほら、なんか泣きそうになってる。
エリナは悔しそうにうつむいて、目の端に涙を溜めていた。
なにかフォローしたいところだが……。
今は声をかけても逆効果にしかならないだろう。
なのでここはこう言うしかない。
「そういえばここは29階層でしたね。次は30階層。どんなボスなんですか?」
「強敵だ。処刑者の二つ名で呼ばれているミノタウロスの変異種だ。耐久力が高く、俺でも一撃では倒せない。冒険者の仕掛けた攻撃を耐えた後、攻撃後の隙を狙って反撃の一撃で処刑してくる。それがやつの得意戦法だ。だが、俺の雷帝の剣ならば痺れさせることができるだろう。反撃されることはないはずだ」
「だろうって、一度倒しているんじゃなかったんですか?」
「ああ、もちろん倒した。しかし前回は雷帝の剣がなかったから、かなり手こずらされたよ。みんな、準備ができていればすぐに降りるぞ。……心の準備、という意味だが」
その言葉はエリナに向けてのものだろう。
エリナは服のそでで目元を拭っていた。
「行けるわ」
「よし」
俺たちは30階層へと降りた。
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