初のパーティー戦闘
「はああああああっ!!」
ザザシュッ!!
エリナの居合いで2頭の灰色死狼が両断された。
速い。そして正確。
【体感時間遅延】を使って見ていなければ、一度の居合いで2匹を同時に斬ったとしか思えなかっただろう。
凄まじい速度の【疾風剣】、そして返す刀で2頭目に斬撃を飛ばしたのだ。
「ファリス流の使い手か。やるじゃないか」
ナックルも感心したようにうなずいている。
「たしたことないわ、こんなの」
慣れた動作で刀を振って、カチリと小気味いい音を立てて剣を鞘に戻す。
冒険者たちの話で聞いたことがある。ファリス流の剣士は片刃の剣をよく使うと。
エリナの使うそれも美しい片刃の中剣だった。
「まだよっ!」
ライザが鋭い声を飛ばす。
倒したかに見えたデスグレイウルフは、その真っ二つになった腐った体を、再びくっつけて再生しようとしていた。
「ふん!」
ヒゲ面の男が戦槌を振って再生中の狼を叩きつぶした。
大盾を背負い、戦槌で戦う彼の名はゴーガン。
ナックルたちのパーティーの、いつも無口だった男だ。
「デスグレイウルフは強力な再生能力を誇る。詰めが甘かったな?」
「……え、ええ。そうね。気をつけるわ」
得意げなナックルの講釈。
エリナの返事は少し震えていた。
どうやら起き上がってくるとは思っていなかったのだろう。
初見の魔物だし俺も少し驚いたが、それにしてもエリナの反応は顕著だ。
実戦経験が少ないのかな?
これだけの剣の腕を持ちながら、実戦経験に乏しい少女。
エリナという少女に少し興味が出てきた。
ナックルとライザは何やらお互いに視線を交わしている。
それからこんなことを言い出した。
「しかし君は思ったより腕が立つな。こうしよう。エリナとゴーガンには前衛を任せたい。俺はその援護だ。ライザは斥候だから積極的には戦闘に参加しないが、撃ち漏らした敵を処理する」
「あの、俺は?」
「君は参加しなくていい。残酷なことを言うようだがヘタに前に出てピンチになったら、助けに入る仲間にも危険が及ぶ可能性がある」
どうやらナックルは俺を本物の初心者だと思っているらしい。
彼らは俺の戦闘を、実際に目で見たことがないのだ。
だからと言って戦闘力をひけらかすつもりはない。
俺はナックルに疑いを持っている。
なら役立たず扱いされるのは都合がいい。
荷物持ちに徹してMPを温存し、いざというときのために備えるべきだ。
「俺はあまり魔力を消費したくないから大技は使えない。だから過度な期待はしないでほしい」
ナックルがそんなことを言い出した。
魔力とはようするにMPのことだろう。
この辺は少しややこしい。
「だから援護ってことですか?」
「ああ。20階層、30階層、40階層と、10階層おきにボスモンスターが存在する。正直Aランクの俺たちでも手を焼くような強敵だ。そこで俺の出番というわけだ。今のデスグレイウルフのように、生半可な攻撃では再生してしまうような魔物もいるからな。大技で一気にカタを付ける必要があるんだ。そのためにも魔力を温存しておきたい」
「分かりました」
ナックルはふっと表情をゆるめて俺に笑いかける。
「手持無沙汰でつらいだろうが、我慢してくれ。本当なら君には全員分の荷物を持ってもらうつもりだったんだが、まさかあんな魔術が使えるとは思わなかったんだ。その収納魔術ならどんなパーティーでも引く手あまただろう」
全員分の物資を入れたバックパックは、俺がアイテム化してアイテム欄に保管している。
なので荷物運びではあるが手ぶらなのだ。
まずライザが次の部屋を確認して魔物の種類と数を報告。部屋に移動してからゴーガンとエリナで殲滅という流れが続く。
ライザも要所要所で二人をフォローするよう立ち回っていた。
俺とナックルはそれを眺めていた。
ナックルは援護と言いつつほとんど戦闘に参加していない。
まあだいたいはエリナが先走る格好で突っ込んで行って、あっという間に切り伏せているので出番がないというのが正しいのだが。
「次はいよいよボス部屋だ。準備はいいか?」
みんな静かにうなずいた。
俺たちは20階層へと降りた。
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