ナックルの誘いと美少女剣士エリナ
「掲示板クエストですか?」
「それもひとつの手だが、別の方法がある。もっとウマイ話だよ。こっちへ来てくれ」
行列から少し離れた場所に誘導される。
「一応話だけは聞かせてもらいます」
わざわざもったいぶるってことは、それなりの情報なのだろう。
ナックルはなめらかな語り口で話し始めた。
「簡単さ。10階層に一体だけ出るハイオークウォリアーだが、実は30階層より下ではもっと普通に出現するんだ」
「でも10階層より下へ降りるには、Dランクの資格が必要なんですよね?」
「ふふっ、Dランク以上の冒険者とパーティーを組んでいれば、通行は可能なんだよ。ほら、たとえば荷物運びなんかは、わざわざDランク以上のメンバーを募集するのは非効率的だろう?」
「ナックルさん、俺と同じ日にこの町に来たんですよね。詳しいですね?」
「ダンジョンがある町ならどこも似たようなものさ。俺はダンジョンを専門にしている冒険者だからね。それに俺たちはもうこのダンジョンは40階層まで潜っている。出現するモンスターも道順も把握している。時間もそうかからないはずだ。どうだい? 俺たちといっしょに来ないか?」
「荷物運びとして、ですか?」
「そうだ。もしプライドが許さないというのなら、戦力の一人としてついてくればいい。30階層までいけば俺がハイオークウォリアーを倒す。君はその首を昇格の証として持ち帰ればいい。どうだい? 悪い話じゃないと思うが」
うまい話であることは間違いない。
正直この行列は、見ているだけで気が滅入る。
だがこの男の笑顔には裏がある。
そんな気がするのだ。
「サーティ君がその気ならぁ、お姉さんがいいことしてあげてもいいのよ?」
「バカ、お前この前は振られたんだろ? 逆効果だって気付けよこのショタ食いが」
ライザに毒づくナックル。
ショタ食い。ああ、だからこの前は俺にアプローチをかけていたのか。
それにしても、俺の見た目は14、5歳くらいのはずだがこれでショタ扱いなのか。
顔がそう見えるのだろうか? 分らん。
ライザは口の端を釣り上げてわざとらしく肩をすくめている。
正直この女のことはどうでもいいが……。
俺が迷っていると、新たに声がかかった。
「その話、私が乗るわ」
全員が声のほうを振り返る。
そこにいたのはおよそこの場に似つかわしくない少女だった。
新品にしか見えない鎧を身に付けた、サラサラロングのほとんど水色に近い薄紫の髪。
鎧と言っても胸当てとスカート部分に、装甲代わりの板片が装飾されているだけだ。
実用より動きやすさとデザイン重視の服装に見える。
舞台衣装のような、剣より紅茶の似合う優美さ。
年齢はたぶん俺の見た目と同じ14、5歳くらいだろう。
腰に下げた剣も鎧の下の服も、全体的に高級そうで新品同然。キラキラしている。
姫騎士。そんな単語が頭に浮かんだ。
まあ背が低いせいでちょっとコスプレ感があるのが玉にキズ。
逆にそれが可愛らしさにもなっている。
かっこいい姫騎士というより可愛いコスプレ少女という感じだ。
使い込まれたボロの装備が基本の冒険者だらけのこの10階層で、これほど浮いた存在はない。
「悪いわね。列に並ぼうとしていて、気になる話が聞こえてきたものだから、盗み聞きさせてもらったわ」
堂々と盗み聞きとか言う。
変なやつだな。
「君のランクは?」
ナックルは仮面のような笑みを張り付けて少女に問う。
少女はイケメンスマイルに特に表情を動かすことなく答えた。
「嫌味で言ってるのかしら? 列に並ぼうとしてって言ったわよね。もちろんEランクよ」
「いいだろう。歓迎するよ。俺はナックル。Aランクパーティー『ナックルズ』のナックルだ」
「……エリナよ」
「で、君はどうする? サーティ君。一人も二人も同じだが」
「俺も行きます」
この男はうさんくさい。そのカンが正しければエリナはまずいことになるかもしれない。
が、ここでその推測をぶちまけても意味がない。証拠がないからだ。
ならついていくしかないだろう。
「決まりだ」
ナックルは笑みを深くした。
願わくば、何事もなくハイオークウォリアーを狩って帰れればいいのだが。
俺たちは一度地上に戻り、正式にパーティーを組むこととなった。
その場その場で適当にメンバーを増やして10階層の検問を抜けるのを防ぐために、正式な手続きを踏まないといけないことになっている。
ひとまずは一日休んで、出発は明日の朝。
ダンジョンの深層を目指すには十分な休息が不可欠だとナックルは言った。
必要に迫られればダンジョン内で眠ることもあるが、危険は大きい。
慎重に時間配分を考え、地図の作成やトラップ配置などを把握しつつ繰り返しアタックするのが基本だという話だ。
ギルドダンジョンはすでに50階層までの信頼のおける地図が流通していて、ナックルたちはこの一週間、その地図が正確であることを確認しながら探索していたということだった。
俺は彼らと別れた後、受付嬢に聞いてみた。
「覚えていますか? 俺が冒険者登録した日、ケンカを吹っかけてきた男がいたでしょう」
「もちろん覚えています。いやあ、あれは災難でしたね」
歴代最速昇格記録を塗り替えたことで、受付嬢は俺のスキルが虚偽申告ではなかったと完璧に信じてくれたようだ。
「その彼ですが、ナックルのパーティーに加入していましたか?」
「少々お待ちください。ええと……あ、ありました。そうですね。彼はナックルズに加入しています。それに伴って元のパーティーからは脱退しています」
書類を見ながら答える受付嬢。
『いた』、ではなく『いる』、か。
「加入して……いる? つまりまだパーティーメンバーだと?」
「はい。あれだけ派手にケンカをしたサーティ・フォルガン様がこうして仲良くパーティーを組むというのは、やっぱり男の友情というやつでしょうか? 拳を交えて分かり合えるものがあったとか?」
受付嬢は目を輝かせて聞いてくる。
が、俺はそんな言葉はほとんど聞こえちゃいなかった。
ナックルはゴリラと別れたと言っていた。
つまりやつはウソを吐いている。
一週間狩り続けた俺のレベルは31。
これはよく考えてスキルを用意しておく必要がありそうだった。
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