旅立ちの時
「そうか」
俺が別れを切り出すと、グレッグは重々しくうなずいた。
「せっかく良くしていただいたのに、勝手を言うようで申し訳ないですが」
「何言ってるんだ。俺はお前に感謝しっぱなしなんだ。むしろ家族なのに、ちゃんと同等に扱えていなかったのかと、それだけが心配なんだ。お前はなんていうか……まだどこか心を開いてくれていない、という気がしていたんだ」
ああ、やっぱりグレッグは気付いていたか。
俺は彼ら一家の養子になりはしたが、心の中ではどこか他人だった。
家族の一員として愛情を与えようとしていることは分かっていたが、俺はそれに応えることができなかった。
中身は成人しているから当たり前っちゃあ当たり前だが、少し申し訳ない気分になる。
「いえ、俺みたいな人間を家族として迎えてくれて、俺のほうこそ感謝しています」
俺はグレッグとキアラには村に来るまでの記憶が無いことにしている。
ゲーム開始以前の自分の設定なんて存在しないんだから当然だ。
グレッグはそれを疑問にも思わず、快く受け入れてくれたのだ。
本当に彼らはいい人たちだ。
「本当に行くの?」
キアラは寂しそうに微笑んだ。
「はい」
「サーティ、こっちに来なさい」
「?」
キアラのそばまで近づくと、いきなり抱きしめられてしまった。
ぎゅううぅーーっ!
この感触もこれで最後なんだなと、ちょっと不謹慎な事を思ってしまう。
それくらいキアラに抱きしめられるのは心地よくてたまらない。
「あなたがどこにいても、私たちはあなたのことを愛しているわ。それだけは忘れないでね」
「はい」
「サーティ、これを持っていけ」
グレッグがテーブルに置いたのは一振りの剣だ。
両刃の中剣で、俺でもなんとか使えそうだ。
「俺が冒険者時代に使っていた物だ。敵を倒す度に切れ味が回復する効果が付いた魔法品だ。ダンジョンで死の危機に瀕した時、何度もこいつに救われた」
「いいんですか?」
使い慣れた剣を手放すということは、これからの村の防衛に支障が出るのではないか。
「安心しろ。俺はジャンの残した剣を使うつもりだ。あいつに代わって村を守るという決意の意味もある。……どうも俺はそいつがあるとまた旅に出たくなっちまうみたいでな。ここらで手放すのはいい機会なんじゃないかと思ってな」
キアラが驚いたようにグレッグを見るが、グレッグは「冗談だ」と笑った。
そしてキアラにひじで突かれていた。
うーん、イチャイチャしてるなこの夫婦。
「そういうことなら、使わせていただきます」
「おう。本当ならもっと高級な魔法品を持たせてやりたかったんだがな。この家を建てるのと、当面の生活費にするために売っ払っちまった」
「十分です」
「あー……それとだな」
「?」
グレッグは言いにくそうに頭をかいていた。
「一度くらいはそのう……。お父さん、と呼んでくれても……」
それは恥ずかしいので遠慮したい。
代わりに俺はこう言った。
「じゃあ、俺もフォルガン性を名乗らせてもらってもいいですか?」
「ああ。たいした家名じゃないが。だがそれを言うならキアラの実家のほうが」
「あなた!」
「い、いやすまん。そうだな。もちろんだとも。サーティ・フォルガン。旅の無事を祈っている」
「はい。では明日、早朝から出発しようと思います」
「明日か? 急だな。もう少しいればいいのに。シーラもお前には懐いていただろう?」
「だからですよ。言えば泣かれます」
グレッグとキアラは少しの間視線を交わしていた。
それから仕方ないという風に笑う。
「そのほうがいいかもしれないな。なに、あいつには上手く言っておく」
「よろしくお願いします」
そして俺は次の日の朝、グレッグとキアラとミラに見送られながら、シーラが起きるのを待たずに村を出た。
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