グレッグの誕生日
「今日はグレッグの誕生日ね」
朝。
眠い目をこすりながら起き出すと、リビングのテーブルでキアラとミラが話していた。
「今年で33歳でしたね。そういえば奥様は最近編み物をなさっていましたね。もしかして」
「あはは。まあ大した物じゃないけどね。喜んでくれたらうれしいんだけど。ああ、それと奥様なんて他人行儀に言わなくてもいいのよ。あなたはメイドってわけじゃないんだし」
「いいえ。今の私はただの居候ですから。夫が死んで身寄りのない私を引き取って、養っていただいているのですし。せめて家事のお手伝いをして、厳しく使っていただかなければ私の気が済みません」
と、そこで二人は俺の姿に気付いたようだ。
「おはようサーティ。よく眠れた?」
「はい」
「ご飯の用意はできていますよ。すぐにお持ちしますね」
そう言ってミラはキッチンへと消えた。
戻ってきたミラが持ってきたのは野菜のサラダとボールラビットの肉入りスープと小さなパンだ。
パンは現実世界で食べる物より少し苦くて硬かったが、バターを塗ってかじればマズくはない。ライ麦パンというやつだろうか? ヨーロッパの昔のパンは硬かったみたいな話を聞いたことがある。こういうパンのほうがファンタジー感が出てて雰囲気がある。
ボールラビットのスープは煮込んで柔らかくなった肉がとてもおいしく、サラダは苦みの少ない葉物野菜で食べやすかった。
「今日も狩りに出かけるの?」
キアラはにこにこと優しい笑顔で聞いてくる。
「はい」
「あなたが強いのは知ってるけど、森に入るなら気をつけなさい。迷子になって夜まで帰れなければ、怖い魔物に食べられちゃうんだから」
キアラは両手で「ガオーッ」というポーズをしてそんなことを言った。
もちろん俺はダークフォレストウルフの強さをまだ覚えている。
今戦ったら勝てるだろうか?
まあ心配してくれているのにわざわざ夜に森に行こうとは思わないが。
演技たっぷりのキアラの言葉に答えたのは俺ではなかった。
「食べられちゃうの……?」
シーラだ。
いつの間にか部屋に来て、目をうるうるさせていた。
「そうよー。頭からカプッ。シーラなんて一飲みなんだから」
シーラの顔がくしゃりと歪む。やばい、泣きそうだ。
俺はとっさにフォローを入れる。
「ママの言うことをちゃんと聞いて、森に入らないようにしないとね。いい子にしてれば大丈夫。ほら、木こりも狩人も、俺だって平気だろ?」
「うん! 私、いい子にする!」
シーラはなんとか泣くのを堪えてくれたようだ。
それに、ようやくちょっとだけ心を開いてくれた気がする。
俺はシーラの頭にちょこんと手を乗せる。
「えへへー」
にまーっと笑うシーラ。
やばい、結構可愛いぞ。
落ち着け。俺にはロリコンの気はないんだ。
この歳でこれくらい可愛いと、将来が恐ろしいな。
いや、キアラを見れば可愛く育つのは確定しているようなものなのだが。
「ふふ、ようやく仲良しさんになれたみたいね」
タタタッ。
弾かれたように駆けだすシーラ。
キアラの後ろに隠れられてしまった。
たぶん、恥ずかしがっているのだろう。
まあいいさ。
ちょっとずつでも心を開いてくれれば。
「そういえば今日はグレッグはいないんですか?」
「今日は朝から村長に呼び出されたみたいですね。例のダークフォレストウルフの件で相談があるとか」
ミラは少し心配そうな顔で教えてくれた。
ダークフォレストウルフは俺に目を潰されて逃げて行ったという話だが、まだ倒されてはいない。
いつまた襲ってくるかも分からない脅威を、そのまま放置しておくことはできないということか。
夜にしか現れない魔物。
もしこちらから探すとなれば、夜に森に入る必要があるのかもしれない。
話し合いでどんな結論が出るのか、少し興味があった。
まあ村長宅に俺が押しかけても子供は話に混ぜてはもらえないだろう。
今日もいつもの通り、森でボールラビットを狩りに行くのだった。
そしてこの日の夜に、事件は起きた。
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