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9.不機嫌な新妻

 食事室から私室に戻ったリカルダはどこか不機嫌だった。

「私のために無理をしてお金を出してくださったのではないですか? あの……、今なら取り消せると思いますが」

 リカルダはトニアがサルディバル子爵の娘だと知っているので、自分に気を使ってお金を出したのではないかとトニアは心配になる。その気持ちはとても嬉しいし、領民のためにはこのまま黙っていた方が良いと思うが、自分の復讐のために人生を棒に振ってしまったリカルダに、これ以上の負担はかけたくない。

「違うわ。お金は我が伯爵家の領民のために使うの」

「それはそうなのですが、何も全額を出さなくても」

 リカルダの不機嫌の理由がわからないトニアは戸惑うばかりだ。


「旦那様はトニアに笑顔を見せたわ。わたくしとはろくに目も合わさないのに」

 リカルダが持参金と祝い金を使うように申し出ても、エドガルドは一瞬目を合わせただけで、すぐに下を向いてしまった。しかし、トニアに向かってはちゃんと目を合わせて話をし、最後には優しい笑顔を見せたのだ。

「まあ、嫉妬でしょうか?」

「そんなんじゃないわよ!」

 悔しそうに横を向いたリカルダを見て、トニアは微笑んだ。

「伯爵閣下は、アルマに陥れられ酷い目に遭われましたから、きっと若い女性が苦手なのでしょうね。私は若い女性と認識されていないだけですよ」

 リカルダは年齢より大人びていると思っていたが、こんな風に拗ねている可愛らしい様子を見ると、やはり年相応なのだとトニアは安心した。

 旧サルディバル子爵領の領民を救うため貯金を差し出したのでトニアの好感度が上がったのか、エドガルドの呼び方があの男から伯爵閣下に変わっている。そのことに気づいたリカルダが横を向いたまま笑みを見せる。


「トニアはまだ二十四歳じゃない。まだまだ若いわよ。それにしても、旦那様はアルマに嵌められ、女性を襲ったとの嫌疑をかけられたのよね。酷いわ」

 王太子に媚を売るアルマの様子を思い出し、リカルダの美しい顔に嫌悪の色が浮かんだ。

「男性にとってはとても不名誉なことです。随分と苦労されたでしょうね。ご実家とも疎遠になっていたようですし」

 あのフアニートならともかく、エドガルドにそんなことができると思えないと、トニアは妹を死に追いやった憎い男を思い出す。そして、リカルダのお陰で強制労働送りにできたことを改めて感謝していた。

「そんな辛い目に遭ったのに、旦那様は自暴自棄になることもなく、あの父に認められるくらいに努力を重ねたのよね」

 王太子の裏切りを知った時、半ば自棄になって修道院へ行こうと思ってしまった自分とは大違いだと、リカルダは少し恥ずかしくなる。

「閣下の目の周りにも隈ができていました。昨夜は領地のことを調べていて、あまりお休みになっていないのかもしれませんね」

 トニアの言葉は真実かもしれないとリカルダは感じていた。



「わたくしは貴族女性としての役目を果たそうと思います。社交や慈善活動はもちろん、後継ぎを産むこともよ」

 誘拐事件を起こしたことは後悔していない。しかし、貴族としての義務を放棄してしまうのは駄目だとリカルダは思うようになっていた。

「それは立派なお考えですね。公爵閣下もお喜びになるでしょう」

「そうね。父や母、兄にも心配をかけてしまったわ。わたくしがきちんと伯爵夫人を務めることで、少しは安心させてあげられるわね」

 王太子や急激に貴族社会で影響力を増してきたパスクアル伯爵家のアルマを追い落とすには、公爵である父親の権力が絶対に必要だと思い、リカルダは家族も騙すことにした。しかし、家族の悲しそうな顔を見ると心が痛む。その顔を少しでも笑顔にできるよう、今からでも努力を怠らないでおこうとリカルダは思う。


「でも、子どもを産むためには、旦那様をその気にさせないと。やはり爪を真っ赤に染めたり、胸を強調するようなドレスを着たりした方が良いのかしら?」

 とても下品に感じてリカルダはアルマが大っ嫌いだったが、王太子を誘惑することができたのは事実だ。

「お止めください! そんな下品な真似をせずとも、お美しいリカルダ様なら、ありのままでどんな男性のお心も奪うことができますから。伯爵閣下はアルマに騙された心の傷が未だ癒されておらず、リカルダ様に触れるのを躊躇っているだけです」

 トニアが褒めてくれるのは嬉しいが、ありのままでいたら王太子に心変わりされたと、リカルダはちょっと傷ついた。


「別に、旦那様の愛が欲しいわけではないのよ。貴族女性の義務として、後継ぎを産みたいだけ」

 エドガルドが自分に微笑んだだけで不快に思ったのにですか? と内心で突っ込んだトニアだったが、もちろん口にはしない。

「リカルダ様のお子様なら、とても可愛いでしょうね。私も今から楽しみです。できることなら、リカルダ様だけに似ればよろしいのに」

 結婚して半年、まだ妊娠する前に婚家を追い出されたトニアは、復讐のためには心残りになる子がいなくて良かったと思うものの、子どもを抱いてみたかったと残念な気持ちもある。リカルダの子どもならば、自分の子のように愛しく感じるだろうと、トニアはリカルダの出産が今から楽しみだ。


「旦那様に似たって、子どもは可愛いと思うわ。旦那様のあっさりとした容姿だって、別に嫌いじゃないから」

 王太子やアルマ、フアニートのような、リカルダを嵌めようとした派手な容姿の人たちとは違っているので、あまり自己主張しない地味な容姿のエドガルドにリカルダは嫌悪感を抱いていない。

「左様でございますか。それはようございました」

 トニアは含みある笑顔を見せながら、美しい侍女の礼をして見せた。


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