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第6話『開会式』

 

 パァン!パァン!

 と空に小さな花火が上がり、数多くの三角国旗がはためく。歓声はより一層熱くなり、照り付ける日光さえ取り込んでしまえるような青さが広がっている。

 ……なんていうアニメみたいな体育祭など現実にはない。

 校長の長い話によってオーブントースターの中のパンのごとくじりじりと日に焼かれ、気分は下がる一方。もう、こころとからだ、人間の全部がじわじわやられております。これなんのCMだっけ。もうなんでもいいや。

 暑いだけならまだいい。暑いのに加えて立ってるだけなのに汗が噴き出ることがなんやかんや腹立つんだよなぁ。意味違うけど「じわる」だわ。

 校長がやっとのことで壇上から降りる。そして今度は生徒会長がマイクの高さを調節し始めた。この人だよこの人。


「それでは!佐戸高校体育祭を開催します!!」


 3年生の一部が「いぇーい!」と声を上げる。

 そしてくすくすと冷ややかな笑いが広がる。

 去年までなら、俺はこんなことではイライラしなかったし、何も考えずクラスのシートに引き上げていた。しかし今年は違う。もうちょっとしたことで腹立つんだよなぁ。

 俺は、体育祭というフリーな日ぐらい、だらだら一日過ごしたいのに!!!

 ぞろぞろと生徒たちがグラウンド中央から引きあげていく。俺もしれっとその波に流されていると、ガシッと肩をつかまれた。

 振り替えると、そこにはきらりと眼鏡を光らせる北上の姿。


「逃がさないわよ…?」


 ため息ひとつ。


「わかったよ…とりあえず部室に行くか…」


 どうやら億劫なのは北上も同じなのだろう。


「なんでこんなに暑いのよ…もっと涼しいなら警護も苦じゃないのに…」


 長い黒髪を払いながらも首を垂れる。


「それもこれもあなたが昨晩私を寝かせてくれなかったからよ」

「あの、誤解を生む言い方はやめよう?最近世の中そういうのセンシティブだよ?」


 なんて言いつつ、ほんとに暑いのは事実。ちなみに北上を寝かさなかったことも事実。いや、変な意味じゃないから。

 とはいえ、ただ暑いならここまで俺も北上も気が滅入ったりはしない。

 今日一日、頑張るか…

 俺は3日前に来た依頼のことを思い出す。


 ◆



 体育祭の3日前。


 各部や委員会の動きが目に見えるようになってきた頃、俺たち対異部は波野以外部室にこもって各々の好きなことをしていた。

 俺と北上は本を開き、仁戸ちゃんはスマホをスクロールする。葉矢海は机に向かいペンを動かし、3年生の対異部の情報員的役割を持つ玉置次郎―玉置さんは薄いノートパソコンをカタカタやっている。いくら異妖の情報なんかを仕入れてくれるとはいっても、さすがに学校にノーパソは…


「玉置さん、それいいんですか?」


 聞いたのは波野だ。

 玉置さんはニヒルに笑う。


「バレなきゃ問題じゃない」


 えぇ…後ろに太田先生いるのにそんなこと言っちゃうの?

 案の定、太田先生はため息をつき玉置さんのノートパソコンのディスプレイをつつく。


「次郎……それは流石に……」


 さすがは太田先生。実は玉置さんと太田先生は古くからの付き合いで、太田先生の学生時代からの付き合いなのだそう。そんな知り合いでもしっかり規則を適応させることの出来るちゃんとした人だ。若いけどいい先生……とか思ってた俺が甘かった。

 覗き込むと、トランプカードが重ねられた画面がシャッシャと動いている。

 楽しくソリティアしてんじゃねぇよ……


「あ、そういえば!」


 仁戸ちゃんがノート式のスマホカバーを音を立てて閉じる。


「今日、依頼者が来るって話ありませんでした?」


 北上が本から顔を上げる。


「たしか生徒会長だったわね」


 生徒会長か。たしか同い年の女子だった。

 後期の選挙が終わり、生徒会長になってすぐだったはずだ。

 高校全体の顔みたいな立ち位置になりうる生徒会長になるなんて、俺にはまったく想像できない。


「あの人ちょっと怖いんすよね……」


 亜麻色の前髪をいじりながら、葉矢海が意外なことをつぶやく。

 え、この人怖いとかあるの?

 パンチしとけば勝てるくない?


「言いたいことは分かるぞ波野妹」


 太田先生は左腕のブレスレットをいじりながら項垂れる。


「この部を保つの必死なんだ……」


 えぇ何それこの部の存続ってそんなに危ういものなの?てか生徒会長から圧かけられてるってことかよ、なにそれ怖すぎだろ。


「……そういうことなら早めにこれを終わらせないと……」

「そうだな」


 玉置さんがパソコンに顔を近づける。

 太田先生も玉置さんの肩を持つ。


「そうだ、いや……うん、そこでボムキックを……」


 違うゲーム始めてんじゃねぇよ……

 そうこうしていると、ゴンゴンと扉がノックされた。

 勇ましく、勢いよく開けられるドア。

 そこから覗くのは、小柄の少女。先がカールしたツインテールが幼さを残すが、その立ち姿からは芯の強さみたいなものを感じる。

 彼女は背筋を伸ばし、一礼する。


「皆さんこんにちは、生徒会長の六崎遥です。今日は皆さんに相談があります」

「相談ですか」

「えぇ」


 席に案内すると、六崎生徒会長はその続きを口にした。


「最近異妖絡みの事件がこの学校付近で増えてきているのはご存じですか?」

「ええ。とはいえ、原因などは知りませんが」


 対面に座る北上が短く答える。

 たしかに、ここ一か月ほどは町中でも原異形の車両を見かけたり、細かな依頼が増えていたりする。北上のいうとおり、原因はわからない。


「そうですか……まぁそういうわけで、ここからが本題です。3日後、何があるかご存じですか?」


 ぴくりと北上のこめかみが動く。


「……体育祭、ですか」


 六崎生徒会長はややオーバー気味に首を縦に振る。


「その通り!体育祭です!そこで、皆さんには、体育祭を安全に終わらせる為に協力していただきたいのです」


 そして自信満々に俺を見る六崎生徒会長。その目はがゆっくりと細められた。


「そちらのパソコンを活用していただいても構いませんので」


 完璧な愛想笑いとは裏腹に、玉置さんの手はPCとともに押し込まれていた。


<次回予告>

「言って。私は、ちゃんとあなたの過去と過去からつながる今に向き合わなくちゃならないの。それが私の贖罪、なのだから」


逢坂彩葉との一件を北上に報告する基木多。

北上鷹乃のとある口癖。そして出会い。

心に孤独を宿す基木多はなぜ対異部に入ったのか。


体育祭編第2話「北上鷹乃」です。

それは、彼女の贖罪。

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