第48話『仮説』
その翌日、ハヤタさんが部室にやってきた。
部室には全員が集められた。
会うのは俺が能力を使ったあの日以来となるが、さほどその表情に違和感はない。
ハヤタさんは依頼者用の椅子に腰を下ろすと、咳払いをして口を開けた。
「さて、これはかなり厄介な話かもしれないよ、基木多君」
「と言いますと?」
聞くまでもなく、この状況全てのことなのだが、念の為聞き返しておく。話が噛み合っていなかったら面倒だ。
「まずひとつ、悲しみを消す能力を持つ人間が現れたこと。基木多君は、この街の悲しみを再分配したと同時に全員の能力を消し去ったはずだ」
「えぇ、その通りです」
俺が答えると、横に座っている北上がほんの少しだけ俯いたような気がした。
「だからひとつ、仮説をたててみた」
「仮説、ですか」
波野が反応する。見ると至って真剣な面持ちで腕を組んでいる。
「そうこれはあくまで仮説だ。僕は、最悪の場合のことを言うが、もし違うならば気にしないでくれ」
コクリ、と全員が首を縦に振った。
ハヤタさんが真っ直ぐ俺を見た。
「…基木多君、君自身はまだ能力を持っているんじゃないのか?」
何かが冷え固まる音がした。
「どうして、そう思われるんですか?」
少し睨みを効かせて聞いてみる。するとハヤタさんは後ろ髪を掻き、白い歯を覗かせる。
「これだと、筋が通るってだけの話さ」
「どういうことですか」
背後から、冷水を投げつけられたかのような冷たさの声音が飛んでくる。首さえ動かせないほどの単純な恐怖。そのせいで背後を見ることはできないが、きっと、全てを蔑むような鋭利な目をしているに違いない。仁戸ちゃんにとってこの俺の力は化け物であり一種の利用価値であり夢なんだ。
ハヤタは小さく息を吐くと、さっきとは打って変わって真剣な眼差しを向ける。
「これから話すことは、あえて全部知ってる君たちの前でしか言えないことだ。それに流零君には後で僕がきちんと話す。だからくれぐれも他言無用で頼みたい」
思わずその緊迫感に生唾を呑む。皆が個々に首を縦に振るのがわかった。空間の全てにセンサーが張り巡らされたかのような中での挙動はほんの小さなものでもよくわかる。
「少し長い話になるが、これは玉置次郎とその兄達の話だ」
いつか、その話を少しだけ坂西から聞いたことがある。俺と同じ化け物だった玉置さんの兄が、その力を使いきれなかった話。たしかに坂西は何か濁したような口ぶりだった。まだ、何かあるのか。
ガタリと窓が風に揺れた。外はオレンジに染まり、とても綺麗だ。もうすぐ暗くなるけど。
「まず始めに言っておかなくちゃならないな」
ハヤタさんは小さく唸って、再び口を開く。
「基木多君のあの力の根源は、特殊なSWHを使ったものなんだよ」
読んでいただきありがとうございます!
なんと今回で50話!!ありがとう!!
次回更新は10月28日木曜日、午前1時の予定です。
<次回予告>
「はは、いやいやそうじゃないよ。君以外にあと二人、それを投薬された者がいたんだ」
それは、10年前。
玉置次郎の兄、玉置創治郎が異妖化した事件。
その討伐チームに、玉置次郎がいた。
その過去とつながる現在で、悲しみを奪い始めた玉置次郎の手口。
それは彼にしかなしえないものだった。
次回2月編第6話「異なる者(1)」
それは、異なる者たちの物語。




