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第42話『英雄』


 目を開けると、四つの壁がそれぞれ別の色に塗られた四角い部屋。相変わらず天井と床はいろんな色が混ざって気持ち悪いが心地いい。

 少年はやはり部屋の真ん中で、相談室にあるのと同じ椅子に座っていた。少年はまたしても呆れたように吐き捨てる。


「はぁ。また来ちゃったんですか。今回も後先考えず本当にあなたって人は」


 そしてチラとこちらを見た。それに一つ頷いて答える。


「大丈夫だよ坂西。前回みたいにはならない。ちゃんとやるべきことを見つけたんだ。だから力が欲しい。ただ救いたいんだ」

「誰をです?」

「対異部の皆だ」


 すると彼は重そうに腰を上げ、そして俺の前まで来てニッコリ笑った。


「ちゃんと本、読んでくれましたよね?」

「ああ」


 以前、俺が異妖化した時に渡された本がある。異妖化と9年前の玉置創治郎異妖化事件のことについてのことだ。

 だから、大丈夫。きっとこの力を使える。

 彼と目を合わせてもう一度首を縦に振った。彼も白い歯を見せる。軽くて薄い笑みじゃない。


「よし、なら大丈夫です」


 彼はゆっくりと俺の胸部に手を当てる。


「じゃあ、いきますよ」

「あぁ、来い坂西!」


 コクリと頷いた彼は、当てた手を俺の胸に押し込んでいく。不思議と痛くない。俺の胸から発せられる黄緑色の光が眩くこの部屋を照らし、思わず目を瞑ってしまいそうになる。それでも何故だか、目を閉じてはいけないような気がした。ちゃんと、見届けなくてはならないような気がするのだ。


「ガッ!!」


 坂西の手が俺の体の芯にあるなにかに触れた。まるで頭の中の部品を一つ持っていかれるかのような感覚。


「大丈夫、君ならできるから。だから、耐えて」


 彼は諭すように言いながら俺の中で何かを掴み、ひねった。

 ガチャリ。

 刹那、内側から何かが湧き出てくる感覚。頭の中を掻き乱されるような痛覚が全身を襲う。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃ…いや、違う。これは、悲しい。


「あとちょっとですから」


 彼はゆっくりと手を抜いていく。そうして、手首が俺胸に空いたホールのようなものから出たところで、勢いを強めた。


「グァァァァ…はぁ、はぁ…んぁ、はぁ」


 彼の右手には大きな鍵が握られている。見れば部屋の壁は全て薄く塗られた1色になっていた。


「ありがとう坂西。ちゃんと、見ていてくれ」

「ええ。僕はあなたのトリガーですから」


 優しく微笑んだ彼をみて、ゆっくりと俺は瞼を下ろした。


 ◆


 四角い部屋を見回した。椅子に座って壁の色を眺める。目の前にモニターのようなものが現れた。映っているのは、鋭い歯を向けて迫る異妖化動物の顔面に、不慣れなパンチを食らわせた手。彼の背後からは少年少女の叫び声。いや、一人は嗚咽を漏らしているように聞こえる。

 モニターの端には彼を見上げる男。

 流零くん、君はまだ愚かなままだね。

 異妖化動物は拳との境界線にできた黄緑色の稲妻とともに宙を舞う。拳もまた、稲妻を纏っている。視点は常に彼の一人称視点だ。差し出された手に、太田流零は目を逸らしている。差し出されていた拳が握られた。視点が上がっていき、振り返るように動いていく。少年少女が皆それぞれの表情を浮かべていた。近づいた瞬間、彼らが退いた。彼らに向けられていた手を引っ込め、視点が足元に下がる。それもつかの間、今度は左にゆっくりと動いていく。異妖化動物がまたしても彼に襲いかかっていた。少年少女の声は聞こえない。何も言えないようだ。

 ため息をついた。

 例えば、暗闇の中で自らを発光したとしよう。その時、自分が見る世界よりも、他者から見ている方が明るくはっきりと見えるだろう。

 なんと、世界は皮肉だろう。

 いくら一人が火をまとい光になったとしても、それは他者に恩恵が注がれる。遠い未来のことならば、他者の導きに期待するしかないのだ。

 ならば他者も光ればよいのではないか。そうして平等に導けばよいのではないか。

 そうすれば遠い未来のことさえも、近い未来にできるのではないか。

 そう思ったが違った。

 これには遥かな痛みが伴う。何しろ自らが光を放つのだ。そのくせ光が弱いと水をかけられることだってある。

 ゴールにはできるだけ多い人数でたどり着くべきなのは言うまでもない。それまでに全員が伝説となっては意味がない。何しろ次の光が現れなければならない。後ろにいるものに地図を渡さなければならないのだ。

 だから、船頭に常に立たされ、風を受けながら歩く。

 それでも、痛みは共有されない。ただの文字の世界に変わる。

 そんなの痛いに決まってる。

 だから、人はこう呼ぶのかもしれない。

 英雄、そして、犠牲者、と。

 とはいえ、僕はそんな愚か者が、嫌いじゃないんだ。何しろ世界は愚か者で回っているのだから。

 壁に叩きつけられる異妖化動物。そして画面には空一面が映り、大きな咆哮のような声が聞こえた。

 僕は椅子を蹴飛ばした。

 それでも、好きにはなれない。


読んでいただきありがとうございます。


<次回予告>

「俺の力だ。使うのは俺の勝手だろ?」


ついに異妖化を発動させ、能力を使う意志を固めた基木多。彼の前に、ハヤタが立ち塞がる。

彼の答えは、それでも変わらない。

世界を変えうる力。それを持つ者。

その力の行使には、確たる願いが必要だ。


次回、睦月編最終話『確たる願い』

それは、彼の願いとはじまり。

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