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第41話『なくてはならない者』

 

 坂西と話したあの日からはやくも3日が経つ。相変わらず依頼の数は増えるばかりで、皆今日も忙しそうに荷物を抱えて去っていってしまった。また一人だ。だが途方にくれることはない。何しろ俺がすべきことを見つけることができたのだから。

 時計を見ると、皆が依頼に向かってからすでに1時間が経過していた。

 腕時計のベルトを巻き直して、準備室の机を整理する。俺の机も、プリントやら何やらで散らばっているのだ。せっかく俺に仕事がないのだ。これくらいしたっていいだろう。箒で掃くと、まるで高波のように埃が舞った。これを直に食らってはやくも俺の掃除計画は破綻してしまった。またしても机に向かってベルを眺めるしかない。今度は咳き込みながら。

 その時、後頭部のあたりを何か電撃が貫いた感覚が俺を襲う。またしても、この感覚。ここ数日頻発している。

 こめかみを抑えて首を横に振る。

 散らばった書類を片付け、机に置いた本を手に取る。それでもやっぱり窓の外を眺めていると廊下の方で叫び声が聞こえた。


「基木多っ!」


 玉置さんは、そちらを向く頃にはすでに手元のベルを鳴らしていた。


「え、どうしたんです?」


 彼は膝に手をつき喘ぎながら答えた。


「なんだ、無事か」

「は?」

「基木多、頭痛はないか」

「はぁ、ありますけど」


 彼の目が細められた。じっと俺の胸元を見ている。試しに襟のあたりを触ってみるが、なにもなかった。

 グッと俺の肩を強く握った玉置さんは、荒い息のまま俺に刷り込むようにゆっくりと事実を述べた。


「近くの、皆が活動してる公園で、異妖化が起こったんだ」


 ◆


 思うより先に体が動いていたように思う。玉置さんの制止もなんのその、俺は彼の叫ぶような声にむしろ押されて半開きの部室のドアから勢いよく飛び出した。背後で衝撃音が聞こえた気がする。おそらくドアだろうが、そんなもの見てる暇はない。木造の手すりにつかまって階段の踊り場を曲がった時に、チクリと指になにかが刺さった。それでも、足は回り続ける。

 公園は裏門を飛び出てすぐのところにある。徐々に頭痛は激しさを増す。

 きっとそこにいるのだ。数回クラクションを鳴らされ、公園に着いた。遊具がほとんどないこの公園は、球技禁止のフェンスが四角形に囲むようにそびえ立つ。その一角に、皆はいた。

 そしてその奥には異妖がいる。明らかに、俺をみている異妖が。目があった途端、頭痛がさらに酷くなる。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い。きっとそうだ。これだ。

 夕焼けが俺を照らした。

 皆が異妖の目の先にある者へ振り返る。一人が叫んだ。


「モッキ先輩!?なんで…」


 そうして駆け寄ろうとする仁戸ちゃんの腕を掴んだのは、太田先生だ。

 俺と先生は距離にして数メートル。

 太田先生は校舎の方へ目を向けた。


「次郎…」


 そして振り切るように首を振ると、怒鳴った。


「今すぐ帰れ基木多!!」


 言うと先生は異妖の方へ振り返る。仁戸ちゃんから手を離しブレスレットをキュッと握った。

 俺と先生、距離にして二メートル。

 ゆっくりと足を進める。太田先生がナイフを黄緑の稲妻が纏う左腕で投げる。異妖が痛みに叫んだ。

 先生はフォロースルーのまま腕を抑えて倒れ込んでいる。息も荒い。

 もう無理だ。


「グォォォォ!!」


 異妖が叫びながら先生に飛びかかる。


「先生!!」


 先生の鼻の先にはすでに異妖が迫っている。

 今しかない。駆け寄りながら、異妖に念じる。


 止まれッ!!


 異妖が太田先生から対象を俺へと変えたのを確認して、目を閉じた。

 頼む。頼むからあの部屋に俺を!

 俺はどうなったって構わない。ただ糧に、皆のなくてはならない者になりたいだけだ。

 だから、頼む!

 来い坂西!

 俺をあの部屋へ連れて行ってくれ。


読んでいただきありがとうございます。

次回更新は9月9日午前1時の予定です。


<次回予告>


「ええ。僕はあなたのトリガーですから」


目の前の状況を打破するため異妖化しようと試みた基木多。

目を開けると、4色の壁が彼を囲む、坂西が作り出した心象風景の中にいた。

基木多の願いと決意に、坂西も首を縦に振るが…


次回、睦月編第8話『英雄』

それは、孤独の称号。


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