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第39話『覚悟の行方』

 

 1月もすでに半ばに差し掛かろうとしていた。

 日によってはほろほろと雪が降り、足元を薄くぬらす。

 雪は降っているときが一番きれいだ、と思う。

 きれいな結晶で、それらが集まって、風に揺れながらしずかに落ちていく。だが落ちたら最後、あとは踏まれて見にくく、そして場合によっては人間に牙をむくようになる。美しいとは、思えない。

 桜みたいだ。


「なんだかなつかしい表情をしているわね」


 廊下から中庭を眺めていた俺の隣に缶コーヒーを2つもった北上がついた。


「なんのことだか。ん、ありがと」


 俺は白の缶コーヒーを受け取る。


「そんな顔してるときのあなたはろくなこと考えてないものね」


 俺たちは二人して中庭の濡れた地面に目を向けたままだ。

 首に入る風が痛くて、マフラーに顔をうずめる。


「ほんと、そのとおりだよ」


 北上は浅く息を吐く。ほんのり朱に染まった鼻先を立ち上る白い吐息、緑と赤のチェック柄のマフラーが、長い髪をその内側にまとめさせている。だからだろうか、大人びた雰囲気と、幼い雰囲気が混ざり合って、なんとも蠱惑的な空気をまとっている。

 少し間をあけてまた繰り返されるその仕草に、胸が締め付けられた。

 かわいい、だけ、なんだな。


「私はあなたの協力者よ。私に気を使うことはないわ」

「そうだな。ありがとさん」

「ええ、勝手に沼にはまってもらっては困るから」


 覚悟は、決まっている。

 でもそれは俺のやるべきことについてのこと。

 なにも、仁戸ちゃんが気になってしかたない、この冷めたフライパンにこべりついた油汚れのような感情のことじゃない。


 ♦


 眼前には、異妖が3体。すべて少し距離がある。仁戸ちゃんと葉矢海、北上は先に距離を詰め、波野は今回後方支援だ。

 小型の異妖ではあるが、最近は異妖が強力だ。

 女子3人に異妖が間合いを詰め始め、戦闘が始まる。

 健闘していた3人だったが、一体の異妖が3人の背後に回る。


「なっ」


 北上が小さく声を漏らした。そして再度開眼を発動させる。

 だが、北上が視線に捉えた異妖は仁戸ちゃんの背後から、仁戸ちゃんにとびかかろうと姿勢を低くした。


 よし、やってみるか…!


 俺は異妖をじっと見て、あたまの中で「止まれ」と言い続ける。


 バチンッ!!


 脳の奥が焼けるように熱くなる。

 視界の端にかすかに稲妻が走る。

 思わず力が抜けかけた膝をなんとか抑え、俺は異妖を見続ける。徐々に目の奥を刺すような痛みが増していく。

 異妖の輪郭だけが鮮明になり、視界が一瞬ホワイトアウトした。


 こっちに向きやがれッ!!!


 刹那、異妖がピタリと動きを止めた。

 そしてゆっくりと俺の方へ振り返った。


<次回予告>

「君がみんなを信じていないからじゃないかな」


異妖に自分を標的にする命令を出すことができるようになった基木多。自身の特異妖者としての能力をその後も使用していた。しかし、太田流零にその様子を非難され、対異妖活動への参加を禁じられてしまう。

彼が知らず知らずのうちによりどころにしていたそれは、とても脆いものだった。


次回、睦月編第6話『能力の乱用』

それは、願いのかけら。


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