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第35話『睦月の戯れ』

 

 眠気まなこで玄関のドアを開ける。吐く息は白く、心なしか大気もほんのり白い靄がかかっている。半纏を着てなかったらこりゃポックリ逝っちゃってるね。そんな刺すような寒気に身を震わしながら、郵便受けの中身を確認する。案の定沢山の年賀状が投函されていた。

 もう、年が明けて3日。

 速いものだ。

 心情はクリスマスからなにも変わっていない。いや、厳密にいうならクリスマスの日の夕刻、あの公園で俺がダラダラと言葉を解き放った瞬間からだ。

 俺は、なぜあんなことを言ったのだろう。聞いてもらいたかったのは事実だ。俺は聞いてもらいたかったのか?この刺すような寒さに頭を冷やされる度に浮き上がってくる。

 ただ口にしたかっただけなのではないか。ならば俺は、俺のあの言葉の群れは、なにも生み出さなかったのではないか。

 耐えかねて玄関に駆け込み、年賀状を母さんに渡してガスファンヒーターの前に居座る。熱風が全身を包み込み、強張っていた体が徐々にほぐれていくような感覚にしばし酔いしれる。

 はぁ、とろける。

 すると、背後で足音が聞こえた。


「ねぇ、道大」

「ん?」

「なにに悩んでるの?」


 えらく唐突だな。


「え?」

「いいから。母さんには全部お見通しだぜっ!」


 そうやって親指を立てる母さんはきっとなんでも知っていて、何も知らないんだろう。でなければこんな笑顔は見せられない。

 ギュッと両手を握りしめる。熱風に手を当てていたからか手汗がひどい。それで滑ってうまく拳を握ることはできないが、それでも、握る。

 母さんの左右の靴下は動かない。


「知ってるなら…」

「ん?」


 ヒーターに顔を向ける。こういうのを量子学的パラドックスとでもいうのだろうか。

 悲しい顔をしているのか、それとも笑っているのか。振り向けばきっとわかる。だからなんだ。振り向けばわかることがいつも正しいだなんて限らない。見ない方がいいことだってある。少しくすんだ白に溶けてしまいそうなほど、俺の体は熱風に包まれている。少し下に目を落とせば揺れる火が見える。それを吹き消すような遠くまで届くほどの息を吐いた。息を大きく吸い込む。温風が鼻と喉を熱し、むせた。


「お見通しなら、別に言わなくたって、いい、だろ…」


 チラと母さんの足元を確認する。ピクリとも動いていない。なにも聞こえない。ゆっくりその顔を見上げると、母さんは困ったように微笑んでいた。

 思わず、上がっていた肩がガクッと抜けた。ハッとしてヒーターに顔を戻す。


「そう、だよね」


 ため息を我慢して眺める、くすんだ白が眩しい。


 ◆


 新年あけましておめでとう。

 腐る程聞いた。先生達は毎授業で言ってくる。

 授業中も年初めの1週間はこんなにも教室が騒がしかったかと思うほどうるさかった。そんな熱く青春に命を燃やすSWH患者達を見るのはとても滑稽な気分になってくる。

 こんな街でなにがそんなに楽しいのだろう。かたや俺はお前らみたいな人間のせいで化け物だと言われた過去だってあるというのに。本当に化け物なのは、マイノリティたるこの街の人間のはずだ。

 本当に、井の中の蛙だ。

 そんな輩も休み明けはじめての金曜日には流石に疲れてきたようで、始業式のような盛り上がりはどこかしぼんできていて、俺としては心地がいいが、なんとも冷めた場所になりつつあった。まぁそれでも、高校2年の1月だ。みな一様に謳歌はしている。

 終礼はいつも通りグダグダと流れ解散のような状況。

 俺も部室に足を急ぐ。

 相変わらずこれだけ急いでも誰かが先に来ていることを、ドアにかけられた『open』の札が教えてくれる。

 いつでも俺を迎えてくれる。例え俺がこの街においての化け物だとしても。


 ◆


 30分も経てば全員が揃う。それがこの部の時間にルーズなところではあるが、俺はこの雰囲気が嫌いではない。今更になって思うが、これのおかげでなんとも均衡を保った関係のまま2年近くもやってこれたのではないだろうか。遅れてくるのは別に悪いことじゃない。なぜなら。1人いればそれで成り立つからだ。

 新年が明ければ、つまり節目を越えれば、もしからたら俺の扱いが変わっているのではないかとほんの少しだが感じていた。ほんの少しだ。

 だが、違った。

 俺はいつものように準備室で本を読み、向かい合って北上が座る。


「あらこんにちはモチキタくん」

「いや誰だよ無理矢理にもほどがある」


 眼鏡を拭き、掛け直して俺をじっとみる。

 なんだよ。こっちが気恥ずかしくなってくるだろ。

 そして、安心したようににっこりと笑った。


「あら、ごめんなさい鏡餅キタくん。ところでどうしてまだ顔が割られていないのかしら」

「ただのホラーじゃねぇか!」


 あと鏡開きって言おうよ。それに最近はあまり割らないよね。キッと北上に睨みをきかせる。すると今度は眼鏡の奥の目をそっと伏せた。


「基木多君」

「な、なんだよ」

「静かにして」

「…」


 なんだ。なんだこの敗北感は。泣けてくるぜチクショー!いや、チークショー!!

こんにちは、蛸中文理です!

読んでいただきありがとうございます!

次回更新は7月22日の予定です。


<次回予告>

「え、なに、告白?」


年が明けて一つ目の依頼は異妖の撃退。

依頼者の男子生徒には想いを寄せる女子生徒がいた。

告白したいが、告白にもってこいの場所が異妖に占拠されていたのだ。

基木多たちはその依頼を承諾し、異妖を撃退するが…


次回睦月編第2話「兆し」

それは、彼女の想い。


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