第34話『除夜の鐘』
暗がりに街灯が等間隔で光の円地面に描く。そんな、車はほとんど通らないような細い道の住宅街を進む。4つの足音が時折氷を踏んでいるのが分かると、たしかに俺以外の人間が俺といるのだと気づく。なんというか、触れているわけでもないのに、とても満たされているような、そんな感覚に襲われて、俺はポケットに手を入れたまま空を見上げる。空は深い闇ではあるが、澄んでいる。雲は見当たらないし、月は優しく光らされている。
あと数分で今年が終わるというのは、なんとも感慨深いものがある。
腕時計の針は淡々と進む。すれ違う人々はみな一年を振り返っていた。
再び時計をみる。
3、2、1…。
ゴーンと深い音が街を包む。
「あ、鳴ったね」
となりに歩く逢坂彩葉は「ほぇー」と感嘆をもらした。
「鳴ったな」
そういえば去年の今頃、「もう一年終わったのか。これから新年なんだな」とかなんだか独り言を言っていたが、同じことを言いかけて口をつむいだ。
「なんだか変な感じだな」
「ん?なにが?」
1人じゃないのが。
なんて言えない。
言っちゃいけないような気がする。俺はもしかしたら、ずっと1人じゃなかったのかもしれない。でなければ北上が俺に話しかけてくることもなければ、仁戸ちゃんが俺を憎むこともなかっただろうし、はたまた俺のエゴの塊みたいな独り言を皆が聞いてくれるはずがなかっただろう。それだけではない。きっと再会した逢坂さんが目を伏せることもなかった。
もちろん、こうして逢坂さんと友人として隣を歩くことも。
鳥居をくぐるとすぐに波のようにざわめきは迫り来る。御手水、そしてその波の中を進み本殿へ。手を合わせて、そうだな、今度はおみくじでも引こうか。
お金を入れて俺が先に引く。後に引いた逢坂さんとせーので開けると、同時に顔をみた。
◆
吐く息が白く登っていく。手袋をしていても、上着のポケットに手を突っ込んでおかないと感覚がなくなってくる。マフラーに顔を埋め、横目で逢坂さんをみる。彼女も手に息をかけている。どうやら手袋をはめてきていないらしい。
「まぁ、今年一年がんばれってことだよ」
「そうだね、そう捉えておくことにするよ」
要約すると、努力しろ。
そう書いてあった。
「どうする?もうここ出る?」
「そうだね、どうしよっか」
そう言いながらも、俺たちはすでに本殿を離れ鳥居へと向かっていた。
こうしていると、恋人にでも見えるのだろうか。
もし、隣にいるのが彼女ならば―いや、そんなこと考えるのはやめよう。
首を横に振った。どこかに飛んでいけばいいのに。
この神社はこの街の中でも大きい。広大な境内だけでなく、その建造物や木々にも趣を感じる。ましてや今は夜。灯篭のようなもので下から照らされた木々は、まるでそこに座っているかのようだった。
幾度か来たことはあったが、この神社、こんなに綺麗だったんだな。建物も暗い中ではあるが、赤がよく映えている。
参道にはまだまだ本殿へ向かう人々が皆それぞれの面持ちで足を進めている。その衆の中に、薄い茶色の髪がふわりと揺れた。顔は見えないが誰かと話しているようだ。
すこし体を前のめりにして、その髪の主を覗き込む。
なんだ、知らない人か。
俺の挙動を怪しんだか、逢坂さんが顔を覗き込んできた。
「ん?どうしたの?あ、まさか女かなぁ〜。いやぁ感心しないなぁわたしという美女が隣にいながら〜」
そう言って肘で脇をつついてくる。
「おいおい、それ自分でいうのかよ」
すると逢坂さんはピタリと肘を止めて、こちらをみる。
そしてニヤリ。
「うん?じゃあ、言ってくれるのかな?」
「いや言わないけど…」
そして肘打ちの再開。
その時、ポケットでスマホが震えた。
ロック画面にはいくつかのメッセージ。今来たのは玉置さんからだ。
下にスクロールすると、波野とその妹の葉矢海、さらに下におくると正午ぴったしと1分にそれぞれ一通入っていた。
『優夏 : あけましておめでとうございます!』
『たかの : あけましておめでとう』
なんというか、こんなにあったかい冬って、いつぶりなんだろう。
「あ、そだ忘れてた」
「ん?」
「基木多くん、あけましておめでとう。今年もよろしく」
言って逢坂さんは軽く会釈。
「お、おう。あけおめ」
先ほどの返信を返したついでに、別のアプリの気象情報を開く。
気温や湿度は例年と変わらなかった。
こんにちは、蛸中文理です!
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次回更新は7月15日の予定です。
<次回予告>
「なにに悩んでるの?」
新年あけましておめでとう。
そんな言葉が飛び交う佐戸の町。
基木多道大の母・千歳は道大が悩みを抱えていることを見抜いていた。しかし、かけられた言葉に道大は思わず強く当たってしまう。そんな朝から彼の新学期は始まる。
基木多たちの願いの物語、新章開幕!
次回、睦月編第1話「睦月の戯れ」
それは、いまだ行われる孤高の真似事。




