表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/61

第33話『独白』


 大型商業施設のやたら広い駐車場の、道を挟んで向かいにある公園。そこに車が一台入ってきた。運転席には男が一人。車が俺たちの前に横に止まると、男はこちらの礼に軽く手を挙げて応じ、窓を開けて顔を見せた。


「ケースは持ってきたか?」

「うん大丈夫。準備はできてるよ」

「そうか。じゃあ始めようか」


 言って太田先生は車から降り、左手に持っていたバインダーを俺に手渡した。


「今回もすまんが頼む。いやぁ、そろそろ独立した組織になんねぇかなぁ」


 対異部は名義上、原異形の息のかかった組織だ。ハヤタさんがたまに来るのもそうだが、玉置さんが先生に渡したアタッシュケースの中身などの異妖に対抗する武器類は全て原異形からの支給品だ。そのため、こうして活動報告を提出しなければならない。曰くこれがなければ対異妖活動はさせてもらえないそうだ。

 ということは、あまり深い仕事には関われないし、独自に行動ができる範囲が狭くなる。先生もきっと異妖についてちゃんと知りたいのだろう。友人を一人異妖化で亡くしているのだから。


「そうですね」


 と軽く頷く。これでいい。余計なことは言うべきじゃない。

 太田先生も俺の目を見て一つ首を縦に振り、右手首の腕時計に目を落とす。


「えぇと、12時30分。これから対異妖活動を開始します!身の危険には細心の注意を払えよ!」

「はい!!」


 一同の威勢のいい返事が公園に響き渡る。

 やっぱり、俺が言うより締まるよなぁ。


 ◆


 依頼内容は異妖の討伐又は撃退。虎のような異妖が四体公園に居座っているのでどうにかしてほしいということだった。

 相変わらず異妖は俺のいるところに集まってくる。そしてそれを俺以外の皆が討伐する。

 そんな流れで今日の依頼は終えた。

 玉置さんがアタッシュケースに対異妖器具をしまうと、皆の口から嘆息が漏れる。


「皆さん、お疲れ様です…」


 行きは明るかった仁戸ちゃんも流石に疲れたご様子。


「本当よ。最近はホットアイマスクが欠かせないわ」


 北上は眼鏡を外し目頭を押さえる。それから目薬をして「キターー」と小声で言う。

 え、なに今の。

 訝しげな目線を送ると、北上が鋭い

 めを向ける。


「いや、キターーって…」


 すると北上は目を見開き、朱に頬を染める。


「な、なに、その、北上、だけに?キタミン、だけに?」

「お前キタミンって呼ばれるの気に入ってるのか」

「…ええ、そうだけどなに?」

「ごめん」


 なんでだよ。

 目はいつもの冷徹さを保っているが、まだ顔は赤い。

 ほほう、さぞかしあったかろう。

 緩んでいるであろう頬をきっとキッュッと締めて、腕時計を見る。

 まだ3時か。


「あのさ、これから、どうする?」


 チラと顔を上げる。目を向けるたびに、彼らの顔がこちらを向く。そのうちの一つ。もっとも、開いてほしい口が、開いた。


「じゃあ、公園でも行きますか」


 ◆


 ブランコは、こんなにも低かっただろうか。となりに座る波野も、同じことを思っているのだろうか。いや、そんなことはない。俺と彼とは別のもの。俺は化け物で彼はDNFS患者。きっと見えない隔たりがある。

 俺と、彼らとは、隔たりがあるのだ。

 ギギギととなりのブランコが揺れる。

 亜麻色の髪がきっと揺れているだろう。

 言葉はつっかえて出ない。

 引っ張り出してよ。


「なぁ、基木多」


 顔を上げると、玉置さんが重い顔を下に向けている。何か言いたげにしているが、それ以上は出ないようで―いや、きっと出ないのだ。俺と同じで。そうして玉置さんは黙り込んだ。

 チラとその目が一瞬波野を覗く。

 それに感化されたか、波野は揺らしていたブランコを止めた。


「俺さ、あのハヤタさんって人から聞いたんだよ。お前が、その、異妖化したって」


 ピクリと公園が震える。俺が揺らしていたブランコは動かない。

 ありがとう。波野。


 ◆


 そうだよ。俺は、異妖化した。

 みんな知らなかっただろうけど、俺は悲しいという感情を得ることが出来る。だからずっと、軽蔑してきた。だから、俺は何もみんなに話さなかったんだろうな。

 それでも、俺を部長だって言ってくれるか?

 俺を友人だって言ってくれるか?

 蔑んでくれるか?

 できることなら、俺を軽蔑してほしい。いっそその方が楽だからさ。

 そんで欲を言うとさ、俺のすることを見守っていて欲しいんだ。何をするかは言わないし、聞かないでほしい。

 実際俺もよくわかってない。

 え、あぁ、まぁそうだろうね、意味わかんないだろうね。でもさ、仕方ないんだよ。俺もよくわかっちゃいない。多分、よくわかってる人なんてそんなにいない。玉置さん。玉置さんも、よく分からないんじゃないですか?

 あ、いやなんでもないです。

 え、うん、俺の中の何かが目覚めて、目を開けるんだって。なんかさ、二重人格みたいで、その時の記憶ってほとんどないんだよね。ん?いや、それは言えない。俺が誰に何をしてどうなったかは申し訳ないけど言えない。ただ、俺にはやるべき事がある。知らなかっただけなんだ。いつかは決めなきゃいけないことだったってだけ。

 何をするかはちゃんと俺が理解したら話すよ。

 あ、ここで話したことは、出来れば口外しないで欲しい。

こんにちは、蛸中文理です!

読んでいただきありがとうございます!

次回更新は7月8日の予定です。


<次回予告>

「基木多くん、あけましておめでとう。今年もよろしく」


クリスマスが終わり、時は大晦日。

基木多は逢坂彩葉と初詣に来ていた。

彼はまだ、彼のカオスを指す言葉を知らない。


次回、師走編最終話「除夜の鐘」

それは、この街に響き渡る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ