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第32話『クリスマス』


 クリスマス。

 そう、綴りにエックスなんて1つも入っていないのにエックスマスと書いてクリスマス。

 そんな日まであと1週間ときた。さぁてクラスはざわめいている。予定が埋まりそうな輩は、案の定先程の数学の時間からずっと週末の予約が取れたやら何やらで盛り上がっている。

 教室の端にいるのに、このキラキラ青い雰囲気が俺を蝕んでいく。

 部室、行くか。

 担任が終わりのショートホームルーム(縮めてSHRって書くけど、これだけだとスーパーハイグレードレアという何ともトレカ的な勘違いをして歓喜に浸ってはいけないので、ちゃんと終わりと初めは書く必要があるよね)で語り終えたのを見て、俺はゆっくり席を立つ。クラスは流れ解散のようになっていた。

 人の波に飲まれるように俺は廊下にでる。無数の上履きの音から逃げるように、俺は旧校舎へと足を進める。

 あれから仁戸ちゃんとは特に何も無い。今まで通りの日常に、今まで通りの高揚感。なれないからか、この高揚感に臆して声が上ずることがよくあるが、なんだろう。それでもきっと、俺と仁戸ちゃんはちょうど被害者と容疑者の関係だ。俺は彼女に同情させてはならないのだ。彼女が軽蔑をとけば、俺はきっとおかしくなる。

 今みたいに、皆がいるならなおさらだ。

 この時期、人は慌て出す。だからなのか分からないが、依頼が増える。これは俺のせいとかじゃなくて、毎年の傾向なのだそうだ。

 それでも、俺たちは所詮高校生。遊びたいという欲で生きてるみたいなとこあるよね、ない?ないか。そうか。

 まぁなくても遊びたい。というわけで、俺たちはクリスマスの予定を企てていた。


「で、どうなんです?皆さんは暇なんで...暇人なんですか?」


 仁戸ちゃんが北上、葉矢海、波野、俺、先生、玉置さん、と順に確認していく。結果は皆暇人。

 で、仁戸ちゃん?なんでさっきはあえて言い直したの。俺たちは良しとして先生も暇人になっちゃこれはこれでなんかねぇ...先生?

 思わず仁戸ちゃんに目を向けると、彼女は胸の前で小さく手を組んでいた。


「太田先生は、あ、すいません、来なくていいです」


 うわぁ...。仁戸ちゃんのその「どうしよう」みたいな目がさらに先生に追い討ちかけてるから!頼むから笑顔で!

 とても見られないな、と目を彼女からそらすと、北上がちょうどそこにいた。ゆっくりと肩にかかる髪を払い、眼鏡を押し上げると、レンズがキラリと光り、彼女はにっこりと笑って、その光景を見守っていた。

 いやお前の笑みが怖いよ。

 キュッと握りしめていた拳を徐々に開いていく。手汗をズボンで拭う。

 よし、出てこい言葉。


「あのさ、なに、する?」


 ピタリと皆が動きを止めた。そして一様に、俺を見ない。

 音がするように、冷気が、俺から広がっていく。足下からドライアイスから昇華した気体が地面を覆うように、堅くて重いものが俺の足を駆り立てた。

 ピクリと葉矢海の口角が跳ねる。


「えーっと、ご、ご飯食べに行くとか、どうっすか?」

「さ、流石はやちゃん、センス〇だよ!」

「いや、わたし別に得られる経験値上がる能力もってないし」


 乾いた笑い声が澄み渡る。

 寒い。

 やっぱり、駄目なのかな。

 ずっとこうだ。あの日―俺が化けた日以来、ずっと、俺は腫れ物みたいになってる。仁戸ちゃんは普段と変わらなかったけど、俺があんなこと言ってからちょっと距離を置いている。そりゃそうだ。全部、俺の責任。

 波野とも、話していない。

 話したいことはいくらでもあるのに。


 ◆


 町は煌めいている。

 肌を刺すような寒気さえ人々は温もりで忘れてしまうのではないか、そんなことを考えては、首を横に振る。

 駅前には誰もいない。ここは学校の最寄駅だ。以前波野たちと遊んだときにもここに集合した。

 時刻は、11時半。

 集合は12時。

 まだ誰も、いない。

 携帯の画面をチェックする時が進み、五分後にようやく波野が来た。

 軽く手をあげる。

 向こうも微笑みを浮かべ応じた。

 それからは徐々に集まり出して、皆で歩き出した。

 ちなみに、俺も、皆も、制服。

 前を歩く波野がわかりやすくため息をついた。


「はぁ、なんでクリスマスにまで依頼が入るんだよ…」

「仕方ないでしょう?私たちはそういう部活なのだから」


 そう言う北上にも、流石に今日はいつもほど眼鏡の奥の目に力はない。そりゃそうだ。もともと皆でワイワイするつもりでいたのだから。


「まぁ、やるしかねぇだろ」

「そっすねぇ…」


 おおっ。珍しく葉矢海と玉置さんが息合ってるなって思ったら、めちゃめちゃ距離空いてた。よくそんな距離で話できるな。尊敬するわ。


「ねぇ仁戸ちゃん」

「はぁい?」


 ふと俺の目の前に揺れる淡い茶髪を呼び止めた。


「頑張ろうな」


 言うと少女は目を丸くした。その様子がとても可愛らしくて、つい頬が緩む。


「お、着いたぞここか」


 玉置さんがアタッシュケース片手にポツリとこぼした。薄桃色の髪もそれに弾かれて揺れる。

 もう少し見ていたって許されるかな。



こんにちは、蛸中文理です!

読んでいただきありがとうございます!

次回更新は7月1日の予定です。


<次回予告>

「じゃあ、公園でも行きますか」


クリスマス。だから、彼らは集い、そしてなにも変わらない特別な日々を過ごす。

だから、ほんの少しでも近づいてみようかなんて過る。

それでも、彼の犯した過ちは消えない。

彼の覚醒は嘘にならない。


次回、師走編第7話「独白」

それは、ある種の優しい世界。


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