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第20話『協力関係』

 

 順調にいきそうだな。

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 …そう思っていた時期が、俺にもありました!!

 エアガンなんてその日のうちに見つかると思っていたのだが、これが全く見つからない。というより準備室の荷物が多い。相談者も来るし、依頼もある。玉置さんにも知られちゃいけない。その中で準備室の荷物を整理し、ほじくりかえしてエアガンを探すのがなんとも辛いし時間がかかった。結局見つかったのは木曜日の夕方6時前。4日かかった。そこから弾を準備してもらって週末。

 気が付けば、依頼当日の朝を迎えていた。


 ―まったく、順調にいきそうだなんて思うものではないわね。

 ―そうだな。誰だよ順調にいきそうとか言ったの。

 ―ええ、たしかどこかの部の部長さんだったわね。ね?部長さん?


 この1週間で、そういう会話さえあればよかった。

 それさえあれば、きっとあいつとはもう一度話すことができる。俺からは無理だ。俺は、まだきっとあいつに怒っている。俺の贖罪だなんだと言っておいて、波野と恋愛か、と。でもそんなことガキの言い訳みたいにくだらなくて、俺が人間として大きく欠陥していることの証明にしかならない。誰も得をしない怒りだ。

 だからこそ、余計に俺からは声がかけられない。

 例えクズであったとしても、俺にも一理あるのではないだろうか。とはいえ、恋愛にまで口出しする筋合いはない。

 本当に、考えるときりがない。

 時刻は午前8時。

 校門では生徒会が挨拶運動ために集まり始めていた。

 もちろん、小柄な体躯に良く似合うツインテールが揺れている。きっと六崎さんのことだから、一番乗りだったのだろう。

 ふと目が合う。

 ほんの少し、彼女の表情がこわばったような気がした。


「あ、お、おはようございます!」


 硬い笑顔で、しかしはっきりと六崎さんはそう言った。俺に向かって。


「あ、お、おはようございます」


 意外だ。無視されるかと思った。なんなら俺も無視するつもりでいた。

 俺が挨拶を返すと、今度は意外そうに俺をじっと見る。

 たぶん、俺と同じことを考えたのだろう。

 でもそれは違う。君があいさつしたから、俺は返したのだ。

 私情を一旦抜きにして、自分の仕事に励むことができる六崎さんだからこそ、俺は返事を返せたのだ。

 本来返さなくたって不自然じゃないとわかっていても。

 止めていた足を再び動かした。

 俺もそんな風になれたらいいのにな。


 ◆


 なにもないような普通の日々みたいに時が過ぎていく。六限が終わり、SWH管理部の扉をノックすると、気の抜けたような遅い返事が返ってきた。

 それを聞いて重くさびた扉を開ける。


「太田先生、部室の鍵貰いに来ました」

「ほれ」


 一番手前に座る太田先生が俺を見ずに空返事で鍵を投げる。これ毎回コントロール悪くて怖いし腹立つからちょっとやめてほしい。でもずっとPCにしがみついたままだ。きっと大事なことを…は?なんで放課後の職員室で、しかも一番手前で悠々と麻雀してくれちゃってんだよ。


「安心しろ基木多。これも大切な次郎対策だ。いま次郎からごっそりいって勝ったから、もう三回はやることになるだろう」

「あ、はぁそうですか。頑張ってください」


 ガタンとわざと音をたてて扉を閉めた。

 階段を上がって、部室の鍵を開ける。

 あの麻雀は、玉置さんの足止めということだろう。なんやかんやしっかり仕事してるあたり太田先生がしっかり高校教師として成り立っているんだなと痛感する。

 部室にはまだ誰もいない。まぁ鍵を俺が持っているのだから当たり前か。

 準備室のドアを開けて、部室を喚起する。こうしないと臭い。

 しばらく待つか。

 椅子に座って、俺は机に突っ伏した。


 ごとっと俺の向かいの椅子にだれかが座る。


「起きて」


 肩を誰かがゆする。


「起きて、基木多君」


 あれ、なんかゆするの強くなってない?


「はやく起きなさい、基木多君…起きなさいって言ってるでしょう」

「はい!」


 しまいには肩をまぁまぁ強く叩かれた。

 ゆっくり体を起こすと、長い黒髪が見えた。それを上にたどると、きらりと黒縁眼鏡が光る。


「もうみんな揃っているわ、行きましょう」


 まだほんの少しセミが鳴く。

 あまりにもその微笑みがきれいで、それをあまりにも久しぶりに見た気がしたせいで、風に揺れるつややかな前髪を抑えて首をかしげる姿に、俺は思わず目が離せなかった。

 桜の花びらが、視界の端に舞った気がした。


 ―私の贖罪、なのだから。


 そうか。


「なに?」

「…いや、なんでもないよ」


 全部、伝わった。眼鏡の奥の澄んだ瞳が見えた瞬間、全部わかった。


 ―基木多君よね?対異妖生徒相談部って知ってるかしら。


 俺だけ、だったんだ。

 彼氏彼女なんてものを気にして、変な気を使って、怒っていたのは、俺だけだったんだ。


「よし、行くか」

「ええ、ではこれを」


 北上がエアガンを差し出した。


「ありがとう」


 プラスチック製ハンドガンのバレルを握る。


「予備のマガジンは校門にあるわ。みんなと源先輩もそこにいる」

「わかった」


 受けとったエアガンをホルスターに入れて、腰に巻く。


「相変わらず、副部長に連れられて出勤なんて、演出だけは重役なのね」

「重役は仕事が多いから眠たくなるんだよ」

「よく言ったものね、ポスター1つ作れない重役さん」

「…ぐうの音もでないんだよなぁ」


 これだ。

 俺と北上は、いつしかこうやってコミュニケーションを取っていた。

 初めから、そんな友達みたいな関係じゃなかった。


 ―知らない?なら一緒に行きましょう。


 お互いに自分の目的の為に、協力関係みたいなものを結んだにすぎないのだ。


 ―行かせてほしいの。えぇ、貴方が犯した罪のために。


 よし、なら俺はもう、大丈夫だ。

 みんな、俺の近くにいたのだから。



<次回予告>

「うん。大丈夫、君たちの足を引っ張るようなことはしないから」


捕獲依頼が始まる。

しかしその依頼に潜む違和感に、基木多含め対異部員は気づかないでいた。


次回、霜月編第8話『餌』

それは、小さな宣戦布告。


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