8話 白竜
この一帯は見渡す限り禿げていて、まるでカオダルマの頭部のように寂しい。
「何もいない」
「「いるいるだろ いなくない?」」
カオダルマが上を見てぼやいているので、目を凝らすと空に歪みが生じているのが分かった。
「まさか幻影竜か」
「ミラージュドラゴンなんて珍しいじゃん」
『何しにきた人間』『そんな醜い魔物を連れてくるとは』
声が頭に響く。
「俺達は白竜の話を聞いてここに居るのではないかと立ち寄った。ここに居るのはお前達だけか?」
その問いに歪んでいた空間から三体の幻影竜が姿を現した。
『白竜だと?』『白竜などここにはおらん!』「人間よここには我等しか居らぬ。立ち去れ」
やはりいないのか、期待していたのにと溜め息が出てしまう。
「「うそうそだ うそついてる?」」
「なんだと?達磨の魔物よ、我等を疑うのか」
「「はくのにおいにおうぞ くさい?」」
「だそうだが」
『小賢しい!』『人間が噛み砕いてくれる!』「黙れ。疑うなら力づくで聞き出してみるかの?」
カオダルマは嘘だと言い、俺も信じることにして幻影竜の問いに悩んで見せたが、本当に居るのならと頷いた。
『『強がりを!』』「良かろう。では行くぞ」
カオダルマが風魔法だか何だか物凄い吸引力で幻影竜を口に引き寄せている。
俺とアイは二人一組で1体に、幻影竜は中級種だが身体は人間サイズしかないので肉弾戦がしやすいほうではあるが、その牙と爪による破壊力は竜種だけあって高い。
アイが魔法、俺が剣で何回か斬りつけたが衰えることなく向かってくる。
爪の一撃も重く剣が折れる勢いだ。
俺が爪撃を弾き返すとすかさず、「ライトニール!」アイの雷魔法を放って直撃させるがまだ墜ちない。
『この醜い魔物がっ!』『上手く飛べぬ!』
俺達二人を相手どっていた幻影竜がカオダルマに飛んで行き尻尾で弾き飛ばして二体の幻影竜をカオダルマの吸引から救い出してしまった。
「チッ!ジルを喚ぶ。援護してくれ」
「早めにね!」
向かってくる一体にアイが防御魔法を展開させて防いでくれている間に俺は召喚口上を唱え銀竜ジルコートを喚びだした。
『『銀竜』』「おお銀竜殿!」
「え?なに?マスターどういうこと?」
「ん?」
「え?」
何故か幻影竜達に敵意がなくなって戦闘が終わり、三体は静かに地面へと脚を着いた。
カオダルマも無事みたいで何より。
「騙してすまなかったのう」
「どーいうことだ?」
「銀竜殿の姿を見たからにはもう争う必要などない」『白様は銀様の安否を心配してらしたぞ』
「私の?」
すると、幻影竜達の後ろから一人の少女が歩いてくる。
「誰だ?女の子?」
『白様だ』
「白竜…」
「うっそ、ちょー可愛い女の子じゃん」
人型の白竜を見たジルコートも同じく人型になって対応する。
「白…」
「久しぶりです。今まで心配していたんですよ」
「あの、その…ごめん」
「まぁ、元気そうで良かったです。青が暴走し銀が敗けたと聞いてそれっきり。なんの音沙汰もなくどれ程心配したか」
「あのだからね、ごめんって」
「…召喚契約をしたんですね」
「ええ。黒も」
「!!?黒もですか!?そこの男とですか?」
「いいえ、この子と。黒も私を心配して来てくれたの。そして成り行きで契約を行ったみたい」
「…そうでしたか。黒が先に見つけたんですね、私は敗けたんですね」
「そんなことない。心配してくれてありがとう」
「なら私も契約する!」
!?突如とんでもないことを口にした白竜に、ジルコートは困り果ててしまう。
「いやそれは…マスターァ」
『それはダメ』
「黒」
『貴女には貴女にしか出来ない使命がある。全うし、導いて』
「言われなくてもわかっています。銀の元気そうな顔見れたので満足しました」
「それは良かったわ」
「では私達は行きます。忠告しておきますが、悪魔の進行は早いですよ。」
「なんだと?」
「私達も食い止めてはいますが手数が足りません。それに協力的ではない竜も多く、敵対する者も少なくありません。ですので急いで下さい。」
「君達は何処へ行くんだ?」
「…貴方達にはこの先にある街に程近い渓谷を任せます。それでは」
人型から竜の姿になっていく白竜。その純白な鱗は美しく、見るものを釘付けにしてしまう。
人型は美少女って感じだが、聞いていた以上に竜の姿になった白竜は美しい。
『銀またそのうち会いましょう。…黒もね』
「ええ、必ず」
『ついでね』
そして白竜は三体の幻影竜を引き連れ、飛び立っていった。
「いつノワを出したんだ?」
「なんか出たがってたの感じたの」
『…』
白竜達と別れた俺達は、ジルコートとノワルヴァーデを解除して当初予定していた街とは違う街を目指すことになった。
白竜の話では程近い所に渓谷がある街、そしてこの先、当てはまるのは山の反対側の草原を抜けた先にあるクレバスの街で間違いないだろう。
ずっと一緒に付いてきていたカオダルマとはここでお別れし引き返してもらった
「良い体験出来たな」
「ほんとよねーまさかカオダルマが仲間になるなんて」
「そっちか!」
「あっ ホワイトドラゴンの話ね」
「美しかった。あれをお目にかかれるとは」
「ジルに怒られるよ」
「ジルはジルで綺麗じゃないか。まぁカオダルマには助けられたな。この地方に来るときはお土産でも持っていこう」
カオダルマがいないので獣道をひたすら下るしかないのだが、その先に何か大きなモノが通った道があった。
「何が通ったか知らんが結構デカイな」
「ドラゴンじゃない?」
「白竜か?あの竜達以外にいるとは思えないが」
俺達は警戒しながら進むが、何事もなく日が暮れ始めたので野営の準備をし始めた。
「今日何食べる?」
「肉あんの?あれば焼いてくれ」
「はいよー」
冒険者は主に手早く解体、処理が出来るウルフタイプや怪鳥の肉が主流となる。
ボアタイプは仕込みに時間がかかる為、旅の途中は好まれないが店で調理された肉は柔らかく美味しい。
モンキータイプは好き嫌いがハッキリ別れる味となるし、ウルフタイプと同じ雑でもこちらの方が臭みも強い。
ぶっちゃけて言えば油さえあれば唐揚げにして食べれば大差ない。
今回は手軽な焼き肉を所望しアイが焼きはじめ、そろそろ食えるなとそんなことを思っていたら先程の何かが通った道から気配を感じた。
「アイ!何かいるぞ!」
「 信じらんない!もう夕食だってのに」
ソイツはメキメキと邪魔な木々を薙ぎ倒しこちらに進んでくる。
そして焚き火の灯りに顔が照らされると、何なのかがハッキリ分かった。
「グランドザウラーじゃねーかあれ」
「肉は死守するよ!もう少ないんだから!」
グランドザウラーは2足歩行の恐竜タイプ、どうみても肉目当てで俺ではなくアイを見ている。
ここで暴れられたらテントも道具も潰されてしまうため下手に動けない。
どうしたもんかと考えて閃いたのが、アイを囮にする作戦。
まさかこのサイズが来るとは思わなかった。いや、このサイズを想定して獣道から離れてテントを張ったが、匂いに釣られて来るなんて想定外だ。
「アイ、ヤツを引きつ「絶対嫌っ!」
「なんで!?」
「囮になれっていうんでしょ!?」
バレてた。
「ならそのフライパンを寄越せ」
「投げたらこれで叩くからね!」
俺はそぉっとアイからフライパン受け取り、ヤツの斜め横を走る。
「グォ?」
「こっちだ!これが欲しいんだろ?」
「グォォン」
よし、着いてきた。これで心置きなく戦える、アイが。
少し離れたのを確認しアイに合図を送ると、グランドザウラーの背中に水の矢が飛んできて悲鳴を上げている。
その口目掛けて喚び寄せたバスターソードを放り投げた。
「ゴッ!」
声が出せず悶えるグランドザウラーに対してアイがトドメに尻尾を切り落とすと崩れ落ちるように倒れた。
「余裕」
「囮嫌がってたくせに」
「肉を守りながらなんて無理よ」
「いつも俺を守ってくれるじゃん」
「肉のほうが大事」
酷い仕打ちだ。
喉奥に突き刺さった剣を解除し野営地点に戻り一晩を明かした。
半日も歩けば下山出来る距離に差し掛かっていたのだが、ここから魔獣が増え始め幾戦もこなさなければならなくなってしまった。
「急に増えてきたな」
「でもウルフなら食糧になるよ」
「ウルフならいいがボアは食えんからな」
麓が近付くとそれに伴いマウントウルフ、ブラックボア、ディープモンキーからの攻撃を受け始める。ディープモンキーは持ち物狙いか。
きっとグランドザウラーに追いやられて下に降りてきたのだろう、少し可哀想にとは思ったが此方も必死なもんで手心を加えてやる余裕はなく、襲ってくる魔獣達を次々と斬り伏せてゆく。
「あっ出た出た」
「ようやく平原だ」
「ここからずっと平原?」
「少しずつ起伏が上がっていき街に着く頃には此処より高い位置になってるよ」
街まで5日の距離。
[幻影竜]
ミラージュドラゴン。
全長は中級種でありながら尻尾を含めても人間サイズしかない。しかし、その身体に比例するかの如く、爪の斬撃、顎の強靭さは上級種に匹敵するほど。空間を歪ませ、姿を消す事柄出来る。
[白竜]
ホワイトドラゴン。
純白な鱗を持つ上級種である白竜は平和の象徴と見なされる国も少なくない。
近接戦闘はイマイチらしいが、それを補う以上の魔法攻撃と防御に長けている。
[グランドザウラー]
恐竜タイプ。リザードタイプとも竜種とも違うが、リザードタイプとほぼ代わり映えせず大きさだけで分類されている。
グランドザウラーは強靭な顎を持ち、長い尾を用いて攻撃してくるが知能は低い。




