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22話 紫毒竜

 


 あの町を出て2日目の昼下がりだった。


「サキ!後ろに!」

「すまない!」


 その者の毒を帯びたブレスが俺達を襲うも、アイが防御魔法を張ってくれたお陰で免れたが互いに満身創痍である。

 もう頼るしかないと、アイに守られながら口上を唱えてジルコートを召喚する。


「アイは一旦下がってくれ。体勢を立て直すぞ」

「うん!」

「紫毒ね」

「ああ。あの竜、突如襲って来やがった」

「厄介な者に目をつけられたものね」

「ただ街道を歩いてただけなんだが。それに紫毒竜なんて初めて見たぞ」


 俺達は空から舞い降りて来た紫毒竜に突如として襲われた。

 上級竜と聞いていたので、言葉も通じるだろうと投げ掛けたが応じるつもりはないようだ。


「ジル、相手は任せたぞ!俺も援護する」

「ええ。よろしくね、マスター」


 ジルは舞い上がった。それに釣られるように紫毒竜も高度を上げた。

 二竜が上空でブレスを吐きあい、両者はそれをかわしながら距離を詰め、爪撃へと移行した。

 鏡のような同じモーションで同じ攻撃をしてまるでジルコートに合わせているかのようだ。


「サキ」

「息は整ったか?」

「うん。私もノワを喚ぶね」

「頼んだ。此処からじゃ銃も当てられない」


 アイはノワルヴァーデを喚び出し、加勢に行かせると、二竜を相手どっている紫毒竜は余裕が無くなったのか先程とは動きが変わり中距離での攻撃を主としていた。

 しかし隙を突かれ、ジルコートの球体のブレスが直撃して怯んだところをノワルヴァーデによって叩き落とされ、その途中で姿を消した。


「何処行ったの?あの光りってまさか」

「ああ。召喚獣だったようだ」

『主、何か来る』

「マスター、下がって」


 俺達の前へジルコートとノワルヴァーデが降りてくると、見上げていた先の空から突然、一人の黒い翼を持った男が現れた。


『噂以上の実力ですね。私のアレスを退けるとは、何とも頼もしい』

「天使」

「え?ジル、天使って翼が白いんじゃないの?」

『主、それは何百年も前の話』

「そーなの?」

「俺も初めて見たからわからん」

『挨拶がまだでしたね。私はアドラメレクと申します。お見知り置きを』




  1000年程前、天界と魔界で地上を巻き込んだ戦争があった。異界通しの戦争は記録上二回目であり、後に大樹の崩壊と呼ばれる。

 この戦争で魔界は勝利し、天界を地の底へと追いやり、魔界は天高くにそびえた。

 天へ昇った悪魔は黒き翼が生え、地に落ちた天使は蝙蝠のごとき翼が生えたとされ、神により世界樹は反転させられてしまった。

 古き竜達は天使の使いと言う使命が残っており、現悪魔に仇なす者は裏切りとされている。


 そして現在、1000年近くおとなしかった地の底へと落ちた天使がこの数十年の間で各地を襲い、力を付けているのには訳があった。

 戦争終結後の条約で、サタンとエヘイエーにより1000年間は戦争をしてはならないと決められたのだが、その期間が迫っていたからだ。

 だが、悪魔の王がケテルに変わると、他の権力者達を各地に放った。

 戦力を分散させるためである。そう、彼は戦争など反対だったのだ。

 その各地にいる悪魔を討伐させるべく、情報を流しているのはケテルだ。

 しかし、悪魔の喚ぶ召喚獣に勝る人間が中々いない為、思ったよりも被害が大きく、分散させたこと事態間違っていたのではないかと思い始め、どうにかせんとして天使にお声がかかったのだと、アドラメレクは語った。


『そうケテル王は語ったのですが、私には何かひっかかるのです』

「分散させた位置か」

『それもございます。分散させるにしても殆どがこの国に居ります。きっと何か別の理由がありましょう』

「それで様子を見に来たと」

『はい。実力も試させて戴きました。貴方方なら問題ないでしょう』

「問題?」

『私のお願いを聞いて下さい』

「聞ける願いか?」

『ええ。悪魔将を捕まえて欲しいのです』

「捕まえてどうする?」

『天界に連れて行き、情報を聞き出します』

「なるほどな、しかしまだ場所の検討はついてないぞ」

『大丈夫です。場所は把握しております』


 この話を鵜呑みにしていいのか悩んだが、悪魔を退治出来るなら連れてってもらおうじゃないか。

 クインテットの街で手に入るはずの悪魔の情報と同じ場所かもしれない。

 アイは問題ないようで、竜達に顔を向けると黙って頷いたので俺はその話に乗ることにした。

 

『お疲れでしょうからお乗り下さい』


 黒翼の天使アドラメレクは先程まで対峙していたのとは別個体の紫毒竜を喚び出し、目的地まで行ってくれるそうだ。

 悪魔や天使は召喚しっぱなしということが出来るが、人間には出来ない。

 長時間喚び出したままだと体力を奪われ、意識が途絶えてしまう。

 それを見越したのか、アドラメレクが代行してくれるようだ。


『これから向かう所は、クインテットと呼ばれる街から北に進んだ砂漠地帯です。あそこは寒いのでお気をつけ下さい』


 アドラメレクは俺達を乗せて飛んでいる紫毒竜の横を並走している。


『そこにいるのはザフキエルです。ザフキエルは先代の王から仕える古参ですね』

「ソイツは何を喚び出すんだ?」

『申し訳御座いません。そこまでは私にも分からないのです。』

「いや、大丈夫だ」

『しかしザフキエル本人は貧弱ですよ』

「そうなのか?」

『古参連中は皆、年寄ですから』


 色々と情報を聞いていると、草木が一切生えていない不毛の地であるノース寒砂漠に着いた。

 この砂漠のどこに居るかまでは解らないということなので、おぼしき場所を探していく。

 夜になる前にカタを付けたいが、日没まで時間がなく今日の探索は諦めるかと思っていたその時。


『サキさん。この先に魔物を食い散らかした後があります』


 アドラメレクが言う場所へ来てみると。


「サンドワームの残骸だ」

「ほんと悪魔って雑食よね」

「なぁアドラメレク、その年寄連中も魔物食って力付けてんの?」

『いいえ。古参は召喚獣に力を与えているのでしょう』

「魔界の召喚獣って飯食うんだ」

『魔界は契約方法が特殊でして』


 と紫毒竜がなにかを見つけ小さく鳴いた。

 眼を凝らして見てみると砂漠を這うように向かってくる蛇みたいな魔物がいる。


『まさか!これほどとは思いませんでした』

「どうしたんだ?」


 近付いてきた魔物の姿を目前にした俺も声を失った。


『アポピス!』

「悪魔の間で神話の怪物を引っ張りだすのが流行ってんのかよ」


 その巨体がもう目の前まで来ている。腹をくくるしかなく、俺達は戦闘態勢に移行した。








  [紫毒竜]

 アレスドラゴンとも呼ばれる。

 上級種で毒竜の中でも3本の指に入る実力をもっている。

 一般的な竜種と同じ形状。カスミ色の鱗をもち、ブレスによる緑の炎は毒を帯びており、燃やすだけだはなく腐蝕もさせる。



[日蝕竜]

 アポピス。

 ?級。全長10メーターを超すサンドワームをエサにするほどの大きさをもつ。

 竜種であるが、翼も手足もなく、蛇のような長い胴体をしている。

 顔には赤い眼が無数に付いており、その眼の中には人間が入っているとされる。

 太陽竜と相反する存在。

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