19話 機械兵
首なしの抱擁竜が立ち上がり、両腕を振り暴れ回っている。
片方は生え途中のため、血を撒き散らしていた。
「あのチビ!最後の置き土産かよ」
まだ息があった指環竜を見、アイが氷魔法で息の根を止めた。
「ごめん」
「いや、竜は生命力が強いからな。仕方ないさ。それよりもう一戦行けるか?」
「もちろん」
がむしゃらに暴れるだけの抱擁竜を水魔法[ウォーターハザード]で壁際まで押し流して雷魔法をぶつける。
その間にシュヴェーラを喚び出して全ての剣を四方から突き刺した所で、崩れるように倒れた。
「俺達の勝利だな」
「アハハッ。ようやく召喚出来たね」
「する暇すらなかったしな」
しかしまだ終わりではなく、この二体を召喚した悪魔がいる。
俺達は一つ一つの扉を開けていく。
扉の向こうは狭い部屋、むしろ部屋とも呼べない狭さ。
警戒しながら4枚目の扉を開けると中から声が響き渡ってきた。
『来るな来るな来るな』
「お前が召喚主か」
『やめてくださいやめてくださいもうしません!ほんとです!』
「聞ける願いじゃないな」
『ここには何も居なかったんです!森に出て食べるしかなかったんです!それでも足りるわけない!』
「なんの話だ?」
『あぁー!クソ!クソ!クソ!ケテルの奴めぇ!俺をこんなところに送りやがってぇー!!このゲブラーを捨てるというのか!!』
「もう消えてもらう」
『ああダメだ。こんな所で取り戻せる訳なかったんだよ。クリフォトォォッ!!ケテルゥゥッ!!許さんからなぁーっ!!』
頭を抱えて叫び散らす悪魔に拵えを降り下ろし、悪魔は黒い水溜まりとなり消え去る。
「あの悪魔捨てられたのかな?」
「知らん。抵抗もなくてやり易かったがな」
「なんかサキの方が悪く見えたよ」
「なんであれ虚悪は殲滅すると決めただろ」
峻厳の悪魔[ゲブラー]は此処に喚ばれて力を取り戻そうとしたが、如何せん魔物も人もいないこの場所ではどうすることも出来ず、森へ出て食らっていたがそれでも到底足りず下級悪魔程度の力しかなかった。
悪魔を倒し、広間に戻った俺達は階段の正面にある扉を開けると他とは違い更に奥へと繋がっていた。
奥へ進んでいくと、狭かった通路が拓けて大きな金属門が立ち塞がる。
「このデカいゲートって開くのかよ」
「所々傷ついてるね。あの悪魔も開けようとしたのかな」
「だろうな。まだ新しい傷だし」
「うーん、でもどうやって…あっ!ここに穴あるよ!見て!」
「二穴?鍵穴か?」
「アーシェから貰った鍵入るんじゃない?」
「あ!そうか!」
アイテムボックスからコの字の鍵を取り出しその鍵を穴へと入れてみると、ピッタリとハマったのだ。
その鍵はゲートと同化し消えてしまったが、ガコンッと音が鳴りゲートが解放されていく。
「すげぇ。まさに古代文明だな」
「こんなの一生に一度かも」
ゲートが完全に開いたのだが、中は真っ暗。
「入るぞ」
「サキどうぞ」
「…」
ゲートのレールから1歩中へ入るが暗くて奥が見えず、恐る恐る進むと無機質な声が聞こえてきた。
「警告。現段階で07のマスターは存在しません」
「は?なんだ? 」
「声紋確認しました。現時点をもって貴方を07のマスターと登録しました」
「いやいやいや、俺のこと?」
「警告。この登録破棄はマスターの死亡が確認された場合のみです」
「答えになってないんだけど」
「話者の認識により起動いたします。起動いたしますか。実行中…」
「実行中ってまさか!!?」
「クリア。起動します」
辺りが明るくなり、目の前に10メーターを超えるであろう機械兵が突っ立っている。
「サキ…これって機械兵よね?」
「!ビックリさせんなよ。これ起動したぞ」
「嘘!?なんで!?」
機械兵の眼に光りが灯り、俺とアイは身構えて数歩下がると機械兵が片膝を付き此方を見つめてきた。
「声紋、網膜、一致させます。クリア。容姿による識別、クリア。お帰りなさいマスター」
「俺と契約したのか?」
「これよりGF-07はマスターの命を全うします」
「あ、ああ。よろしくな…名前はないのか?」
「コード・ネーム=バルディエルの名を受けています」
「よろしくなバルディエル」
「登録完了。次作戦まで待機モードに移行します」
姿を消す際、頭の中に情報と口上が流れ込んできた。
「凄い!アーティファクト獲得しちゃったじゃん!」
「とんだめっけもんだったな。しかしカッコ良かったなぁ」
「うんうん!今度乗せてもらおうね」
棚ぼたとは正にこの事だろう、機械兵[バルディエル]という新たな召喚獣と契約し、俺達は遺跡を後にした。
[GF‐07 バルディエル]
遥か昔に造られたとされる機械兵。黒と灰色の装甲色。
自我をもち、ありとあらゆる戦況にも対応出来るだけの武装がありマスターの命を一番とする。
因みに型式のGは地上戦、Fは第三世代初期モデル、後の数字は開発順である。
(頭部は凹のゴーグルタイプ)