18話 抱擁竜・指環竜
俺達はギルドで書いてもらった雑な手書きの地図を頼りに進んでいるのだけど、道、草、川、ココ、と物凄く曖昧な地図で迷いながら目的地を目指している 。
「このまま真っ直ぐ行けば着くと思うんだがな」
「その地図さぁ、地図って言えないよね」
「丁寧なお姉ちゃんだったんだけどな、こーいうのは苦手みたいだ」
「あの子ね、確かにってサキ、後ろからまた来たよ」
道を逸れていることもあり、やたら魔蟲と交戦してしまう。
ビータイプや甲殻タイプ、スパイダータイプ、たまにモスタイプと選り取りみどり、ビータイプの中でもデッドニードルと呼ばれる奴は小型ですばしっこく、猛毒の針を持っている為危険な奴も混じっている。
更に厄介な甲殻タイプに分類されるダイダロクロスという蟲もおり、足止めを余儀なくされてしまう。
魔法攻撃無効と物理攻撃半減の常時発動型スキルを有しているので非常に倒し辛く、戦わず逃げるが正解だ。
「終わりだ!! ハァ、片付いたか」
「ビーってすぐ仕掛けてくるよね」
「肉食だしな」
「見た目はスパイダーよりマシだけどね」
「あーそれは言えてるな。あ、あの川だろ」
うっそうと生い茂る木々の間が開け、川が流れていた。
川幅が広く、水深も深いようで底が見えない。
「随分深いな。橋なんてないだろうし」
「ノワ喚ぶ?」
「そうして貰おうかな。いや、待て」
「なに?どうしたの?」
「あそこ、森羅竜だ」
川の向こう岸には樹木を背負ったフォレスドラゴンとも呼ばれる森羅竜の姿があった。
温厚な性格で怒らせない限りは何もしてこない竜のはずで、その竜が此方を見つめてじっとして、やがて。
『人間よ。森奥に何しに来た』
『この先の遺跡を目指している』
「サキ?」
「念話だ」
俺にしか送っていないらしい念話を続けてくる。
『そうか。なら妾の願いを聞いて欲しい』
『なんだ?』
『最近、そこに住み着いた者がいる。其奴のせいで森の生き物が喰われている。妾では止めることが出来んのだ』
『分かった。善処しよう』
『助かるぞ。此方へ渡るといい』
森羅竜の咆哮が森に響き川はせき止められそこに1本の橋が現れ、俺達はそこを渡って森羅竜へと向かい合った。
『こっちだ』
案内された先には獣道ならぬ竜道が出来ており、そのまま真っ直ぐ遺跡へと繋がっていた。
そして見上げる。
「高いな。入口ってあそこにあるやつか?」
「森にこんなのがあるなんて」
周りの木々より倍くらい高い岩肌の一本の柱がそびえ立ち、その天辺には半ドーム状の入口らしきものがある。
『妾はここまでしか来れん。中に入るまで魔法は受け付けんぞ』
「じゃあ転移が使えないのか」
『そうなるな』
どうやら対魔法の何かが施されているようで、柱の周囲では魔法が使えない。ならばとジルコートを喚びだした。
『なんと、銀ではないか』
『久しくね、お婆ちゃん』
『通りでこの者から懐かしい匂いがしたのか』
『この人に助けてもらったの』
『そうかそうか。ならば妾と同じだな』
二竜で何やら話し込んでいるみたいてで少しの間沈黙が流れ、やがて。
「お待たせ、さぁ掴まって」
「もういいのか?」
「ええ」
俺とアイはジルコートの背に乗り、上へと運んで貰った。
『頼んだぞ』
「ありがとうな、ジル」
「ありがとー」
「二人共、気をつけてね」
柱の上へと来た俺達は、そこにある金属製の扉を開けた。
「なんだこれ」
「信じらんない。何処かに繋がったってこと?」
その扉を潜ると別の何処かへ繋がっているようで、柱の上とは思えないほど広かった。
この世界とは思えないような建造物が並び、あちらこちらに人間サイズの機械人形が転がっている。
しかし、その建物も機械人形も朽ち果て錆やコケで覆われていた。
「凄いとこだな」
「ねえ。でも殺伐としてるね」
「ああ、寂しい所だな」
「生物いそうにないね」
しばらく歩いていたが生き物を見かけることはなく、どんどん奥へ進んだ先の最奥の扉から下へと続く階段とその横にはガラス張りの四角い箱が並ぶ。その階段は延々と続いているように見え、アイとどうするか話合い降りることとなった。
結構な時間が経っただろうか、ようやく階段を降りた先の広間に出た。
「全面金属だぜ」
「大昔はこんな部屋が当たり前だったのかな?」
「これは特別だと思うけどどうなんだろうか」
「いっぱい扉があるよ」
左右にそれぞれ3枚、正面に1枚の扉があり、それも大昔の物なのに外れているものは無かった。
取り合えず正面の扉に入ってみようかとなり、歩きだしたその時、床から光りが放たれ部屋に満ちた。
2秒程目を瞑ってしまい目を開けたとき、それは目前にいた。
とっさに盾を出して構えたが俺とアイは階段へと弾かれてしまう。
「クソ!大丈夫か? 」
「なんとかね 」
「竜なのか?」
部屋を包んだ光りが消え、俺達の正面には筋肉質な竜と小さな竜の二体が並んでいる。
「グォォォォッ!!」
「抱擁竜に指環竜だと!?」
「あれが…なんでこんなところに」
俺達は即座に起き上がり剣を構えると小さな竜がデカイ竜へ魔法を掛け、抱擁竜の身体が白いベールに包まれて更にもう1度、今度は黄色いベールに包まれた。
「あれは攻守向上の魔法よ!」
「底上げしたのか」
抱擁竜は地面を蹴り、此方へ距離を詰める。
「それなら此方にもある!アイ!」
「りょーかい!」
アイの防御魔法が俺に付与すると同時に前へと駆け出した。
襲い来る抱擁竜に対してバスターソードを構えて前へと出る。
単なる突進と思ったが、拳を突き出し俺を殴りつけてくるのを剣を横に構えて 攻撃を止める。
「重いっ!」
アイに目線を送り、俺達は狙いを指環竜へ移した。
抱擁竜の動きを止めてその横を走り去ろうとしたアイだが、もう片方の拳に襲われ吹き飛ばされて拳を振るった勢いで身を捻り尾による横薙ぎでアイも後方へと弾かれた。
壁に打ち付けられたアイだが、すぐさま起き上がる。防御が間に合ったようで良かった。
抱擁竜によって指環竜は完全に守られているので予定の変更を余儀なくされた。
「先に抱擁竜をやるぞ」
「じゃないと行けそうにないもんね」
頷き合い、二人同時攻撃を仕掛ける。
走り寄るアイに抱擁竜が前へ、それに対して俺は進行方向へ喚び出した片手剣を投げると横腹に当たりはしたが、弾かれてしまう。
しかし、それにより此方に意識を向かすことが出来き隙が生まれたのだ。
その一瞬、距離を詰めたアイの剣が抱擁竜の胴体に突き刺さった…かのように見えたが、その突きも防御力が向上した鱗によって弾かれた。
弾かれて怯むアイに抱擁竜は頭を振るい、突き飛ばす。
だが此方も一人じゃない。喚び戻したバスターソードの重さを利用して振りかざし、抱擁竜の片腕を斬り取ったのだが、それに怯むことなく反対側の拳で殴り飛ばされ、しかも今度はダイレクトに喰らったしまった。
それでも隙を与えてはならない。指環竜は回復魔法持ちで、時間を与えてしまうと折角斬った腕も生やされてしまう。
俺達は起き上がり、再び詰め寄る。
「アイは守りを!」
残っている腕はアイ側だ。必然的にアイが狙われるはずであったが、抱擁竜は尾をスイングさせてきた。
ならばと、拵えに持ち換えてカウンター魔法で弾き返し、体勢を崩した抱擁竜の顔面にアイが盾を叩きつけた。
俺の方へと向かされた頭、その眼球に拵えの剣先を突き立て、更にもう片眼にも片手剣を突き刺す。
叫び散らしながら後退りする抱擁竜にアイの雷魔法が放たれる。
これで容易くは回復去れまいと思っていると、指環竜の姿が見当たらないことに気付いた。
「指環竜がいない」
「え?」
辺りを見渡すと、抱擁竜の尾に乗っている指環竜を見つけた。
「アイ!ヤツの尻尾だ!」
俺は剣を、アイは魔法を指環竜に放ち、双方の攻撃を受けて転げ落ちる。
「隠れてたの?」
「触れたと言うことは欠損部回復を行ったんだ」
どうやら遅かったみたいだ。抱擁竜の腕は生えて来はじめており、眼に刺さった2本の剣はズルズルと引き抜かれていく。
「アイはチビにとどめを刺すんだ!」
「任せて!」
回復に専念していたお陰で防御力向上も無くなったはず、眼が見える前にカタをつける為、長剣を喚び出し転移魔法で首元へと転移する。
アイは指環竜を炎の渦に閉じ込めたのだが、中から光りの膜に包まれた指環竜が出てきた…だがそれはアイにとって想定済みだった。
魔法と物理防御の魔法は同時に唱えられないのを知っており、炎は囮で本命は斬撃だった。
アイの片手剣が指環竜の頭を叩き斬った、とほぼ同時に。
「届けよぉっ!」
俺の長剣が抱擁竜の首を落とした。
「終わったな」
「今回の私達って飛ばされてばっかだったよね」
「全くだな。あちこちイテェよ」
と談笑していると、頭の無い抱擁竜が起き上がろうとしていた。
[森羅竜]
フォレスドラゴン。知能が高い中級種。
全長4メーター程で4足歩行、翼はなく、背中には小さな森がある。
その性格は温厚で、森を汚す者以外は襲わない。
ちなみに、背中の木に成る実は甘くて瑞々しいと評判が高い。
[抱擁竜]
ファフニールドラゴン。全長は人間より少し大きいくらいの大きさで、筋肉の塊のような中級種。
翼はあるが飛ぶことは出来ず、攻撃時のバランスを取る役目をしている。
格闘戦を主とし、ブレスは全体攻撃に行う。
[指環竜]
ニーベルングドラゴン。1,5メーターほどの小さい竜。
指環竜自体には殆ど攻撃力がないが、サポート魔法、回復魔法に特化している。
自分自身にも防御魔法を掛け、守りに徹する戦略を取る。